ニューワールド・ファンタズム
ギリギリ記憶の外らしい。
彼らと俺が安堵したその時、真の地獄が襲う。
「ワォォォォォォォ!!」
狼にも似たその声が大きな足跡で近づいてくる。
「……なんだ……あれ……」
ゾクッ、俺達に悪寒が走った。それは、《絶望》だった。
姿は真っ白の巨人。大剣と盾を持った巨人はこっちに向かってくる。
「う、うわあああああ!!」
団員の一人が恐怖で逃げ出した。俺達もそれに続こうとする。しかし、俺達がそっちを向いた
その瞬間。その男の首から上が無かった。
そう、消えていた。俺達がそれに気付いた時、その巨人は死者と俺達の間に立っていた。
「嘘だろ…」
そして四人。一人。死んでいった。
「くっ……」
(やるしかない!)
「ハアアアアアア!」
俺は剣技を無数に繰り出す。
しかしそれは触れる前に叩き落とされ、その斬撃は俺の前に現れた。剣を身体で支え、無理矢理抑える……俺は吹き飛ばされ、壁にぶつかった。
そしてまた一人。
「助けて……お願い……助けて……!たすけ……」
俺がさっき助けた女の子の首は、消え去った。
(……俺の身体、もってくれよ……!)
『これは、俺の未来。俺の時間は全てを置き去る。その時俺は』
詠唱中にも大剣は俺を襲う。それを躱しながら、傷つきながら、詠唱し続ける。
『神に追いつく。人は、それを、黒き者と呼ぶ。俺の時よ、進め。』
「《ブーストアクセル》!」
武技は神の力でスキルに統合された。そしてあらゆるスキルは詠唱を行うことによって最大限の効果を発揮する。
そしてこれが今の奥の手。意識を一千倍に加速させる技。しかし万能ではなく脳にかなりの負担をかける。
「届いてくれ……!」
?我が血肉を喰らいて走れ、天の欠片?
「……ッ!」
奴は心象領域とでもいうべきか。禍々しい領域を広げる。そこにたった一粒の雫が落ちる……。
――――ピチョン。
剣圧。剣が押し出す空間そのものを刃に纏い、次元を切り裂く。その刃は――――――――
――――――――――?飛天?
「……アア、アアアアアアアッ?」
黒剣と大剣がぶつかった瞬間。なにかが起きた。質量が圧倒的に大きいはずの大剣が、まるで元々無かったかのように、消え去った。
「うおおおお……アアッ!……アアアアアッ?」
そのまま奴の体を切り裂き、上半身を吹き飛ばす。
俺は彼らが残した剣を、槍を、斧を、弓を、杖を全て持ち上げダンジョンから緊急脱出する為
のクリスタルを取り出し、叫ぶ。
「テレポート…冒険者ギルド!」
神々のもたらした道具。使わせてもらうぞ。
「君は……」
「一体その武器はどうしたんだ!」
「あ、ああ、ああああ……!」
一人の神が涙を浮かべながらこっちを向いている。
「それは、うちの子の、僕の、家族の物だ……」
「彼らは、死にました……」
その神は膝を突き、泣き崩れる。
「……何があったか説明してもらえるかな」
そう言ったのはマティリス。
「それは……本当かい……?」
説明した後、ギルドに激震が走る。
「俺のせいです……俺が、助けられなかった……」
「いや、君は戦い抜いた。誇るべきことだ。それに、彼ら勇者の武器をこうして持ち帰って来てくれたじゃないか。」
「ああ、ありがとう……うちの子を、ありがどう……」
「くっ……うあああああああ!!」
その声は街中に響き渡った。後に《神の泣き声》と呼ばれるそれは、この物語の始まりだった。
あの事件の後、俺は《黒き剣士》の異名を与えられた。
これほど俺に似合った名前はないだろう。?死神??神々に嫌われた男?に相応しい名だ。
あの巨人の正体はまだ分かっていない。ギルドからコードネーム《ホワイトディザスター》を付けられたその個体。神々の知識にもなかったその巨人は、冒険者の心に闇を落とした。
