ニューワールド・ファンタズム
「まあまあ、落ち着き給え。四十六万人を救う戦いだ、中継なしでは盛り上がらないだろう?」
そう言って奴はウィンドウを操作し、そのボタンをタップする。
「うわっ!なになに?」
この世界全ての国々に中継される。
「今現在生存し、記憶が戻っているのが二十七万人。彼らを絶望させないようにね」
俺は、右手の人差し指と中指を立てて、円を描く。
すると効果音と共に、メインメニューウィンドウが表示された。
「…………やっぱりな」
そこにあった名前は、《ギルガメッシュ》だった。
アルタイル・アリエルというのは、偽物の、俺なのか…………。
「…………関係ない」
《俺》は、?俺?なんだから。
「さあ、始めようか」
そう言って流川は全身を赤いコートで包み、白銀に輝く片手剣を装備する。
「…………ああ」
俺達の距離が急速に縮まった。
互いに上段斬りを放ち、ノックバックで後ろにとぶ。
「その剣…………何なんだ…………!」
そう、奴の剣はまさに異質。剣同士がぶつかっても、その感触が伝わってこない。ただ止まっているのが分かるだけ。
「この剣は九十七層ボスの剣でね、名は《透明剣》という」
「そうか…………よ!」
剣戟。奴は片手剣だけで俺の二刀流を防ぐ。
流石開発者というべきか。フルダイブシステムを完全に使いこなしてやがる。
また、少し距離が空いた。
「どうする?君だけでは勝ち目はないと思うが?」
「最初から分かってたことだ!」
そう叫び、左手に握るベールリオンを全力でぶん投げる。
「諦めたのか…………つまらないね」
奴はひらりと躱す。
その瞬間、俺はウィンドウを操作し、その武器を実体化する。
「その剣…………七十六層の」
ナイトプレートを左手で持ち替え、奴の言葉通りのそれを右手に武装した。
第七十六層ボス、グレフリオ・レッドの主武装であった大剣。
その名を
「輪廻剣…………!」
二本の刃が螺旋状に交わった形状のその剣を、流川に向ける。
「その剣の特性は…………《絶対貫通》」
「そうさ。ま、あの豚はそんな知能がなかったみたいだがな」
俺が構えたのは、《ヴォーパル・ブレイク》。
螺旋を赤い光が包んだ。
「…………うおおおおおおおッ!」
高速で接近し、奴の心臓を狙う。
「…………」
奴は、《絶対貫通》の効果を持つ刺突を、文字通り相殺した。二つの武器が砕ける。
「……どうして…………」
俺の驚愕に、流川はこう答えた。
「この透明剣の特性は《刀身防御》。刀身に触れた攻撃を防御する。まあ、全く同じ干渉値の効果だった為、どちらとも破壊されたがね…………君の失敗は、予備動作のある《スキル》を使ったことだよ」
「…………………っ!」
俺は焦りのままに、右手にナイトプレート、左手にベールリオンを握った。
「ぁぁああああああっ!」
二刀流最上位剣技《ザ・プロメテウス》。連続二十五回攻撃。
「馬鹿なことを…………」
流川は二本の剣を呼び出し、左右の手で握った。
ザ・プロメテウス
まったく同じ技。
…………また、失敗した。
奴はゲームマスタ―だぞ、《二刀流》を扱えない理由がどこにある。
そして硬直時間は…………防御された方が長い。
「うおああああああああああッ!」
雄叫びと共に放った二十五撃目の左刺突も、完全に合わされた。
硬直。俺が四秒なのに対して、奴は、二秒。…………致命的な差だ。
―――――――ごめん…………ごめんよ、アリス…………
「「うぉおおおおおおおおおおッ!」」
叫んだのは、ディオンと、カイン。
走った二人は、硬直したままの流川に攻撃を繰り出す。
ディオンは《神約》の中でも最強の、盾での殴打技を。
《ガーディアン・ザ・ブレイバー》
カインは手刀の最上位貫通技を。
《アベンジャー》
攻撃は確かに炸裂した。しかし、奴はポリゴンが溢れながらも動き、二人を左右の剣で薙ぎ払った。
「がっ……!」
「ぐふっ…………!」
(カイン! ディオン!)
何とか二人は無事だった。
しかし、状況は変わらない。
―――――誰か…――――――――…!
心の中で祈った時、それは現れた。
「がはっ…………」
流川の胸を後ろから、《神威》が貫いた。
そして俺の目には、神威を握る三人の姿が見えていた。
(爺ちゃん…………!)
《初代勇者》シリウス・コスモスター。
(父さん…………!)
《二代目勇者》シン・アリエル。
(母さん…………!)
二代目勇者パーティーの《聖女》ソフィア・アリエル。
三人は微笑み、頷いた。そして、光となって消えていく――――。
「…………例え、世界が……俺の家族や、アリスが作り物だったとしても! ……俺がみんなと生きたこの思い出は、決して…………?偽物?なんかじゃない!」
俺は、技を放つ。
二刀流最上位剣技《ザ・プロメテウス》。
「失敗を繰り返すとは…………!」
流川はまた、同じ技を。
ザ・プロメテウス
十撃。左右同時の切り払い。
十五撃。右切り上げ。
十七撃。右刺突。
二十三撃。左上段斬り。
二十四撃。右水平斬り。
二十五撃目。左刺突。
「同じ結果になるだけだ!」
硬直する直前の流川がそう叫ぶ。
…………俺は、止まらない。――――――――――止まれないんだ!
「う、…………うぉお…………!」
僅かに、身体が動く。
(馬鹿な…………)
流川は、理解した。
自身が開発したこの《システム》には、人の想いを仮想現実にする力があるのだと。
「行きたまえ…………アルタイル君!」
《聖騎士》ディオン・クリンス。
「行け…………!」
《旅月》カイン・アーク。
「行きなさい!アル!」
《最高鍛冶師》ベリアス・ユリーナ。
「頑張って…………!」
《刀の継承者》シーナ・アインハルト。
「行くのだ、少年」
《愛の騎士》クラデオル・ローズ。
「…………行け、アルタイル」
《騎士王》エイル・ローグ・ペンドラゴン。
「いけえええええええええええっ!」
《二代目勇者パーティーの剣士》アース。
師匠の叫びに続き、目覚めているプレーヤー全員が、そう叫んだ。
そして、世界を黄金の光が満たした。
《歌姫》セナが、《希望》の心象転写《微笑みへの明日》を発動したのだ。
ナイトプレートを、水色の光が包む。まるで最初から、《その技》を放っていたかのように。
「――――……ぁぁぁああああああああああッ!」
《スターオーバー・エクストリーム》。二十六連撃。
―――ザン。流川の身体を、切り裂いた。
瞬間、流川の身体を中心に、世界を白が包む。
◇◇◇
……なんか……両隣から気配を感じる……。
「「ふーっ……」」
「うわぁ?」
両耳に何か……息?
「やっと起きたね、アル」
「待ちくたびれましたよ」
「えっ……そんな…………アリス……?」
起き上がった俺の両隣にいたのは、二人のアリス。
「驚くことはないだろう。二人共、この世界のプログラムなのだから」
そう言ったのは、流川大智。
「…………ここは、どこなんだ……?」
真っ白い空間。俺たち以外誰もいない。
「《ニューワールド・ファンタズム》だった場所さ……君によってクリアされたため、今残っているのはワールドがあった空間だけだよ」
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城