覚悟という錯誤
ということからであろう。
つまり、
「逆も真なり」
ということで、
「格納できない」
という都合から、
「過去は変えられない」
という発想になるのだ。
つまり、
「過去を格納する必要がなくなれば、過去を変えたとしても、それが現在、あるいは未来というものに一切影響はしない」
といってもいいだろう。
「タイムパラドックス」
という発想は、
「人間の脳の都合」
ということでの発想でしかない。
そんなことを考えると、
「彼女の過去に何があろうと、俺に関係はないんじゃないか?」
という飛躍した考えが、坂上に生まれてきたとしても、それは、無理もないといってもいいかも知れない。
だとすると、
「そもそも、記憶というのはどうして必要なのか?」
ということも考えてしまう。
確かに、過去の記憶が教訓となって、未来に続いていくことで、
「人間は生きていける」
ということであれば、
「人間社会は、このままでいい」
ということになる。
しかし、ここから未来に、
「タイムマシン開発」
というものを行う際に、一番引っかかっている問題が、
「タイムパラドックス」
だということになれば、
「その問題を解決するということで、人間の記憶を制限できれば、それで解決するのではないか?」
という考えである。
過去を格納する場所が、
「圧縮しなくてもいい」
ということになれば、
「過去を変えても、問題ない」
という発想になり、逆に、変わってしまう未来は、
「その人にとって、都合のいいものになる」
ということであり、それを、
「自分だけが過去を変えるから、皆に影響する」
と思うから、
「過去は変えられない」
と思うのだ。
しかし、
「もし、自分の過去を変える」
という発想を一人がすれば、他の人も、
「過去が変わった」
ということになり、格納している記憶が、書き換えられるだけで、
「現在に影響しない」
とも考えられるだろう。
それを思うと、
「タイムパラドックス」
というものの解決方法は、
「記憶を格納している原理にある」
と考えればいいだけで、今回の、坂上と彼女において、
「彼女が記憶を失っていることで、実は、過去を変えよう」
という意識があったとして、それにその瞬間からかかわったことで、
「坂上は、自分の記憶が飛んでしまった」
ということを、意識はしていたが、にわかに信じられないので、
「見ないふりをしていた」
といってもいいだろう。
そこで、自分の記憶の中にある意識が、彼女の記憶を、都合よく解釈し、
「タイムパラドックスが起こりえない」
という意識の空間を作っているともいえるだろう。
「彼女の記憶は、本当に喪失してしまっているのだろうか?」
坂上はそれを考えた時、
「俺が、勝手に操作しているのかも知れない」
と思うのだった。
そもそも、彼女をあの場所で拾ったというのも、彼女が記憶喪失だというのも、坂上自身が記憶喪失で、そうさせたのは、
「自分の中で、過去は変えたくない」
という何かが存在しているからなのかも知れない。
「結局、今回は、癒しを求めていたものが、幻だった」
ということで、拾ってきた彼女と一緒にいることが、自分の記憶の都合だけで、
「彼女を救う」
という覚悟につながったことが、
「自分の中の錯誤」
といってもいいだろう。
( 完 )
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