ニューワールド・ファンタズム
女神から光が漏れ出て、それが空に浮かぶ。それは巨大な球体へと姿を変えた。
「全て、終わりなさい……!」
「……………………ッ」
「させるかああああああ?」
飛び出したのは《セイバー》。球体の中心にいる女に迫る。
「エイル!」
「この国を、俺達の家族を……………………これ以上、壊すんじゃねえ!」
「奴隷如きが………!」
「俺もいるんだよ!」
《双竜牙突撃(ダブルドラグストライカー)》!
両手の剣で放つ最強の突進技。そして二刀流上位剣技《ナイン・ストライク》。十一連撃の後。
「《スターマーク・リオネル》…………!」
今出せる最強の技。最上位剣技程ではないが、追尾性能が高い必殺。
《二刀流》。以前ステータスプレートに現れた文字化けしたスキル。二か月前、いきなりその文字が《二刀流》に切り替わった。そのスキル内容は『左右の手であらゆる武器を操るスキル。一刀状態でもスキルの能力上昇、基本能力上昇。左右の手でそれぞれ武器を装備した場合、二刀流専用技が発動する。更に二刀状態で放つ通常スキルは攻撃力が一・五倍になる。王の資格の一つ。』
「うおあああああ!」
十四撃目の右手上段斬り。身体を真っ二つにする――。しかし、奴は本能で暴れる化け物と化していた。
(クソ………SP(スキルポイント)も底をついた………)
そう、今までの戦いでスキル、炎、闘気を使い果たしてしまった。SPに関しては《二刀流》のデメリットである『通常スキル以上にSPを消費する』という点により、三分の一程残っていたSPも、三回の大技でほとんど使い切ってしまった。使えるのは、初級、下級剣技。それも恐らく数回―――。
「武技?限界突破?!?ブーストアクセル?!?ソニックアクセル?!?身体把握?!」
負担を引き換えに肉体の限界を超える。意識を一千倍に加速。身体速度を加速。全身の筋肉が隆起し、血管が浮き上がる。
(全てを込めろ、精神を!)
古代、武技を使用していた者たちが使っていたのはSPでも、闘気でも、魔力でもなかった。
それは、?気?と呼ばれるもの。精神力である。?武技?――。
?魂気剣装?剣に気を纏わせる武技。
二刀流武技?激烈閃撃?
六連撃の二刀流技。そして新たな武技を発動――。?七連光鏡?七連撃を全く同時に放つ技。
片手直剣四連撃技《エクシア》。
水平四連撃を叩き込み、身体が硬直――。
その頃。
「アリス、もう一度?星砕きの流星群?を撃てるか?」
「撃てるけど…………どうするの?」
「お前の剣に俺の闘気とSPを込める。アルタイルに力を届けるんだ!」
「―――分かった」
「はああああ……………………!」
アリスの細剣に光が宿る。そしてアリスは剣先をアルタイルに向ける―――。
「?星砕きの流星群?!」
「行っけえええええ?」
「受け取れ!アルタイル!」
「!」
身体の中に、力が―――。俺の中に闘気とSPが流れ込んでくる―――。
「うおおおおおおお!」
硬直を乗り越えて、剣を振り下ろす。
セイバーと同時の攻撃。俺達の雄叫びと同時に、力が増す。
「終わりだ…………ロゼラリアぁああああ!」
これなら、撃てる――!剣を握る力が増す。そして俺は、その力が籠った文を口に出す。
『流星よ。我の剣から溢れ出し熱により、空間を熱せよ!小さき火花で世界を照らし、明日への道を切り開く、閃光を生み出す只人の必然…………。それは、革命の軌跡なり!』
一瞬のタメの直後、俺はもう一度、その技を放つ―――――――――――――――。
「スターマーク・リオネル…………!」
雄叫びと共に荒れ狂う本能。神経が焼き切れそうなほど、限界を超えた動作。
完全詠唱により最大火力を生み出す。そして今までの二刀流の経験を全て出し切る。腕を振る速度が徐々に加速していく。人間を超えた剣。
「?奪命?!」
「まだ動け!アウェイキングセイバー!目を覚ませ!ここで止まるんじゃ、ねえええ!」
セイバーの眼が赤く輝いた。駆動音が大きくなり、膂力が爆発的に上昇する。
「エクス……カリバー!」
「ナイトプレート!ベールリオン!力貸せ!」
硬度が増し、切れ味も向上。
(これでも……!)
斬れない。大剣でも、二刀流でも……俺は……俺は!
―――英雄に――――。
子供の頃、父さんと爺ちゃん……母さんに読んでもらった古代の……いや、最初の英雄。その名は《ギルガメシュ叙事詩》。
女神と庶民の間に生まれた男が、その国の王となり、神々に抗う物語。
「英雄になるんだよ!俺はああああああ!」
「自己顕示欲の塊ね!」
「そうだよ!俺はただ、誰かを救えればいい、それで満足する……それが、俺だあああああ!」
あと、もう少し―――。
「何なのよ、あんた達……!」
「俺は、俺だ!」
「俺達は!人間だ!」
アルタイルが金髪、赤い瞳に。そして金のオーラを吹き出した。しかし魂は、アルタイル・アリエルのまま。そして、《翼》が発動する―――――――――――。
「「うおおおああああああああああああああッ?」」
女神を、殺した。
「やった、の、か……?」
「ああ、俺達は、勝ったんだ……俺達は……自由だ……!」
スレイブの名を捨てて、人間として生きていく。黒種ではなく、男だ。
「セイバー……よくやった……」
機体の間から蒸気が吹き出し、冷却が始まる。
「おーい!アルタイル!」
「師匠、アリス!」
「お前ら!」
「アルタイル、ギルマスから言いたいことがあるそうだ」
俺はステータスプレートを取り出し、タップ。
『やあ、アルタイル君』
「ギルマス……」
『そんなに固まらなくていいって!むしろよくやってくれたと言いたいぐらいだし!』
「え?」
『いやぁ、オジサンも昔あの女神にやられたクチだからね……そして神々の中でも、ロゼラリアはやりすぎたってことで、今回の事は不問にするそうだよ』
「……マジ?」
『マジマジ』
「よかったね、アル」
「ああ、これからどうしようかと……」
「まあ、私はそれでもついて行くけどね」
「なんて?」
「……なんでも」
小声で聞き取れなかった――。
「……………………エイル、これからどうする気だ?」
「仲間達とこの国を建て直す。まずは女との和解からだ」
「……………………そうか、頑張れよ」
「……お前もな」
俺達は笑いながら、拳をコツン、とぶつける。
「それじゃ、俺達は帰るとするよ」
「もう帰るのか?」
レングたちが戸惑いを見せる。
「俺達は《冒険者》だからな」
「……………………そうだったな」
「「じゃあな」」
帰路にてアリスが
「いいの?あんな別れで……」
「また会えるさ、それに、俺は、アルタイル・アリエル……勇者の孫であり、息子。そして…………未熟者だから」
「ふふっ……」
「面白いことを言うなぁ」
「……帰ろう、アースリアに」
この後、歌姫事件もロゼラリアの仕組んだことが発覚。そしてこの事件は《解放戦争》の終幕となった。しかし、まだ終わらない。この世界はまだ、続く。
これは、《黒き剣士》が英雄になる物語。
最も古き幻想から始まった、最も長き?英雄譚?。
第四章《作り物の本物》
《二刀流》を知っているのは、俺を除いてエイルのみ。
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城