ミユキヴァンパイア
ミユキ・ヴァンパイア
1章
私はミユキ、この春で五年生になったわ。
あれは春休みに入ってすぐのこと、うちの犬が子犬を産んだの。で、その子犬を友達にあげることになって、その子の家に連れて行ったんだけど、彼女は急に引っ越しが決まって子犬の引き取り手がなくなってしまったの。だからどうしたものかと子犬を抱えてうろうろしていたら、だいぶ遠くまで行ってしまって道がわからなくなっちゃったのよ。
それで、誰かが拾ってくれないかな、とその辺の空き地に転がっていた箱に子犬を入れて、少し離れたところから見張っていたんだ。そうしたら、男の子が二人やってきて見つけてくれて。それがタカアキとアキヒコ兄弟だったの。
タカアキは私と同じ年で、弟は幼稚園児だって言ってた。結局彼らの家に一緒に行って、私からも彼らのお母さんにお願いして、子犬を飼ってもらえることになったの。タカアキたちのお母さんが私の家に電話してくれて帰り路もわかったし、大助かりだったわ。
彼らとはそれ以来友達になって、その後も時々犬の散歩に付き合わせてもらったり、うちにも遊びに来てもらったりしたんだけど、おかげでそれどころじゃないとんでもなく面白い体験をすることになったのよね。
だから彼らには感謝だわ。わくわくするような冒険に出会えたんだもの。あと小粒のダイヤモンドらしきものをゲットさせてもらったし。まああれは本物かどうか、いつか鑑定してもらわないとだけど。
春休みが終わって五年生になるとクラス替えもあって、クラスメイトの顔ぶれも変わって新鮮な気分ではあるのだけれど、なんか物足りないのよね。というのは、学校が始まると学区の違うタカアキたちとは会えないんだもの。彼らの家に行くにはバスに乗るか、頑張って自転車をこぐしかない。
そりゃあ学校には女子の仲良しグループはいるんだけど、女子同士のお付き合いっていうのもちょっと疲れる部分があるのよ。空気読んで合わせるとか私本当は面倒くさいんだけど、なんかそうせざるを得ない。同調圧力とかいうらしいけど。
その点、あの子たちとは変な気遣いなしで楽しかったのよね。それになんといっても、大冒険の仲間に入れてもらえたんだし。充実した春休みだったのよ。
何があったかって?誰も信じてくれないだろうけど、彼らはとある宇宙人と知り合いで、地下にある宇宙人たちが暮らす場所に入らせてもらったりしたのよ。本当は秘密なんだけどね。
最初にあのカエル見たときはびっくりしたわ。マゲーロとかいったっけ。宇宙船の事故で地球に住み着くしかなかった宇宙人が、この町の地下に彼らの暮らすコロニーを作っているんだって。信じられなかったけど、めちゃくちゃ面白そうじゃない。しかも偶然とはいえ、うちの庭に地下に通じるゲートとやらがあったのよね。子犬のヒコマルを追いかけてあの子たちと団子になって転んだ時、たまたまアキヒコがその穴に手を突っ込んだおかげで、みんなで入れちゃったのよ。なんでも宇宙人の特別な食料を食べたアキヒコには、ゲートを通過できる識別信号だかなんだか、が出せるようになったとか言ってたのよ。
彼らは結局マゲーロの手違いで地上と地下を行ったり来たりできるようになったらしいの。そっくりにコピーされたエージェントとかいうのがいて、タカアキたちが地下に行く時は交替で家に帰って学校にも行ってくれるんだって。しかも手を取り合うと地上にいなかった間の記憶がわかるから、話が通じないようなことがないらしいわ。
だったら、せっかく地下世界に行ったんだから私も仲間に入れてって強引に頼んで、私のコピーも作ってもらっちゃった。それがエージェントM。彼女と手を取りあっただけで彼女の持っている知識や情報が私にもわかって、そりゃあ面白かったわ。
ただねえ、後になって宇宙人たちの事情というものがエージェントMを通して大体わかってきたんだけど、神隠しと称してかなり昔から子供を誘拐してたとかって、いくらなんでもやばいんじゃないの?いつかばれちゃう日がくるんじゃないかしら。
しかもそういう宇宙人のなりすまし子供、が実はそこかしこにいるのかもしれない、って思うと、なんか誰も信用できないような気がしてきたの。
ああ、色々考えるとわけがわからなくなるからもうやめよう。
そういえば新学期になってからはしばらくタカアキたちと会ってないのよね。せっかく地底の国に行ける特権があるのにさ。なんでもマゲーロがいなくてもアキヒコがいれば一緒にあの庭の木の根元からいけるはずだっていうのだけど。そうだ、今度ヒコマル連れてきて、って電話してみよう。あの犬がマゲーロを見つけてくれそうだし。
