ニューワールド・ファンタズム
「その剣はアンタの魂の鏡。あんたの願いを、後悔を、未来を切り開く剣」
「べリアス。ありがとな」
「いいわよ別に。お得意さんなんだから」
「……ああ」
《ホワイトディザスター》の負の力。俺の願いの力が宿ったその剣を背中の鞘に入れる。
「二刀流。似合ってるじゃない」
「だろ?」
「…………ふふっ」
穏やかな時間。しかしこういう時に限って、悪いことは起こるもんだ。
第二章《天使様の奇跡と》
スキルは神の加護の一つだ。しかしスキルには普通の技と違う点が四つある。一つは威力だ。発動すれば体が半ば自動的に動き出し、そこに力を込めることで威力が上昇する。二つ目はスキル発動中に急に違う動きをしてはいけないこと。これを破ると三つめの特徴である硬直が課せられて、一瞬動けなくなる。戦闘中に隙を作るのは命取りだ。なので常に頭を動かし続けることが必要となる。そしてこれが最も大きな違い、スキルはあらゆる法則より優先されるということだ。四?ジャンプするスキルの時は重力よりそのスキルが優先されるため使用者は重力を受けずに跳躍できる。といった感じにスキルは冒険者の生命線となる技術だ。
しかし、この世界には《ユニークスキル》と呼ばれる唯一無二のスキルが存在する。ディオンの《新約》や俺の《英雄の炎》がいい例だろう。そしてこの街にはもう一人、ユニークスキルを持った人物がいる。
その女性の名は、《セナ》。冒険者登録はしているが戦闘はせずに最近流行している《歌手》というものをやっているらしい。しかもその人気は凄く、何万人ものファンがいるという。
そんな彼女のユニークスキルは、《奇跡》。彼女の歌声を聞いたものは心に安らぎを得て、戦うものは心が鼓舞される。そんな能力は《新約》と違って戦闘向きではなく、戦闘の補助として輝く能力。しかし彼女は人々の心を照らすために歌っている。そんな彼女の二つ名は《天使》。
そんな天使様に近づきたい男などごまんといる。今、目の前に座って飯を食ってる冒険者のオッサン、《カイン》もその一人だ。こいつとは冒険者になった頃に出会ってから、たまに協力したりしている。
「おまえ、そろそろじゃないのか?」
「やべっ、速く食い終わらせないと!」
俺の指摘にこいつは飯を頬張る。こいつがこんなに急いでいる理由は簡単、それは。
「急がねえとセナちゃんのライブに遅れるぜ!」
飯を食い終わって会計を済ませた男は全力で走り出した。
「そんなにハマるもんかなぁ……」
俺は男の背中を見ながら呆れるように呟く。もうカインは見えなくなっているが、あいつ、どんだけ急いでるんだよ……。あいつあんなに俊敏度上げてたっけ……?ま、馬鹿だからだろう。
そんな事を考えつつ、俺も店を後にする。
俺は飲み場と化した宿に戻り、《ベールリオン》を見つめる。そして《ナイトプレート》を見つめる。俺はこいつらの真価を発揮できていない。武器の力を最大限解放する奥義《真相解放》と呼ばれるそれは、武器に認められたものしかできない武器との信頼。ディオンに対しての最後の攻撃で、《何か》を感じたが、それ以来なにもない。
「……」
俺は背中の鞘に納刀し、宿にあるポスターを見つめる。
《大人気歌い手セナの二周年ライブが今日から明日まで!》
という大々的な宣伝がある。しかも冒険者ギルドの署名付きときたもんだ。ギルドの事だからこういう戦力は匿っておきたいもんだと思うのだが。そんな事を考えていると。
「どうしたんだいアル、もしかしてあんたもセナのファンなのかい?」
「ガイナさん、そんなわけないでしょ」
「ま、それもそうだね。そうだアル、ギルドから手紙が届いてたよ。」
「手紙?」
「ほれ。」
ガイナさんから渡された手紙を開けて、中身を読むと。
《貴殿、アルタイル・アリエル殿に《天使》セナ様の護衛を依頼したい。回答のため、冒険者ギルドに来るように。》
「「はぁ?」」
俺とガイナさんの驚きは当然だろう。しかも当の本人である歌姫はライブ中だぞ。どう護衛するんだよ。
(ま、適当に断るか)
「断りますかね……」
「そうだねぇ。強制依頼じゃないんだろう?なら好きにすればいいじゃないか」
「そうしますか……」
俺は冒険者ギルドに向かう。ライブの事もあってか街はお祭り騒ぎだ。
「なんで俺が――…」
ギルドの受付に行き。
「アルタイル・アリエルです」
「確認しました。依頼の件ですね。それで、受けてくださりますか?」
「お断りします」
「そうですか。了解しました。」
「それでは」
俺は冒険者ギルドから外に出て、道を歩く。
(ったく、今日はゆっくりしようと思っていたのに)
それにしても、俺の所には変な依頼ばっかり来るもんだ。
(そういえば……)
俺は《黒き剣士》の代名詞である黒いコートのポケットを漁り、一枚の紙を取り出す。カインから貰ったセナのライブチケットだ。俺は断ったのだが、来たかったら来い!と渡された。
(確か会場はここら辺だよな……)
俺がどでかいドームを見上げると。
うおおおおおお!と歓声が上がって、俺は思わずビックリしてしまった。
(どんだけ人数いるんだよ……)
ポスターには一万人ドームと書いてあったが……そんなまさかな。
「ウソだろ……」
俺のカンは当たっていた。満員以上に入っていた。そこの中央のステージには金髪の歌姫。いや、幼さが残った天使というべき女性が歌っている。彼女がセナか。
そして俺はとあることに気付く。ドームの中に暖かい金色の光が漂っていた。俺は試しにその光に触れてみると、過去の記憶がフラッシュバックした。あの時守れなかった者達……彼ら彼女らは俺を恨んでいるだろう……。なのに記憶の中に現れた六人は笑顔でこっちに手を振っていた。そして彼らの口が動く。
が ん ば れ よ。
だ い じ ょ う ぶ だ。
き に す る な。
あ り が と う。
最後に聞いた少女の言葉に、俺は涙を流した。
…………俺こそ、ありがとう。
涙を拭い、俺は今の状況を確認する。これが歌姫のユニークスキル、《希望》か。
ただ俺には《慈愛》にも感じるよ。そしてこの光の正体は《心象転写》。自身の心を世界の一部にユニークスキルを通して転写する力。つまりこれが、彼女の心か。
これが人気の秘密。いや、これが心を集めない訳がない。
「……」
俺のカン、いやスキルが何かを感知する。俺は単独冒険者(ソロ)としての最低限の能力として基本スキル《索敵》、《気配察知》を習得している。そして、そのどちらもが反応している。俺はスキル精度を限界まで集中させて、一万の人をかき分ける。どこだ。
この気配は殺気。しかも相手の武器は弓、そして狙いは歌姫本人。こんな状況どうすれば……。いや、思い出せ、父さんが言っていたことを。
いいか?アルタイル、これから先困っている人がいたら迷わず助けるんだ。
(助ける……細かい人物は分からない、気配だけじゃ姿まではわからないんだ。なら弓を放った瞬間に投剣スキルで)
俺は腰から二本の投擲針を取り出し、左右の手に一本握る。集中。そして歌姫の顔に向けて矢が放たれる。ここ、投剣スキル《ショット》
「そこか」
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城