ニューワールド・ファンタズム
「竜技?神滅竜断罪(シン・ドラグパニッシャー)?!」
それから時代は進み……神と生命が共に暮らす時代。
第一章《黒き剣士》
「あ、あ、ああああっ!」
逃げているのは普通の人間《アルタイル・アリエル》。黒髪に青い瞳を持つ少年。
いつも通り山に山菜を取りに来ていた僕の前に現れたのは、ゴブリン。冒険者なら簡単に討伐してしまう下級モンスターだが、僕にそんな力は無い。だから逃げるしかない。走り続けた。そして今は僕以外に誰も住んでいない家に辿り着く。
「なにか、なにか武器は………そうだ」
ある。あるぞ……たった一本の武器が……。
「ごめん、父さん。」
壁にある鍵穴に鍵を刺すと、一本の刀が出てきた。紺色の鞘に入った《封印剣・神威》。昔、父が持って帰ってきたこの刀は抜くことを許されなかった。だけど、今は。
「お願い……力を貸して!」
刀を引き抜き、外に来たゴブリンに相対する。
「キシャシャ!」
「せいっ!」
掛け声と共に振った刀は、ゴブリンを一刀両断した。
「すごい………!」
ガサッ、草むらからもう一つ、影が現れる。それは
「ホブゴブリン?」
ゴブリンの上位種。……勝てるわけない。
「グルアアッ!」
拳を刀身に受ける――。しかし受けきれずに大きく吹き飛ばされた。
「逃げなきゃ……」
『愚か者!』
「えっ?」
その声と共に僕の身体から黄金の炎が溢れ出る。
「なに……これ……?」
(……知らないのに、使い方が分かる。まるで、昔使ったことがあるような感覚――)
「………こうかな」
掲げた刀身に炎が宿る。両手で握り、走り出し、踏み込み、振り下ろす。
「うおおおおお!」
その攻撃はゴブリンの脳天に直撃して、ゴブリンは灰になった。
「倒せた………!」
刀を鞘に戻すと炎は消えた。
「これが……《神威》……」
(これが、戦う感覚……!)
なりたい。そんな気持ちが溢れてきた。冒険者になりたい。
「善は急げだ!」
僕は修行を開始した。神威と炎を扱う練習。刀を振る感覚が馴染んでいく。そして剣術をやってみることにした。父と祖父の技術が書かれた《剣術指南書》を読み込み、実戦していく。剣術で大切なのが《闘気》。自身の生命力や活力を練り、力を生む。その《闘気》を使い剣術は鋭く、速く、重くなる。そして炎に関しては学ぶ方法が無い為、試していくしか方法が無い。炎を神威に集中させ放つ斬撃、《飛剣》と名付けた。振り払うと炎が斬撃の形で飛んでいくためそう付けた。
「よし!」
家にあった灰色のおんぼろコートを着て、最低限の鎧を着ける。荷物を持って、出発だ。
四人で撮った写真に向かって
「行ってきます!」
家から飛び出し、街を目指す。
一日目の夕方、小さな村に辿り着いた。
そこには小さな宿屋があり、そこに泊まる。
「宿泊代は十リルです」
「十か……」
家にあったお金は二十五万。まだ余裕はあるが、これからのことを考えると少し心配だ。早く冒険者になって稼ごう。簡易ベッドにランプ。辺境の安い宿屋なので、それ以上を求めてはいけない。次の日、村の外の森に出る。
「あの子は――」
村の外で歩いている時、怪我をした女の子を見つけた。
「どうしたんだ、君は――」
「たすけて、おにいちゃん!」
泣きながら女の子は話し始めた。母親と散歩に出ていた時、シルバーウルフに遭遇してしまったという。その名の通り銀色の狼、爪と牙は鋭く、素早く、群れで活動するモンスター。
ダンジョンから出たモンスターは各地に広がり、暮らしている。
「―――分かった。……お兄ちゃんに任せとけ」
「おねがい……ままを、たすけて……」
村に戻り女の子を預け、事情を説明する。
