裏の裏
ということであった。
その信憑性を高めるということで、
「清水刑事は利用されたということか?」
と考えると、清水刑事が失踪していることも分からなくもない。
ただ。問題は、
「清水刑事が、犯人の本当の目的を知らずに利用されただけということになると、清水刑事は生きていないかも知れない」
ということであった。
「本当の目的って何なんだろう?」
ということで、
「それは、催眠か洗脳の研究じゃなかったのかな? ドラキュラのような、感覚で、クローン人間を作ろうとして、血液を混ぜたりしての研究と考えると分からなくもない」
と秋元刑事は言った。
秋元刑事は、自分が、最初から、
「ドラキュラの発想」
だと思えば、すぐに、
「清水刑事は共犯者だ」
と感じたのだ。
もちろん、警察官としての勧善懲悪な気持ちというものがあるのだろうが、何も、法律だけが正義ではない。
逆に法律ではどうしようもないことを、いかに解決できるかということを絶えず考えながら、
「警察という組織の中にいる自分」
というものに対して。ジレンマを感じていたのだろう。
だから、清水刑事は、犯人の考えに同調した。
「血液を使って、これから自分が思うような、事件解決であったり、世の中の浄化ということで、血液の研究が不可欠だ」
と考えたに違いない。
だが、やっているうちに、なかなか成果も出ずに、事件ばかり起こることで、嫌気がさしたのだろう。
だから、逆らって、犯人から、
「もうお前はいらない」
と言われたのではないだろうか?
だから、被害者が横山の時に、
「必要以上に大量の血を使ったのだ」
ということになる。
警察に対して、
「事件をこれで解決してほしい」
という自分なりのメッセージだったのだろう。
こんな暗号のような形にしたのは、あくまでも自分も犯人の口車に乗って、
「できもしないことをできると感じ、洗脳を受ける形だったものを恥じる形で、ハッキリそした形で言い表せなかったのは、自分に対しての戒めということで考えていたのだろう」
その気持ちは、
「俺にはよくわかる」
と秋元刑事は思った。
犯人は、しばらくすると捕まった。
清水巡査は、結局犯人の自供で、殺害された形で見つかったのだが、そもそも、清水刑事が殺されなければ、この事件は、
「殺人事件」
ということではなかった。
しかし、犯人は、この計画は、
「清水刑事に話したことと」
というものとはまったく違うものだった。
犯人が本当に欲しかったのは、
「地位と名誉とお金」
だった。
欲にまみれた犯人は、その欲というものに、終わりがないということを知らなかった。
ひょっとすると知っていたかも知れないが、だからといって、
「俺が、悪いわけではない」
と思っている以上、
「救いようがない」
といえるだろう。
そういう意味で、清水刑事は、途中で、
「欲に終わりがない」
ということに気づいたのかも知れない。
清水刑事は、警察に入る前から今まで、一貫してまわりからは、
「あいつに、欲なんてものがあるのか?」
と言われていたのだ。
だから、
「初めて、欲というものにまみれてみて、新鮮な気持ちで。欲に終わりはないと初めて感じた」
ということであろう。
だから、今回の事件を解決したのは、
「清水刑事」
であった。
本来なら犯人も、
「今回の事件で自分の考えていることが、いかに素晴らしいか?」
ということに気づいていた。
しかし、それが、
「自分の発明した薬によって、自意識過剰になっていた」
というのだ。
しかし、その副作用で、今度は正反対になってしまった。
「俺の薬は大丈夫か?」
という。
今度は、
「猜疑心と、自分への自信喪失だったのだ」
この辺りは、実は、
「清水刑事に似ていた」
本来であれば、犯人は、
「俺は清水刑事とは正反対なんだ」
ということから、清水刑事を利用した。
しかし、犯人にとっての、最大のミスがあった。
それは、
「犯人が、あまりにも、清水刑事と近い考え方にあった」
ということからだった。
「新しい薬を使えば、正反対の性格を自分に宿すことができ、まるでジキルとハイドのようであるが。今回は、その本の教訓を生かし、決して。もう一つの性格に自分を乗っ取られないようにしよう」
と考え、それは功を奏した。
しかし、その正反対の自分というのが、
「清水刑事と自分は同じ性格なのだから、正反対の性格の清水刑事も、自分がコントロールできる」
と考えたようだ。
しかし、ここに計算違いがあった。
「実際に裏を返した時の清水刑事は、自分の裏とは、まったく似ていなかった」
というのだ。
つまりは、
「似て非なるもの」
ということで、
「タイムスリップにおける、無限の可能性」
といえるもので、
「変わってしまった過去から、未来に戻っても、それは、まったく違う可能性から出てきた世界でしかない」
ということで、
「元に戻すには、狂ってしまったその場所から元に戻す必要がある」
ということになるのだ。
だから、今回において、
「マイナスにマイナスを掛けるとプラスになる」
ということであるが、その発想から、今度は、
「ボタンの掛け違いがどこかで起こり、それが、タイムパラドックスのような罰が当たるということから。事件は、犯人の想定外のところにいき、そもそも、それが、犯人が誰であるかということを、まったくわからせないところに来ていたのだった」
そして、それこそが、
「真実と事実の近いにつながる」
ということだったのだ。
だが、秋元刑事の発想ですべてがつながったことで、
「まさかお前が?」
という結末にはなったが、
「これで、清水刑事の供養になる」
というものだ。
しかし、これは決して、
「弔い」
ということではない。少なくとも、表の清水刑事は、
「自分にまけたのだ」
事件を解決するきっかけになったのは、
「裏の清水刑事の存在」
ということで、それを知っているのは、当の犯人と、秋元刑事ではないだろうか。
「今回の犯人が誰なのかって?」
そう、それは、
「佐久間刑事だったのである」
( 完 )
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