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ニューワールド・ファンタズム

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ディオンは攻撃する気配がない。俺は片手剣突進技《ソニックスラスト》で懐に接近する。
通常、発動した剣技に途中から動き始めて追いつくことはないはずなのだが、奴は盾で簡単に止めて見せた。
「なんで追いつけるんだよ……!」
俺は思わず、ディオンに聞いてしまった。
「私の《新約》は今の人体学でも解明されているものだ。私の秘密は《脊髄反射》さ。」
「なるほどな…………」
脊髄反射、要するに目で見ての動作ではなく、脳を通さない即時対応をしているわけか。それに奴の重心が全然ブレない、つまり…………。
(奴の存在自体が最高の守りの根幹!)
スキルだけならまだ希望があったのだが……俺の全てをぶつけるッ!
(あの武者もこれには耐えられなかったぞ!)
片手剣四連撃技《エクシア》片手剣六連撃集中技《パーティクル・リンク》片手剣垂直二連撃技《スラット・リンク》おまけだ!片手剣単発突進技《ソニックスラスト》!合計十三連撃の攻撃に思わず観客たちもざわつく。しかしこの男は確かに少しばかり驚いたっぽいが、的確に全てを防ぐ。
「確かにアリスが推薦するだけはあるな。最初に君の話を聞いたときは耳を疑ったがね……、彼女がレベル1の剣士に一本取られたというのだからな。しかし今なら彼女の気持ちが理解できる。君が欲しい、アルタイル・アリエル君」
 この人が言っていることはとても魅力的だ。最高のクランに入って悪いことはないだろう。だけど。
「……俺は、クランに入るつもりはない」
「何故かね?」
昨日もこんな会話だった気がする。けど、俺は別の言葉を述べる。
「俺は、俺自身の力で強くなりたい。そう……」
いつも読んでいる、俺の、始まりの英雄のように。
「俺は、英雄になりたい……」
小さく呟いた言葉を聞き取ったのかディオンは、そうか、と優しい笑みを浮かべる。この男は、俺と同じなんだ。ただ自分の存在を見せるために、戦って、戦って、戦って。最強を手に入れてからも鍛錬を続けて、周囲を引っ張っているんだ。これが、俺が目指したものではないのか。俺は……いや、違う。俺とこの男は違う。魂に刻まれたたった一つの違いは、他人を信じられない。いや、その資格がないんだ。名も知らぬ同業者すら助けられなかった俺には、孤独がお似合いだ。それでも、この憧れは消えない。世界の英雄になれなくても、たった一人を守れる英雄に、俺はなりたい。
「あんたの言うように俺の夢は、俺が掴んでみるさ。この剣で」
「さあ、やろうか。これが俺だ。抗うことしか知らない未熟者の進む道だ」
あいつは俺の答えに納得したのか知らないが笑っている俺を見て、どこか心の底から楽しんでいるように感じた。ディオンは初めて剣を構える。盾で体を隠しながら攻撃を仕掛けてくる。
俺はサイドステップで回避を試みるが、盾で殴られ、剣が俺の寸前に現れる。俺は片手剣反撃技《アンタル》を発動してギリギリで防ぐ。
「あんたは大岩かよ……!」
ディオンは上段突進技の構えを取る。長剣上段突進技《クリンク》。これで決めるつもりかな。だけど……。
(これを待っていた!)
二刀流を使うまでの布石。思っていたよりも時間がかかってしまったが。
「ハアァァァァ!!」
片手剣上位反撃技《リバーサル》。ディオンの剣を弾き、少しだがディオンの体勢が崩れる。だけどこの技はこれで終わりじゃない。剣を弾いた直後にキィィィィン!という爆音がディオンを襲う。ここだ。俺は《アイアンブレード》を引き抜き、二刀流で攻める。
「セァアアア!」
二刀流で十六連撃を打ち込む。これには驚いたようで思わずディオンは体勢を崩す。
(…………行くぜ)
右、左、右、左。剣を振るう体にスキルの補正はない。しかしその剣には俺の想いが乗っている。そして十八連撃。ディオンが俺に答える。
「ああ、やろう……《黒き剣士》!」
最後の攻防となる次の手に、ディオンは腰を落として、どっしりと構える。俺はその騎士に向かって走り出した。
「せぁああああああああ!!!!」
俺は全身全霊の二刀流十四連撃を放つ。そして
(目覚めろッ!《ナイトプレート》!《アイアンブレード》!)
俺の意思に答えるように、剣撃のスピードが上がり、ディオンの防御を突き破る。
「これが、俺の意思だ!」
右手に握る《ナイトプレート》を《アイアンブレード》で押し出し、ディオンの左肩に直撃する。しかし、ディオンは踏ん張り、剣を握ったままの拳で、俺の腹を殴る。
「ぬおおおお!!」
「がっ…」
俺は地面に倒れてしまった。
次に目が覚めると、冒険者ギルドの医務室だった。
「……負けたのか」
俺は悔しかった。いくら命を賭けていない決闘といえ、負けるのは悔しい。そこにディオンが現れる。
「アルタイル君」
「ディオン……」
「君の意思は見せてもらった。どうだろう、クランに入らずに、我々との協力関係を築いてくれないだろうか?」
「……えっ?」
―――俺は……負けたのに?
「確かに君は素晴らしい人材だ。実に欲しい。喉から手が出る程にね、しかし……私は君がどんな力を持つのか見てみたい、どうだろう?」
「本当に、いいのか?」
「まあ、アリスを説得するのは大変だったけどね。だから条件として協力することになった場合は君とアリスと君をコンビにすることを提示して何とか説得できたのさ」
「は?」
……………………なんで?
俺に会いに来た後、ディオンはギルドの外で、ボーっとして考えていた。
(……君は気付かなかっただろうが、今も肩が痛むよ……。しかし、《俺は英雄になりたい》か)
「面白いじゃないか」


第零時・プロローグ《?神々に嫌われた男?》

 ゴーン、ゴーン。七時の鐘が鳴り響く。それで目を覚まし、簡単な朝食を食べる。
「おはようございまーす――」
冒険者ギルドに顔を出すと
「アンタ……!」
「げっ……」
 ベリアス――。彼女は俺の首元を掴み
「また無茶して!武器だけで良かったけど、あんた死ぬところだったらしいじゃない!」
「うぐっ……」
「《アイアンブレード》を寄こしなさい!」
「…………はい」
背中の鞘に入れているアイアンブレードをベリアスに手渡すと
「あらー見事にボロボロ…」
「すまん」
「いいわよ別に、カモがまた来たみたいなもんだし」
「あ、鍛冶場借りるわよ」
冒険者は大体がベリアスに世話になっているため、ギルドは断れない。どうぞどうぞと道を開ける。
「相変わらず使われないくせに設備だけはいいのね。ここ」
「まあ、中央ギルドだからな」
「それより、さっき言ったこと、本気なんでしょうね」
「…………ああ、頼む」
ベリアスはただ、分かったわ。とだけ言い、アイアンブレードとそれを取り出す。それは《ホワイトディザスター》の魔石。俺はこいつの罪を。後悔を背負う。それが名も知らないあの人達へのせめてもの贖罪だ。
彼女は魔石を剣に押し付け、炎で熱する。それにより刃は溶けて、混ざっていく。そして金槌で叩く。千回ほど叩き、水で冷却。その刀身はただの魔法鉱石だった頃と違いエメラルドグリーンとホワイトに輝いている。
「これが…………」
「それが、その剣の新しい姿、《ベールリオン》。意味は…………《獅子の布》」
「ベール、リオン……」