ある者は狼を恐れ、ある者は狼の怒りを買ったと騒ぎ、またある者は、武器を取った。
「いいんですか?正面から戦おうなんて……」
村のおじさんが剣を握りながら。
「ここは俺達の村だからな、余所者にだけ任せるわけにはいかんのよ」
その男は昔、冒険者だったが才能のなさを思い知り、村に戻ってきたらしい。
「来たぞ、銀狼だ」
白銀の毛に覆われた獣。それに対し、おじさんは片手剣を手に取った。
「盾は……」
「いらん、反応速度と剣速が鈍る」
「…………行きましょう」
神威を引き抜く。武器を見た狼はこっちに突進を仕掛けてくる。
「先陣は俺が切ろう」
男が剣を斜めに振り下ろすと、狼の首が地面に落ちた。
「すごい……」
「まだ来るぞ」
神威を構えて、皮籠手に峰をあててどっしりと構える。
「?流水絶閃?」
狼の爪を受け流し、その力を利用して獣を切り裂く。
「やるな、君」
そう言いながら男は右手の剣に力を込める。
「お、おおおおおおッ!」
三体もの狼を薙ぎ払った。すごい……冒険者は、こんなに強いのか……。
二十体程倒した後、大きな影が現れた。
「でかい……!」
「こいつは……《キングシルバーウルフ》……?」
大きい。全長六?ぐらいあるんじゃないか……?
「俺が引きつける、そのうちに側面から!」
「任せてください!」
「うおらああああッ!」
神威?鉄鎚?!
上段からの全体重を乗せた一撃。
「久しぶりだが、やってやるぞ……!」
おじさんは全身から《闘気》を吹き出した。生命力の塊を剣に乗せて放つ。
「?剛剣?!」
「僕も……」
片手剣四連撃技《エクシア》。足を一本吹き飛ばした。
「まだだ……!」
片手直剣刺突剣技《ブラスト》。胴体に突き刺して、臓器を抉る。
「もう少し……あっ!」
狼の後ろで倒れている女性――あの子の母親か。
片手剣刺突系突進技《ヴォーパル・ブレイク》。赤いライトベールの残像を残しながら獣を貫き、女性の近くに辿り着く。
「この人は、僕が守る!」
その時、僕の中から闘気が溢れ出た。凄まじい勢いで。
闘気を、剣先に集中――。父さん、使うよ。
?竜技?《竜牙突撃(ドラグストライカー)》
父さんの得意とした闘気の剣術。膨大な量の闘気を剣先の一点に集中。今の僕では全ての闘気を込めなければ使用できない。練りあがった闘気の渦。
竜の闘気を身に纏い、そのままキングシルバーウルフの心臓を貫いた。
「君、本当に行くのか?せめて夜が明けてから……」
「いえ、余計に止まれなくなったので、急ぎます」
「そうか、あの子には俺から伝えておこう」
「お願いします」
僕はまた、進みだした。夜の中、暗い暗い、夜の中。
「わぁ……!」
村を出て数日、冒険者の街《アースリア》へと到着。
「ギルドはっと……」
しばらく歩いていると、そこにあった。
「ここが、ギルド……」
「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうか?」
受付の女性は営業スマイルで問いかけてくる。
「冒険者登録を」
「分かりました。それではこの用紙に記入をお願いします。」
差し出された紙には名前、年齢、主武器、戦闘方法の記入欄があった。アルタイル・アリエル、十四歳、刀、剣術、炎。
「ありがとうございます。この炎というのは?魔法でしょうか?」
「まあ、そんな感じです」
実際のところ僕にも分からない。炎を出す魔剣では無いのに、金の炎を放出する。そもそもこの神威はモンスターを倒すことでその命を吸収し、その強度と切れ味を向上させるという、対モンスター用の魔剣なのだ。
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城