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ニューワールド・ファンタズム

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俺は弓が放たれた場所に向けてもう一本の針を投げる。ギャアァァァァ!と弓使いの声が聞こえてその後、歌姫の足元に弓矢が転がる。
 「えっ……」
 私の目の前に矢が転がった。ライブ中、歌っていた最中にそれは落ちてきた。私を狙ったであろうその凶器は、狙いが外れたのか分からないけど、直撃はしなかった。私は観客席を見つめる。そこには何かを投げた後の体勢をしている黒い人影を見つけた。さっき聞こえた何かがぶつかったような小さな音。恐らく彼が弓の軌道をずらしてくれたのだろう。驚いたが私もプロ。ファンの為に歌わなければ、私は歌い続ける。暗くなった時まで歌っていた。そして今日最後の曲《君が繋ぐ》を歌い切り、終了。
「ふう……」
私は休憩室にあるベッドに飛び込み。
(助けてくれたあの人、誰なんだろう。黒い人だったなぁ)

俺は彼女を狙った矢をずらした後、妙に疲れて家に帰っていた。冒険者として稼いだお金で買った一軒家だ。大分高かったぞ。その額、一千万リル。普通の量産型の剣が五千リルなのに高すぎだろ。フカフカベッドに座り、自分のステータスプレートに記されたスキルロットを確認する。《片手剣》《索敵》《気配察知》《投剣》《隠蔽》《英雄の炎》《反撃》《闘気》の八つ。
ソロは一人でどんな状況でも対応しなければいけないため、これを使い、生き残らなければいけない。そのために俺は普通の冒険者が四つ程のスキルロットを持っているのに対して、その倍のスキルを習得している。緊急事態には二刀流も使うが基本はこれらのスキルでやり繰りしている。眠気に襲われた俺は、眠った。
「ふぁ…」
 起きた俺は朝食を取った後、装備を整えて家を出る。平和な日常。
「おーい!」
俺を呼ぶそれはカインだった。
「どうした?」
慌てているカインを見て俺は、呆れたような声で聞くと。
「それがよ!今朝セナちゃんからの発表があったんだけどよ…………」
「それがどうかしたのか?」
カインが叫ぶように言う。
「だからよ、セナちゃんが《黒き剣士》を探して欲しいっていう依頼を出したんだよ!」
「はぁ?」
「そんな事しなくても、ギルドを通じて呼び出してくれれば顔を出すのに」
「だろ?なんか変なんだよ」
「それで、その捜索の条件は?」
「……………《捕獲許可》」
「……っ」
 思わず息を呑む。《捕獲許可》とは犯罪者などに適用される。要するに強制連行を許可する条件。俺が自ら冒険者ギルドに行けば話は解決するのだが………。
「……ここからギルドまで結構距離があるな」
「多分それがセナちゃんの目的なんだと思うぜ。」
「どういうことだ?」
カインから出てきた言葉は驚くものだった。
「情報系の冒険者に聞いてみたんだけどよ。何故か冒険者にギルドの周囲に囲むよう指示が出ているらしいぜ」
「まさか………ギルドの上層部は何を考えているんだ」
「さあな、だけど、その冒険者が言うにはまるで、お前を試すような陣形が組まれているんだと」
「試す……」
「…………カイン」
「どうした?」
「自分で聞いて確かめたい、力を貸してくれ」
 オッサンは俺の背中を叩き、任せろ、と言った
「相手は完全武装だと思うけどよ、どうすんだ?」
「正面突破だ」
「…………面白れぇ!」
カインはズボンの中から赤いマフラーを取り出し、首に巻く。そして腰から飾り気のない直剣を引き抜く。赤い鞘に赤い持ち手の鉄剣。路地を出ると早速冒険者が出てくる。
「見つけたぞ!」
