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ミユキヴァンパイア マゲーロ4

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 今回のミッションはこの町に住むとある女性と接触して欲しいということだった。最近こちらに越してきたその女性がどうやら我々の同類ではないか、というのだった。今までの調査で分かっているだけで、彼女は十数年ごとに何度も引っ越しを繰り返しているが、年齢がほぼ変わらないらしい。八百比丘尼かサンジェルマン伯爵か、といったところか。
 私たち自身は次の対象に擬態していくことで寿命はないに等しいが、人間をコピーしている以上、コピー対象の人間の寿命に等しい死を迎えることになる。べつにそれで構わないのだ。私たちは細胞の集合体であって、どの細胞でも同じで、もとはと言えばコロニーにいる誰かとも同じものなのだから、一部が死んでも全滅しないかぎり生命は尽きないし、個体として生き死にを気に掛けるという発想さえない。
 ただ、擬態した人間の性格までをもコピーするため、時には桁外れな執着心をそのまま受け継いでしまうことがあり、まれに我々にとっては非合法な手段で人間の寿命をこえて生き延びようとしたがる輩もいないとは限らなかったのだ。例えば吸血行為で対象の人間の遺伝子を自分の細胞に取り込み、その人間の寿命ごと横取りしてしまう、など。詳しくは分からない。ルールから逸脱する行為は処罰の対象だから大っぴらには教えてもらえない。
 そういうことをされてしまうといつかどこかで露見して人間社会では問題になる。地下世界で暮らしている我々すべてのエイリアンにとって不具合が生じる。だから、時々こうしてパトロール要員が必要になり、怪しいものを排除するよう命じられている。
 そう、排除しなければならないのだ。我々がこの地球上で生き延びていくためには許容範囲を超えて増殖する細胞は始末する。人間もたくさんの細胞の中でがん細胞が増殖すれば切り取るなり、放射線で壊すなり、しているのと同じだ。
 そういった常識から逸脱してしまった輩は、擬態した人間の強欲や執着の影響を受けて本来の自分たちの役割を見失っている場合が多い。彼らに気づかれないように接触し、懐に入りこみ、もめごとになったりしないよう、穏便に対処しなければいけない。だから今回のこの任務は非常に重要なことなのだ。
 マゲーロがあののんびり兄弟ではなく私というかミユキを抜擢したのは賢い選択だったといえるだろう。子供であることで相手を懐柔させやすく、ミユキはそこそこ要領よく立ち回れるタイプだから。
 まずはその「田中ミラ」を探さなければ。
 
 
 
4章
  タカアキたちが来た翌朝、
 「おーい、ミユキっち、起きてるか?」
 声をかけられ窓を開けたらマゲーロが居た。ここ二階なのに身が軽いのね。
 「まずは慣らしで明日一日エージェントMと交替だ。夕方また来るからその時に」
 と言うだけ言って、あっという間に消えてしまった。
 ええ、いきなり明日?明日の給食が好物の揚げパンだったのに。後で記憶交換しておいしかった記憶だけがわかるなんて虚しいじゃないのさ。
 夕方、約束通りマゲーロが窓の所に来て、私は彼をポケットに入れてお母さんにはちょっと遊びに行く、と言って庭に出た。例のゲートのある木の根元に行くと周囲を見回してからしゃがみ込みゲートに手を入れる。マゲーロと一緒なら入れる。
 中に転がり込むと、大きくなったマゲーロが立っていた。こっちが小さくなったからなんだけど、どうも大きいこいつには慣れないわ。前みたいにちょっと歩いていって、チューブのステーションとやらに到着。まもなくやってきたそれに乗り込んで以前タカアキたちと行った場所へ向かった。今回はきょろきょろしないように気を付けた。
 開いている部屋に通され、そこで最初にエージェントMと記憶交換というのをやって、どんな暮らしをしているのかが分かったんだけど、思ったほど面白くはなさそう。
 Mと交替で私はMが暮らしているお家に連れていかれた。その家のお母さん役は私とMが交代してることを知らないけれど、私は記憶が全てあるのでうまく合わせてぼろは出さないようにできる。
 でも最初はさすがに緊張した。初めて会う人間にお母さん、って呼ぶのもぎこちなくなるし、食事も違うし部屋も違う。いくら記憶があっても違和感があることこの上ない。だから、最初は一日だけ試してみろ、ということだったのね。私がこのミッションをクリアできるかどうかに、エージェントMの仕事がかかっている、ってわけね。気が重いことだわ。
 地底生活って言っても、あの世界にもここと同じように家や学校があって、別段面白くもなかったわ。コピー体を作られた子供たちが、初めからそうだったと思いこまされて暮らしているんだって。私みたいに記憶を保持したままここにいるのは例外だからくれぐれもばれないように、と釘をさされたけどね。
 それで最初は一日、しばらくして3日、一週間、と慣らし期間が増えていって、その都度Mと記憶を交換したから、何やってたかわかって、なんとかうまく二重生活をこなしたけどね。こんなややこしいこと、私じゃなきゃ、あの兄弟じゃきっと無理よねえ。
 だんだんかったるくなってきたけど私も最初に地底に行きたい、って散々ごねた手前、今更文句言えないし。
 
 そんなこんなで、ついに本格的に潜入するから、長期間交替、って話が出たのが梅雨が明けもうすぐ夏休みって時期だった。「時間がかかるかもしれないから授業に差し支えないようなるべく長期休暇の時期にあてたほうがいいだろ」とマゲーロは言うのだけど、楽しみな夏休みが一部潰れるのは面白くないわよ。「だったら8月の家族旅行の前までには終わらしてよね!それと、夏休みの宿題も終わらせといてよ!」と頼んでおいたんだけど。
 少なくとも遠足が終わった後でほんとよかった。楽しみにしてたんだもの。いくら記憶がわかったところで自分が体験するのとは違うじゃない。まあマラソン大会みたいな嫌な行事はエージェントMにやってもらえてありがたかったけどね。まあ、メリットと言えば、上の学校での煩わしい友達付き合いやめんどくさい当番から解放されたのと、上の学校の勉強は頭の中に入っているけど地下の学校がかなり適当でゆるいから、図書館で片っ端から本を読む暇があったことかしらね。これはこれでいいかもしれない。Mちゃんは今頃何をやっているんだろうな。私にかわって面倒くさいことをそれなりにこなしてくれてるんだろうけどね。
 
 
 5章
 ミユキと入れ替って本格的な潜入捜査が始まった。ミユキの家での生活はだいたいわかっていたし、母親はあまり細かく干渉してこないタイプなので容易にあしらえた。
 ミユキは学校ではそこそこ気を使いながら女子同士の人間関係をなんとかこなしている。大きな失敗はまずいが優等生すぎるのもわざとらしい。小学生らしくミユキがやりそうなことをやらなければミユキになりきれない。遺伝子と記憶と今までの数少ないミユキとの接触から想定して私はミユキを演じなければならない。それと同時に「田中ミラ」を探して説得するなり抹殺するなり、シャングリラ本部の指示によるけれど、なんとかしなければならない。