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ミユキヴァンパイア マゲーロ4

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 みんなは押し黙った。
 「オレの用件を言うぞ」
と順繰りに皆の顔を見回した。
 「今回はな、その女の子の相方に本格的に働いてもらうんで、その間ちょっと交替して
もらいたいんだよ」
 なになに、ついに私の出番がきたのかしら?やったあ。これでやっと地底探検ができるじゃないの。
 
 「マゲーロ、ミユキちゃんに危険なことさせないでよ」
 タカアキが紳士的な発言をした。
 「大丈夫だ。仕事するのはエージェントMであって、ミユキ本人には仮想コロニーでしばらく暮らして待機してもらうだけだから」
 「えー、待機?何それ、つまんない」
と抗議しかけたが、地底世界に行けること自体を諦める方がもっとつまらないことに気づいたので、
 「まあいいわ」と了承した。

 そこへお母さんがお茶菓子とジュースを持って入ってきたので、マゲーロは慌ててアキヒコの後ろに隠れた。
 コップにジュースを注ぎ、マゲーロ用に人形のお茶セットのカップをだしてきて少しだけ注いでやった。タカアキが割ったクッキーを人形用の皿に乗せてやっている。
 マゲーロは自分の顔ほどのクッキーにかじりついて「甘すぎるなあ」と顔をしかめていた。きっと辛党なんだろう。
 「ところでさあ、宿題とかも全部そのエージェントMちゃんがやってくれるのよね。記憶交換でその間の出来事もちゃんとわかるんでしょ」
 私は周りを見回して確認した。
 「そうだよ、だから全然問題はないんだ」
 タカアキが答えた。彼は経験者だというから信用できるだろう。
 「でもさあ、あの時は瀕死の病人運んだり、色々トラブルもあって大変だったんだよな」
 記憶を探すように上を見てタカアキが言った。
 何かあったんだわね。後でゆっくり聞かせてもらいたいものだわ。
 「ところでさ、今回私のコピーさんは何するの?」
 聞いてみた。気になるもん。
 「ああ、機密事項なんで、ちょっと無理」
 マゲーロはそう言ってそっぽを向いた。
 でも本当は喋りたくてうずうずしてるように見える。
 
 「ただな、お前らみたいな子供に話してもわからないと思うし、いずれ忘れるんだからまあ一応説明はしてやろう」
 マゲーロは勿体つけて語りだした。
 「実はだな、今までずっとこうしてコピーを作って地上の偵察に使ってきたんだが、この擬態できるやつが最近ちょいと突然変異を起こしたんじゃないか、という噂があってな。それを調べたいんだよ」
 一息いれて皆を見回す。
 「人間をコピーして作るエージェントはもともと特定の形を持たない細胞の集合体みたいなもので寿命もないんだが、人間を遺伝子ごとコピーするから本体が寿命を迎えると同時期に寿命が尽きるようになってる。本体が事故死しても時間差はあれ弱って死ぬ。なのに、妙に長生きな奴がたまに発見されることがある。後々わかってきたのだが、そういうやつは本体が死ぬ前に別の若い人間の遺伝子を上書きしてコピー体の寿命を延ばすという妙な裏技を身に着けていたんだ。やり方としては対象の人間の血を吸って体内でコピー情報を取捨選択したうえで上書きしていた。だから当然見てくれも変化してしまい見た目では探しにくい。ただし、コピーを繰り返すと劣化して極端に紫外線に弱くなったり、体力が落ちたりする。
 これが世に言う吸血鬼伝説というものだ。」
 
 「ええ、そうだったの?」
 びっくりだ。アキヒコはさすがにちんぷんかんぷんだったようだけど。
 
 「そうなんだよ。ほっといてもいつか自滅するが、ほっとくわけにもいかないので、我々は見つけ次第回収している。ところが最近、紫外線もへっちゃら、健康体でちっとやそっとでは死なないタイプが現れた。そして最近、そいつが日本に入国したという情報が入り、行きついた先がこの管轄エリア内なんだそうだ。女性で名前は田中ミラ。だから、エージェントMに協力してほしいんだよ」
 なるほど、ターゲットが女性だから女の子の方が近づきやすいってことなのかしらね。

 
 
3章
 私たちはこうやって誰かに擬態してコピーされなければ人格も思考ももたない生命体だ。
 「私たち」というのは私たちが個の生命体ではなく、細胞の集合体だからだが、今はミユキという女の子に擬態している。というか遺伝子もまるごとコピーしているからミユキと同等、クローンのようなものだ。一部でミユキ以前の記憶を保持したり、ここの地下コロニーのみんなと共存するための諜報活動に出る時の指令を記憶したり、一人でありながら部分ごとに別れて情報を共有して活動する、などができる。したがって今は「私」という一人称を使うことにする。
 私はこういう能力でこの通称シャングリラと呼ばれるコロニーのために働いているわけだ。
 こうして色々考えることができるのも擬態したものの個体差を踏襲する。もしこれが犬や猫に擬態していたら犬猫並みの思考能力しか得られない。そういう点で、このミユキという子は小学生とはいえそこそこ頭がよさそうだ。
 そもそも私は入れ替わった人間の子供ミユキとして普段はコロニーの「神隠し的に連れてこられてエージェントと入れ替わった人間の子供」が暮らす偽装の街の偽装家族と共に、偽装「連れてこられた人間の子供」として(飽き飽きしながら)、いざ任務という時のため待機、という名目で暮らしていた。
 本来のエージェントはそこに来ることはない。タカアキとアキヒコのエージェントたちはマゲーロがドジ踏んだ結果としてやむを得ずここにいるのだが、私に関して言えばミユキのわがままの結果だ。要するに好奇心旺盛なミユキが友達のタカアキとアキヒコの仲間に入りたくてかなりごねてマゲーロに私を作らせたのだ。まあ、おかげさまで私が誕生したんだけれどね。
 この飽き飽きするコロニー生活で私が暇を持て余してボケっとしてると思ったら大間違いだ。エージェントTたちはのんべんだらりと暮らしている。エージェントAは幼児だから当然とはいえ、Tに言わせると、他の子供たちと同じようにのんびり過ごしていないと怪しまれるじゃないか、ということだそうだ。基本あの兄弟はそもそものんびり屋というかお人よしというか。私はちゃんと色々学んでいる。時々マゲーロに連絡してはこの居住区からこっそり抜け出してあちこち探検につき合わせたり、資料室でデータを調べたり。だから人間に関する知識もそれなりにある。細胞同士で連携しながら急速に学ぶことができるから今の私は本体のミユキ以上の知識を持っている。
 この前、関係者以外お断りの資料室に入室するためIDを持つマゲーロを連れ出した時も
 「エージェントM、ていうかコピー元のミユキっちは強引なんだよなー」
 マゲーロにぼやかれた。
 「仕事をするにあたって色々知っておかなきゃならないでしょう」
 「いや、だからってあれこもれも知ろうとしちゃまずいって。俺の身にもなってくれ。ひやひやしどうしで心臓に悪い」
 そういいつつもきっぱり断れなかったマゲーロはビビりながら見張りをしてくれた。