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ニューワールド・ファンタズム

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ビュン。細剣の剣先が、俺の顔を襲った。
「…………ッ?」
 ナイトプレートで防いだ。…………有り得ない。
「アリス君!」
「アリスの嬢!」
ディオンやカインも気付き、冒険者たちがざわつく。
「アリス…………いったい、どうしちまったんだ…………?」
今の攻撃、ライトベールを纏っていた…………。完全に、殺す気だ。
アリスの顔を覗くと、瞳の青が濃くなっており、表情は、まるで妖精の人形のようだった。
『驚いたかい』謎の声。しかし、何処かで…………
「 ! …………誰だ!」
『私は、この世界を創った者だ』
「…………っ、《最高神ゼウス》だっていうのか!」
俺の叫びに、一瞬の間。
『いや、ゼウスも私が創ったプログラムに過ぎない。この世界もね』
「プロ、グラム…………?」
 その時、俺の頭に電流が迸る。
 
 ―――――?俺?は、誰だ…………俺は、俺は…………日本の、ただの高校生だ…………。
 ようやく、思い出した。
 俺の名前は、……?星川鉄也?だ。
そしてこの《世界》は…………。
『《ニューワールド・ファンタズム》。《クロノス》による始まりのフルダイブMMOさ』
「それでは………まさか…………」
ディオンのかすれた声。
『そう、アリスはNPCだったというわけさ。正式名称は、《アリス・セーフティ・リード》。アルタイル君を抑え込むシステムさ』
「俺を…………抑え込むだと…………」
『そう。気にならなかったかい?いつも助けてくれる、可憐な少女を。………君を助け、不要な成長を抑制する、それが彼女の役目さ。…………アリス・フリューレというのは、それを隠す?偽物?さ』
「………… ! ……貴様…………?流川大智?!」
 俺が叫んだその名前は、このゲームの、開発責任者でもあり、原案者でもある男の名だった。
ゲーマーでは知らない者はいない、そう断言できる。フルダイブ技術の基礎理論を提唱し、更に家庭用ゲーム機《クロノス》にまで小型化した、次のノーベル賞確実と言われていた男。
『…………よく気が付いたものだよ。そして彼女は、この層のボスでもある。そうだ、彼女を倒したら私への挑戦権を与えよう。…………アルタイル君以外の武器の攻撃力をゼロにした。アルタイル君、存分に戦ってくれたまえ』
その直後、ディオン達が倒れた。麻痺、倦怠感、圧迫のデバフをくらったのだ。
「アリス………やめてくれよ…………アリス!」
 俺の叫びむなしく、アリスの剣が俺を襲った。
「諦めなさい。アリス・フリューレは、もう死んだのです」
そう言うのは、?本当のアリス?。
「今の私は、アリス・セーフティ・リードですよ」
顔色一つ変えずに剣戟を放つ姿は、まさにプログラム。
「くっ…………」
左右の剣で捌く。しかし、一撃が重い。
そして何より、身体に力が入らない。別に麻痺毒を盛られたわけでもない。
ただ、俺の心が、戦うのを拒否しているだけだ。

―――――――――ここで死ぬのか?

…………アリスは変わらず剣を振るう。
この二年半の記憶が、一瞬で再生される。
遂にアリスの剣が俺の身体を捉え始めた。肉がどんどん削れる。…………いや、肉ではない。
ポリゴンだ。今まで血肉に見えていたそれは、赤く小さな四角片。
ここは、ゲーム。
だから…………俺は、生きて、…………《家族》のもとに、生きて帰るんだ。
「アリス……お前と…………帰るんだ!」
俺は、最初の反撃を放つ。単発技《ソニックリード》。弧を描いて放たれる斬撃。
アリスの剣を弾いた。
「そ、こだぁあああああ!」
ベールリオンを赤い光が覆う。単発突進技《ヴォーパル・ブレイク》。
鮮血を引き連れて走る剣先で、アリスの心臓部を狙う。
入った。そう、確信した。
だけど――――――――――――――――――――。
「な、んで…………」
俺の目に飛び込んできたのは、涙を流すアリスの姿だった。
剣を止めてしまった。…………世界の圧力に屈する。〇・五秒の硬直。
しかし、アリスは動かない。剣を振らない。…………その瞳には、涙が。
「…………何故、何故…………貴方を……殺せないのですか…………!」
《アリス》の悲痛な叫び。それは、《あのアリス》と重なった。
「アルタイル・アリエル…………この感情は…………この気持ちは、何なのです…………!」
「…………愛……だと思う」
 《あのアリス》ならこう言っただろう。そう思い、俺は答えた。
「愛…………恋ですか…………《前の私》は、こんな気持ちを抱いていたのですね………創られた存在だというのに」
アリスは、初めて笑った。それは、《自分》を嘲笑う笑み。
 それが、俺の心を動かした。
「創られた存在だろうが…………プログラムだろうが関係ないよ。俺達人間の脳から出ているのだってただの電気信号さ。入れ物が機械だろうが、生き物だろうが、本質は変わらない」
「…………そうだ…………」
言葉を繋げたのは、立ち上がったディオン。
「《君》には、何度も危機を救われた…………この四年、《君》は何の為に剣を取った!」
「ああ…………その通りだぜ、旦那」
カインもよろよろと立ち上がり、倒れそうになりながらも。
「アリスの嬢…………恋は、愛は、誰かに縛られちゃいけないものなんだ…………大切なのは、自分の?意志?だ。恋は自由(フリーダム)にってな」
『面白い』
そう言うのは、流川大智。
『彼女はもう君を殺せないだろう…………ならば、こうするのみだよ』
何かしらの操作をしたのだろう。
次の瞬間、アリスの体が動かされる。
「何故………身体が勝手に…………!」
 細剣がライトベールに包まれ、アリスの身体が攻撃モーションを起こす。
「…………私では止められませんか…………お願いしますよ、アルタイル・アリエル。私の、愛する人よ」
「…………っ」
 嗚咽を噛みしめ、その《技》を構える。
 一瞬、アリスが消えたように見えた。
しかし、俺を襲ったのは、《七本の剣》。次元を超えた七撃。

細剣最上位剣技《コスモスター・レスティング》。同時七撃。

「…………うぉおおおおおおお―――――――――――ッ!」

片手剣最上位剣技《スターブレイク・ノヴァ》。八連撃。

俺の身体は自分史上最も速く動いた。まるで、《ブーストアクセル》でも使っているかのように、思考が加速される。
七本の剣が、止まって見える。
「はぁああああああああ―――――――――――――ッ!」
七連撃を弾き、俺は最後の上段斬りを放った。
「…………」
剣を受け入れるアリスはナイトプレートによって切り裂かれ、ポリゴンとなって消滅した。
アリスは口を動かし、無音でこう言った。

 愛してる

…………笑っていた。

 笑顔を、もう一度見たい。
 眼の縁に熱い雫が溜まるのを感じ、拭った。

「アリス………俺は、やるよ」
またアナウンス。
『お見事。まさか本当にアリスを倒すとはね。…………約束だ、褒美を与えようじゃないか』
俺の前にポリゴンが集まり、人の形を作っていく。
「やあ、初めまして」
栗色の髪の、若い男。確か当時二十六歳。…………間違いない。流川大智だ。
「流川………!」
殺気を?き出しにする俺に、奴はこう言った。