で、昨日久々に電話してみたの。お母さん犬のベスが会いたがってるからヒコマル連れて遊びに来て、って。もちろん口実で私がタカアキに会いたいんだけどね、そうも言えないからさ。
2章
「ピンポーン!」
インターホンが鳴って「こんにちわー」とタカアキの声がした。
「あら、いらっしゃい。ミユキ―、タカアキ君たちよ」
とお母さんの呼ぶ声がして玄関のドアがあく音がした。
「はーい、今行く」
私はあわてて階段を駆け下りた。
ヒコマルを抱きかかえたタカアキがアキヒコの手を繋いで立っていた。
「こんにちは。ミユキちゃん、久しぶり」
「ようこそー。ヒコマルはお庭に放して、アンタたちは上がって」
彼らを二階の私の部屋に案内した。お母さんがキッチンでお茶やお菓子を用意してくれている。お母さんは以前の大事件のことをよく覚えていない。タカアキたちをベスの子犬をもらってくれた友達、としか思っていない。
彼らがヒコマルを連れて遊びに来たのは覚えているけど、ハムスターを飼っていたことなんかは忘れている。あの事件をうやむやにするために、なんか怪しい宇宙人の道具を使った、とタカアキは言っていた。だから私もその辺は話を合わせている。
部屋に入ると私は早速あの宇宙人のことを聞いてみた。
「ねえ、あのアマガエルみたいなの、どうしてるの?」
「あ、だめだよ、マゲーロはカエルって言われるのすごく嫌がるから」
「わかった。アマゲーロね。で、そろそろあっちにいく用事ないの?」
私が思わず身を乗り出すとタカアキは少しのけぞりながら
「それはマゲーロの要請がないと無理だと思うよ」
「えー、つまんないの。せっかくそっくりさん作ったのにさあ」
と、そっぽを向いて窓の外を見た時だった。
緑色のものがちらっと眼の隅をかすめたのは。
「あ、マゲーロ!」
アキヒコが指さした。
本当に窓際に緑色の小さなものがいた。
「おっと、ちょうどおそろいで。ちょっと邪魔するぜ」
そいつはわずかに開けていた窓の隙間からぴょん、と部屋に入ってきた。
窓が閉まってたらどうしたんだろうか。
「わーい、マゲーロだあ」アキヒコが手を叩いて喜ぶ。
「久しぶり、どうしてた?」タカアキが尋ねる。
「ちょっと何勝手にそんなとこから」
三人が同時に話しかけたので、マゲーロは誰に答えていいか分からず
「おいおい、全員でしゃべるなよ。答えようがないだろ」
そう言ってみんなの真ん中に陣取って座った。
1章
私はミユキ、この春で五年生になったわ。
あれは春休みに入ってすぐのこと、うちの犬が子犬を産んだの。で、その子犬を友達にあげることになって、その子の家に連れて行ったんだけど、彼女は急に引っ越しが決まって子犬の引き取り手がなくなってしまったの。だからどうしたものかと子犬を抱えてうろうろしていたら、だいぶ遠くまで行ってしまって道がわからなくなっちゃったのよ。
それで、誰かが拾ってくれないかな、とその辺の空き地に転がっていた箱に子犬を入れて、少し離れたところから見張っていたんだ。そうしたら、男の子が二人やってきて見つけてくれて。それがタカアキとアキヒコ兄弟だったの。
タカアキは私と同じ年で、弟は幼稚園児だって言ってた。結局彼らの家に一緒に行って、私からも彼らのお母さんにお願いして、子犬を飼ってもらえることになったの。タカアキたちのお母さんが私の家に電話してくれて帰り路もわかったし、大助かりだったわ。
彼らとはそれ以来友達になって、その後も時々犬の散歩に付き合わせてもらったり、うちにも遊びに来てもらったりしたんだけど、おかげでそれどころじゃないとんでもなく面白い体験をすることになったのよね。
だから彼らには感謝だわ。わくわくするような冒険に出会えたんだもの。あと小粒のダイヤモンドらしきものをゲットさせてもらったし。まああれは本物かどうか、いつか鑑定してもらわないとだけど。
春休みが終わって五年生になるとクラス替えもあって、クラスメイトの顔ぶれも変わって新鮮な気分ではあるのだけれど、なんか物足りないのよね。というのは、学校が始まると学区の違うタカアキたちとは会えないんだもの。彼らの家に行くにはバスに乗るか、頑張って自転車をこぐしかない。
そりゃあ学校には女子の仲良しグループはいるんだけど、女子同士のお付き合いっていうのもちょっと疲れる部分があるのよ。空気読んで合わせるとか私本当は面倒くさいんだけど、なんかそうせざるを得ない。同調圧力とかいうらしいけど。
その点、あの子たちとは変な気遣いなしで楽しかったのよね。それになんといっても、大冒険の仲間に入れてもらえたんだし。充実した春休みだったのよ。
何があったかって?誰も信じてくれないだろうけど、彼らはとある宇宙人と知り合いで、地下にある宇宙人たちが暮らす場所に入らせてもらったりしたのよ。本当は秘密なんだけどね。