こっちに切りかかってくる。完全に捕縛する気だな。
「どりゃあ!!」
直剣上段技《スラスト》。直剣共通の上段斬り。
「殺すなよ?」
「手加減はしてるっての」
こいつは二つ名《旅月》の称号を持ってるだけあって頼りになる。抜けてるけどな。
今度は重騎士が構えていた。俺は全力で走り出しスキルを発動。片手剣上段突進技《ソニックスラスト》。兜を叩き割った。
「おめぇこそ手加減というものを知らねえのか?」
「?」
その時俺らは何かを察知してステップでよける。
「……アリス!」
そこにはレイピアを構えたアリスが立っていた。
「アル、何をしたの?」
 アリスはかなり怖い顔をしている。
「何もしてません誤解です!」
「そう………けど、依頼だから」
「……アルよう、……ここは任せろ」
「……すまない」
俺はギルドに向かって駆け出す。カインは直剣を構えて
「さあ、お嬢ちゃん。俺と遊ぼうぜ?」
「はっ、はっ……」
走っている俺の目の前にまた一人、大盾を持った騎士が。
「っ、せ、ああああああ!」
片手剣単発突進技《ソニックシュート》。盾に向けて放った一撃が通り、その騎士を越えていく。
「行きたまえ」
「ああ」
騎士は俺に道を繋いでくれた。進む。最後の壁を破り、ただ進んでいた。まだ、進め!
カインと騎士に繋いでもらったこの道。たどり着いて見せる!
「どりゃああああああ!!」
冒険者ギルド支部長室のドアを蹴破る。
「お、来た来た」
「さあ、聞かせてもらおうか。なんでこんな事をした。支部長!天使!」
「いやぁ、俺の権限じゃ断れなくてね……本当にすまなかった」
頼りなさそうなオッサンの謝罪を聞いた後。
「ごめんね。君の実力を確かめたくてこんな依頼を出したんだけど……」
「流石にやりすぎだよね」
「ああ、やりすぎだ。ギルドに慰謝料は請求するからな」
「あはは……」
「で、なんでやった?」
「えっとね。昨日のライブで弓矢の軌道を変えて、助けてくれたのは君なんでしょ?」
「どうして分かった」
あの投擲針には《隠蔽》の効果を付与していたはずだ。鑑定スキルでもそう簡単には……。
「ウチにはお抱えの鑑定士がいるからね」
「……はあ」
専門家の目は誤魔化せないか。
「なんで探してたんだ?」
「えっと、私の依頼を断った件について聞きたくて」
「え?ただただ、めんどくさかっただけだけど」
「え?」
「え?」
「は?」
支部長、天使、護衛の騎士の三人が、ふざけてる?という反応だったので俺は、
「いや、ホントにめんどくさくて。しかも昨日休日申請してたし」
「そう…………なら、私の眼を見て」
「?」
「いいから」
「……分かった」
 言われた通りに俺は彼女の眼を見る。すると彼女の眼が薄い紫の光を纏う。俺は危機を感じてバックステップしようとしたが今は座っていて動けない。
「《私の騎士になって》」
俺の中に何かが入り込んで……魅惑の光が俺の心に入ってくる。鎖が、俺を縛る。これはまさか……《魔眼》。ユニークスキルとは違った、派生したスキル。意識が……塗りつぶされて……。コツ、コツ、俺の中で誰かが歩いている。その男は俺にそっくりな姿をしている。黒いロングコートに二本の片手剣。その男は二刀流の構えを起こしてこっちを見る。キイィィィンとスキルの起動音。《二刀流スキル》。
「……」
技名を言ったらしいが俺には聞こえなかった。二刀流の連撃。その剣は俺を縛る鎖を断ち切る。
「うら、ああああああ!!」
俺は自身の意思を立ち上げ、立ち直る。
「うっそぉ……」
「なんと!」
「何をした……!」
俺の怒りが籠った問いに彼女は
「いやぁ、わたしの《恋成眼》で護衛になってもらおうかなって」
「ほうほう、ま、これで用はないんだよな?……それじゃあな」