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ニューワールド・ファンタズム

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「…………帰れるのか……けど、それならアリスは、どうなるんだ……?」
二人のアリスは、俺の左右の腕に抱き着いた。
「ずっと、一緒だよ」
「そうです、逃がしません」
「心配はいらない、彼女たちのAIは完全に統合され、ヒューマノイドの身体に転送される」
「統合……?」
 疑問に答えたのは、アリス達だった。
「私たちは元は一人、アルを奪い合うより」
「一つになって、一緒にいたいのです」
「…………そっか」
安心した。もう……会えないんじゃないかと……。
俺の感情を読み取ったのか、二人のアリスは俺を自分達で包むように抱き寄せた。
「それでは、ログアウトを始めるよ」
「…………一つ、聞かせてくれ」
アリス達から顔を離し、流川の方を向く。
「……何が目的だったんだ……?」
すると流川は笑みを浮かべ
「何故、と言われると難しいが、私は見てみたかったのだ。人が、本当に協力する姿を………」
「あの社会に、本心はなかった。しかし、異世界なら……そう思って創ったのが、このゲームだよ。……しかし、まさか君に二度もクリアされるとは思わなかったな」
一瞬何のことか分からなかったが、この世界がゲームだった頃の話だと理解する。
「ああ、ギルガメッシュ、な……」
「ゼウス討伐報酬として与えたAIをカスタマイズし、未来まで残すとはな……」
「いい考えだろ?……エンキドゥ」
「彼女は君のクロノスに保存しておこう」
「……頼む」
「《二刀流》を含む全十六種の《ユニークスキル》の中に《英雄の炎》なんて物はつくっていない。あれはいったい、何だったんだ?」
 それは驚きだった。この男が組み込んでいなかったのなら、いったい誰が―――…………。
 いや、今はこう考えようじゃないか。
「……案外、誰でもないのかもな。もしかしたら、プレイヤーの封じられた《心》が集まって出来たのが、あの力だったんじゃないかな…………。俺に宿ったのは、たまたまだ。だって、《この世界に偽物など存在しない》、だろ?」
 それは、このゲームのキャッチコピー。
 虚を突かれた顔をした奴は一呼吸置いてこう言った。
「ゲームクリアおめでとう、アルタイル君。……AIボディには人間とまったく同じ機能が搭載されているが……子供をつくるのはもっと先に頼むよ」
そう言って奴の姿が消え、世界には三人だけとなった。
「アル………本当の名前、教えてくれない?」
「知りたいのです。貴方の、あの世界での名前を」
「俺は……星川鉄也だよ」
「ホシカワ……テツヤ……」
「いい名前ですね」
「…………改めまして」
「アリス・セーフティ・リードです」
 二人は声を合わせ
「「これから末永く、よろしくお願いします」」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

世界が、完全に消えた。


 「…………」
 目が、覚めた。
 二〇三二年・一月三日。
星川鉄也の意識が、二年ぶりに起きた。
一千倍に加速された世界の外で。
「鉄也……!」
「テツ……」
「兄さん!」
家族との再会。
そんな俺の心には、ただ一つの渇望が。
「あ、り……す……」
二年ぶりに動いた舌は、途切れ途切れに言葉を発した。

アリスに会いたい。

同刻。
黄金の髪に青い瞳のヒューマノイドボディが、動き出した。
「ア、……ル……」
初めて動いたその体は、確かにそう言った。
アルタイル・アリエルに、ホシカワテツヤに会いたい。
その想いが、AIの思考を埋め尽くした。


「い、かなくちゃ……」
「行くって何処に、兄さん!」
「安静にしてなくちゃダメでしょ」
「寝てるんだ!」
「あ、アリス…………」
壁に寄りかかり、一歩、一歩ずつ、進んでいく。

「待ってて下さい……アル…………今、行きますから……」
 アリスも、その人工の身体を動かし、歩み始める。


 数か月後。
「起きて下さい、アル」
「ぁあ……おはよう、アリス」
「急いでください、学校に遅れますよ」
そう言って、アリスは鉄也にキスする。
 星川鉄也は、立ち上がる。


物語はここから始まる。
たとえそれが戦いの地獄でも、そこに生きる者たちは諦めない。
八十億人が諦めても、一人は必ず、未来に進む。
その小さな希望が、人と人を繋いでいく。
数多の世界は?本物?か?偽物?か。
剣を持った者たちは、彼らだけではなかった。
死んでいった者。冒険の先にいた者。
全ての世界に生きるすべての人々が、誰かの英雄なのだ。
これは、その一人の物語。
新世界への幻想は、この物語から始まった。
君は何を掴むか、それは君次第だ。
無限のルートを掴むのは現か、幻か。
この世界は、無限の希望で出来ていた。



                                      (おわり)