最初にあのカエル見たときはびっくりしたわ。マゲーロとかいったっけ。宇宙船の事故で地球に住み着くしかなかった宇宙人が、この町の地下に彼らの暮らすコロニーを作っているんだって。信じられなかったけど、めちゃくちゃ面白そうじゃない。しかも偶然とはいえ、うちの庭に地下に通じるゲートとやらがあったのよね。子犬のヒコマルを追いかけてあの子たちと団子になって転んだ時、たまたまアキヒコがその穴に手を突っ込んだおかげで、みんなで入れちゃったのよ。なんでも宇宙人の特別な食料を食べたアキヒコには、ゲートを通過できる識別信号だかなんだか、が出せるようになったとか言ってたのよ。
彼らは結局マゲーロの手違いで地上と地下を行ったり来たりできるようになったらしいの。そっくりにコピーされたエージェントとかいうのがいて、タカアキたちが地下に行く時は交替で家に帰って学校にも行ってくれるんだって。しかも手を取り合うと地上にいなかった間の記憶がわかるから、話が通じないようなことがないらしいわ。
だったら、せっかく地下世界に行ったんだから私も仲間に入れてって強引に頼んで、私のコピーも作ってもらっちゃった。それがエージェントM。彼女と手を取りあっただけで彼女の持っている知識や情報が私にもわかって、そりゃあ面白かったわ。
ただねえ、後になって宇宙人たちの事情というものがエージェントMを通して大体わかってきたんだけど、神隠しと称してかなり昔から子供を誘拐してたとかって、いくらなんでもやばいんじゃないの?いつかばれちゃう日がくるんじゃないかしら。
しかもそういう宇宙人のなりすまし子供、が実はそこかしこにいるのかもしれない、って思うと、なんか誰も信用できないような気がしてきたの。
ああ、色々考えるとわけがわからなくなるからもうやめよう。
そういえば新学期になってからはしばらくタカアキたちと会ってないのよね。せっかく地底の国に行ける特権があるのにさ。なんでもマゲーロがいなくてもアキヒコがいれば一緒にあの庭の木の根元からいけるはずだっていうのだけど。そうだ、今度ヒコマル連れてきて、って電話してみよう。あの犬がマゲーロを見つけてくれそうだし。
で、昨日久々に電話してみたの。お母さん犬のベスが会いたがってるからヒコマル連れて遊びに来て、って。もちろん口実で私がタカアキに会いたいんだけどね、そうも言えないからさ。
2章
「ピンポーン!」
インターホンが鳴って「こんにちわー」とタカアキの声がした。
「あら、いらっしゃい。ミユキ―、タカアキ君たちよ」
とお母さんの呼ぶ声がして玄関のドアがあく音がした。
「はーい、今行く」
私はあわてて階段を駆け下りた。
ヒコマルを抱きかかえたタカアキがアキヒコの手を繋いで立っていた。
「こんにちは。ミユキちゃん、久しぶり」
「ようこそー。ヒコマルはお庭に放して、アンタたちは上がって」
彼らを二階の私の部屋に案内した。お母さんがキッチンでお茶やお菓子を用意してくれている。お母さんは以前の大事件のことをよく覚えていない。タカアキたちをベスの子犬をもらってくれた友達、としか思っていない。
彼らがヒコマルを連れて遊びに来たのは覚えているけど、ハムスターを飼っていたことなんかは忘れている。あの事件をうやむやにするために、なんか怪しい宇宙人の道具を使った、とタカアキは言っていた。だから私もその辺は話を合わせている。
部屋に入ると私は早速あの宇宙人のことを聞いてみた。
「ねえ、あのアマガエルみたいなの、どうしてるの?」
「あ、だめだよ、マゲーロはカエルって言われるのすごく嫌がるから」
「わかった。アマゲーロね。で、そろそろあっちにいく用事ないの?」
私が思わず身を乗り出すとタカアキは少しのけぞりながら
「それはマゲーロの要請がないと無理だと思うよ」
「えー、つまんないの。せっかくそっくりさん作ったのにさあ」
と、そっぽを向いて窓の外を見た時だった。
緑色のものがちらっと眼の隅をかすめたのは。
「あ、マゲーロ!」
アキヒコが指さした。
本当に窓際に緑色の小さなものがいた。
「おっと、ちょうどおそろいで。ちょっと邪魔するぜ」
そいつはわずかに開けていた窓の隙間からぴょん、と部屋に入ってきた。
窓が閉まってたらどうしたんだろうか。
「わーい、マゲーロだあ」アキヒコが手を叩いて喜ぶ。
「久しぶり、どうしてた?」タカアキが尋ねる。
「ちょっと何勝手にそんなとこから」
三人が同時に話しかけたので、マゲーロは誰に答えていいか分からず
「おいおい、全員でしゃべるなよ。答えようがないだろ」
そう言ってみんなの真ん中に陣取って座った。