そしてこの悲劇はまだ、終わらない。
「せあっ……」
四連撃剣技《エクシア》
技をぶつけたリザードマンを切り裂き、そして次の個体。リザードマンエンペラー。片手長剣にバックラーを持った帝王。
「グルアッ!」
振り下ろされた剣を弾き――。
「……?リバーサルカウンター?」
俺のオリジナル技。相手の剣を弾き爆音をぶつける《リバーサル》と空間を切り裂く斬撃?飛天?を合わせた技。相手の攻撃の隙。硬直時間を狙って爆音と?飛天?をぶつける。
長剣ごと体を吹き飛ばし、竜剣士は灰となる。
「……」
剣を鞘に入れて歩き出す。
道中のモンスターも全て殺し、気が付くとそこは……
「ボスの部屋……」
禍々しい巨大な扉。そこから溢れる黒い気配。
「……」
俺はそこに入った。
ここで死ぬのもアリだと思ったからだ。最後くらい華々しく……一人で散りたい。
「……」
無言で剣を構え、敵を待つ。すると奥からソイツが出てきた。それは二足歩行の豚のようなデカブツ。第七十六階層ボスモンスター《グレフリオ・レッド》
「……」
走り出した俺に反応し、そいつも走り出す。
「ブルルッ!」
片刃の大剣を振り回したそいつに密着し、片手剣六連撃技《イプシロン》を叩き込む。火花が飛び散り、その直後にまた連撃。
「……アアッ!」
片手剣上位技、十連撃。《プロミネンス》
「……吹っ飛びやがれ」
豚は大きく後ろに吹っ飛んだ。そして俺は更なる攻撃を……。
「グガアアアアア!!」
しかし大豚は大剣を高速で振り回し、反撃を始めた。
「……っ」
(速い……)
図体に対して動きが俊敏だ。
「ぐっ……」
捌ききれずに攻撃をもろに受けてしまう。だけど俺は立ち上がる。自分でも何故立てるのか分からない。けれど、俺の魂が生きているのなら。
「う、うおおおお!」
俺の剣は動き続ける。死ぬまで……。
まだだ…まだ、終わってねぇ……!
(動け、動き続けろ!こいつを、殺すまで……!未来に……つなげ―――)
「アルタイル!」
「やめて!」
「やめるんだ!」
誰か……喋っている…?
そんなことはどうでもいい……。剣を握れ。命を込めろ……魂を、燃やせ!
「アアアアアアアアアアッ!」
俺の身体から闘気と炎が溢れ出る。神威は持っていない。英雄になる資格のない俺が持つべき武器ではないから……。なのに。
ガッ……。
俺の動きが止まる。何かに掴まれた――?
「……?」
「何やってんだ師匠……アリス!」
「何って、弟子の馬鹿を止めない師匠が何処にいるんだよ!」
「悲しそうな目、しないで……アナタまで、そうならないで……アナタの目は……輝いていた、あの時のアナタの心は……」
「!」
「二人とも、炎が!」
「へっ、こんなのポーションでどうとでもなる……」
「私達を信じて……!」
「……!」
そうだ……身体はとっくに思い出していたんだ。俺は、英雄に!
「英雄になるんだろ!アルタイル!」
「アル!」
「……ッ!」
俺の中で何かが変わった。
いや、変わったというより、進んだというべきか。俺の闇が晴れて世界がハッキリとする。
「ここは私たちが守る。君たちは体勢を整えてくれ」
「ああ、頼むぜ《団長》!」
長剣と大盾を操る銀髪の人間。マティリス・クラン団長《ディオン・クリンス》
「アルテイシア!」
「任せろ!」
『我の声を聞いた炎の精霊よ。ここに力の軌跡を記し給え……』
「《フレイムロード》!」
魔法で放たれた炎の軌跡。副団長《アルテイシア・イージス》
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城