ニューワールド・ファンタズム
「それに彼の炎、あれは武器の能力などではない。確かに刀がトリガーとなっているが発動しているのは彼自身のスキルだ」
「《ユニークスキル》……か」
「それにどっかの誰かさんが教えた剣術」
「うっ……」
(それにあの魂……)
それから数か月が経った。
俺は他のクランの入団試験に何度も挑んでいた。
しかしどれだけ試験で結果を出しても面接で落とされて――。そしてあまりにも落とされ続けたことで?神々に嫌われた男?などという不名誉極まりない異名を付けられた。
俺はもうクランに入るのは諦めてソロでダンジョンに潜ることにした。
冒険者は八段階の階級で分けられる。それはレベルと呼ばれ、下から1、2、3、4、5となっている。アリスならLv6。アースさんならLv7。
現在の俺のレベルは一番下のLv1。ダンジョンは全百階層となっており、現在は七十六階層まで解放されている。次の階層に進むためにはそれぞれの階層に一体しかいないボスを倒すことで道が開かれる。
俺は今十六階層に立っている。片手剣水平斬り《エリア》。
対象の間合いに滑り込み一刀で叩き斬る。闘気を纏った剣術。
「それにしても、なんでこんな使いやすい剣が売れ残っていたんだろう……」
そう、俺が使っている片手直剣《ナイト・プレート》は武器屋の奥の奥で眠っていたのだ。店主に聞いてみると『誰もそいつを持ち上げられなかった』らしい。しかし俺は実際にそれを振っている。少し重みがあるがそれがいい。力を思いっきり込められる。それに暗いダンジョンでは黒い刀身は都合がいい。相手からは見えにくく、不意打ちがしやすい。片手剣にしては幅が厚く、しかしその刃により空気を切り裂きながら高速の剣技を放てる。
ドシン、ドシン、大きな足音が聞こえる。
「こいつは……《ミノタウロス》…………」
本来、冒険者がパーティーで戦うものだが……。
「グモオオォォォオオオ!」
ソロではそんなこと言ってられない。
「……っ」
左側に剣を構え、左手で剣を触れる。そのまま走り出し、胴体に斬りかかる。
腹に一文字の傷を与える。
「モォオオオオオオオッ!」
しかし牛の動きは止まらない。牛は大剣を振り上げ、俺に向かってくる。
「はっ……せあっ……」
後ろに飛び、大剣を躱す。四連撃剣技《エクシア》四肢にそれぞれ傷を付ける。
「せいっ……」
上段垂直斬り《スラスト》。そして奴の回転斬り。流水剣。剣を受け流し、そして。
「せあっ……」
五連撃剣技《エリアル》四回の斬撃、そして最後の刺突。そこは奴の急所だった。
灰となった奴は紫の魔石を落とす。それを拾い、袋に入れる。そして剣を振り払い背中の鞘に剣を収める。
「ふぅ」
カサカサ。そう動くのは大きなネズミ。《キングラット》の群れ。
「これはチッとばかしキツそうだな」
そう言って俺はもう一度剣を抜く。
「ああっ、流石に多かったな」
ネズミの群れを切り伏せた俺は冒険者ギルドに戻った。
「お願いします」
魔石をカウンターに出すとお金に換金してくれる。
「はい、三万五千○○リルです。」
「ありがとうございます」
(結構金になったな)
「……家宝の試し斬り?」
掲示板に貼ってあった一枚の依頼。
その詳細は書かれていなかったが妙に気になった俺はその依頼を受けることにした。
その紙を受付に提出。冒険者ギルドを出て、馬を借りて目的地に向かう。目的地の村はここから近くて馬車では一時間ぐらいで着く。その間武器の手入れをしようと剣を抜く。今俺が使っている剣は、思ったよりも上物らしく、アリスさん達最前線組が持っている武器と遜色ないらしい。名前通り夜のような美しく黒い刀身の片手剣。もっとも現在は武器と防具、実力が伴っていないのだが。背中の剣帯に納刀して周囲の景色を見る。もはや見慣れてしまったこの景色。しかしどこか好奇心をそそる。しかし今回の依頼である試し斬り、何かある……。普通冒険者ギルドに来る依頼はモンスター関連や遺跡調査など危険な依頼ばかりだ。なので今回のような依頼は衛兵や便利屋の仕事のはずだ。
(やっぱ、なんかあるよな)
ギルドがこの依頼を認可しているということは、その武器が余程のいわくつきか、余程の業物かだが、そんな物を小さな村が持っているのか?という疑問もあり、
「ま、行けばわかることか」しばらく馬車に揺られ。
「えっと、ここかな」
ドアをノックすると、美しい栗色の髪をした少女が出てきた。
「あ、えっと、冒険者の者です」
ぎこちない挨拶をすると少女が
「依頼を受けて頂いてありがとうございます。さ、家に上がって下さい」
「あ、どうも。お邪魔します」
対面のソファーに座り、少女が話し始める。
「お願いしたい武器がこちらになります」
そして机の上に刀を置く。
「これは?」
「その名を《アメノハバキリ》。我が家に伝わる家宝で、伝承では『その刃は天を切り裂き、全てを切り伏せる』と、言い伝えられています」
「全てを……」
「私の先祖はこの刀を使って、この村を救ったと言われています。しかし今では一族は早死にして、残ったのはわたしだけ。刀の技も学んではいるのですが、実戦経験はなく……お願いできますか?」
少女の問いに
「わかりました。引き受けましょう」
依頼されたからにはちゃんと応える。
その刀《アメノハバキリ》白い鞘と持ち手に金色の装飾が施されている。
庭に出て用意された巨大な丸太の前に立ち、刀を抜く。
「……綺麗だな」
正直な感想だ。その刃にある刃紋もそうだが、刀自身に何か吸い込まれそうな魅力がある。この刀がどうして試し斬りなどしなければいけないかもわからないほど、切れ味は刃を見て分かる。だが、依頼は依頼。やるだけだ。刀術の指南書を読ませてもらったが、剣と同じ様に扱ってはいけないと解った。剣は叩き切る。刀は切り裂く。というように、刀はその薄さから力を込める向きを固定しなければならないそうだ。
「行きます」
右斜めからの一太刀。まるでライトベールのように光を連れた刃は丸太は真っ二つにする。
「想像以上だな」
「……」
少女はその結果を見て、嬉しそうな、後悔してるような、心を押し込んでいるような……。
そんな表情をしていた。そしてこうも言う。
「やっぱり、こんな武器を私が持っているだけでいいのかな……」
「えっ」
俺は彼女の顔を見つめる。彼女は申し訳なさそうに刀を見つめている。
「戦いもしない私が持っていても、それこそ宝の持ち腐れです」
「……」
俺は何も言えない、言ってはいけないのだ。俺が口出しすることじゃない……なのに。
「……よかったら、この刀をもらってはくれませんか?」
「……え?」
「私が持てるものではないので」
俺は……
(この子は、俺と同じなんだ。先祖の重圧に潰され、心を押し殺している)
その時ふと刀を見ると、その刀身に光が走る。その光は少女を指す。
「……」
この子の為に、この子の先祖の想いを。
「……貰えません」
「どうして…?」
「きっと貴女の先祖は俺なんかよりも、貴女に持って欲しいと思います。期待じゃなくて、ただ自分の子供に自分の武器を持って欲しいんじゃないかな、生き抜くすべを持ってほしいのは期待じゃなくて、長生きしてほしいから…かな」
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城