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ニューワールド・ファンタズム

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ディオンも、観客たちも押し黙った。
しかし三人だけ、声援を送ってくれる者たちが。
「行けアル坊、愛の力を見せてやれ―――!」
カイン。
「負けたら承知しないよ、アル!」
ベリアス。
「…………アル―――――――――!…………頑張れ―――!」
アリスの声が、微かに届いた。
《スターマーク・リオネル》。連続十四回攻撃。
空間を灼く火花より速く、その連撃は舞う。
十三撃目、左刺突はディオンの左頬を掠めた。
「…………ぁぁぁあああああああッ!」
十四撃目。渾身の右上段斬り。
三人の俺が重なり、右腕に心の力が灯る。
そしてその瞬間。三人の手が、俺の背中を押した。
「…………せ、……あああああああ――――――――――――――――――――ッ!」
 ディオンの盾を両断し、更に剣も折る。
「…………負けたよ」
 ウィナー、アルタイル・アリエル。
そんな声も聞こえず、俺は意識が飛びそうになる…………。
後ろに倒れそうになった時、背中に何かが当たる。
「…………アリス…………?」
アリスが後ろから俺を抱いて支えていた。
「…………勝ったよ」
「うん…………うん…………!」

 ディオンに勝利した俺は、正式にアリスにプロポーズした。
「俺と………結婚してください」
「…………はい」
笑いながら瞳に涙を浮かべるアリスを見つめながら、俺は安堵する。
闘技場でのプロポーズに観客たちは口笛を鳴らしたり、拍手を送ってくれたり、歓声をくれた。
「…………あり?」
バランスがとれない…………後ろに倒れ―――
「やれやれ、大丈夫かい、アルタイル君」
俺の肩を支えたのは、ディオン。
「……ああ、すまないな…………」
「まったく。………前から思っていたのだが、君の戦闘スタイルは一対一に特化しすぎている。一戦全てに限界を注ぐと、その後が大変だぞ…………うちの神は心配性だ。前回の決闘は私の判断で行ったがね…………何故不合格にしたのか理由がわからない。……気を付けたまえ」
「忠告どうも…………けど、負ける気はしないよ」
俺の手を握るアリスを見つめ、これが現実なんだと実感した。
――――――起きてくれ、…………t――
――――――起きてよ…………テ――
――――――起きて…………兄さん!――――――――――――――――――――ザッ。
「…………?」
 今、何かノイズが…………?
「どうかしたの?」
大変うれしそうなアリスが顔を近づけてくる。
「いや…………何でもない」
「さあ、行こう!」
 アリスに手を引かれ、闘技場を飛び出す。
 俺達が向かったのは、役所。
 婚姻届は、今すぐ出す。それは、俺達が互いに思っていたことだった。
 カウンターで待っている時。
「…………一つ、聞いていいか」
「どうしたの?」
「アリスが言う………?綺麗な心?って、どういうことなんだ?」
あの時から………グレフリオ・レッド戦から気になっていた事だ。
「それはね、優しくて強い。私が好きな心の事だよ」
「お待たせしました」
 出されたのは、たった一枚の紙。
 けれどそれは、俺達を結ぶ一枚だ。

夫、アルタイル・アリエル
妻、アリス・フリューレ
             人暦二〇二四年、婚姻。


      最終章《ニューワールド・ファンタズム》
 アリスと結婚してから一週間が経った。
 今は二人、俺の家で暮らしている(アリスは今までクランの寮で暮らしていた)。
 夕食中。
紅茶を飲むアリスの、宙に流れるような美しい身体を見つめる。
アリスの左薬指に嵌めてある指輪は、決闘の次の日に送った。
来週には結婚式を予定している。幸せだ。心からそう思う。
「……どうかした?」
見つめているのに気付かれ、顔を赤める。
「何か気になるの?」
「…………明日のことさ」
「……うん…………第七十七層ボス討伐戦」
「…………早すぎやしないか?」
「そうだね……確かに、いつもなら三年に一回位だったけど…………」
 七十年前、初代《勇者》である爺ちゃんが生まれてから、人間の最低能力値が大幅に上昇した。それまで、ボス攻略戦は数十年に一度だったそうだ。
しかし、最近の冒険者練度が上がってきているとはいえ、ここまで早いとは…………。
「もしかしたら、その分?ボスが強い?とかな」
「ただでさえ強いのにねー」
「…………勘弁してほしいな」
グレフリオ・レッドより強いのは確定しているのだが…………。
そんな会話をしていると。
「お届け物でーす」
とドアをノックされた。
「はーい!」
アリスが荷物を受け取る。
「封筒………?」
「誰から?」
「えっと、送り主は団長みたい………」
「ディオン?…………開けてみるか」
「うん………そうだね」
受け取った封筒を開き、中に入っている数枚の紙を取り出す。
『まずは、結婚おめでとう。式には呼んでくれたまえ?』
「ぷっ…………」
思わず笑いそうになった。しかし二枚目。
『第七十七層ボスの情報』と記されていた。
「これ、もしかして…………」
絶句するアリスに俺は答える
「ああ、ギルド調査班の報告書だな………読んでみよう」
『報告077 攻略対象、確認できず。』
「…………は?」
「え?」
―――…………ボスが…………いない?
『以後、正体不明のボスを《インヴィジブル》と呼称する。』
「…………インヴィジブル…………」
「見えない敵、か…………苦戦しそうだね……」
「……ああ、そうだな…………」
三枚目の紙には、ディオンからのメッセージ。
『この通り、現状敵の能力や外見すら分かっていない状況だ。危険だとは思うが、頼む。協力してくれ』
「そこまで言われたら…………」
「断る訳にはいかない、よね」
アリスは仕方ないなー、と言わんばかりにため息をつく。攻略の鬼姫と呼ばれたのはアリスの方なんだけどなー、と思った次の瞬間。
ビュン!
ライトベールに包まれたアリスの手刀が、俺の眼前で停止した。
「…………何か失礼なこと考えてなかった?」
雰囲気が一変したアリスに焦り、
「なにも、なにも思ってない!」
ちょっと前にしたばかりのような会話をしながら…………。
「じゃ、明日の準備しようか」
胸を張るアリスを見て、この人だけは何をしても絶対に守ろうと決心する俺なのであった。
「おう」

◇◇◇

 朝が来た。
 …………夢を見ていた…………。
 どこか知っている家で目覚め、家族と平和に暮らす…………そんな夢。

「起きて、アル」
「ん…………むにゃむにゃ……おはよう………アリス…………」
「さ、行くよ」
俺は頭のスイッチを切り替えて
「ああ!」
と、朝一番の元気な声で答える。

 ギルドの転移ポータルで移動すると、ボス部屋前には、もう大勢の冒険者が待機していた。
「皆、覚悟はできているだろうが、引き返したいものは帰って構わない。しかし、先を見たい者は…………剣を取れ」
ディオンの言葉に、皆が真剣な眼差しを向ける。
「さあ、…………行こうか」
扉が重く、ギギギ…………と錆びた音を出す。
そして完全に開くと、暗闇が現れる。
「突撃!」
ディオンの号令で全員が中に侵入する。
しかし、何もいない。
ボスはいない。
 だけど、そんなはずはない。
「アリス…………?」