ニューワールド・ファンタズム
「それはすぐ分かる」
「?」
戦争に負けたスレイブ。つまり男『黒種』(ブラック)それを虐げる女『帝王種』(ロード)
そんなことが正当化されていい理由が、あってたまるか。
「よく来たわね《黒き剣士》」
師匠に案内された王城の女王の間。そこには王座の上にもう一つの椅子……そこに座っていたのが。
「私が《ロゼラリア》よ」
「あんた、なんで俺を呼んだ」
「それはね、救ってほしいからよ。貴方も知っているでしょう?この国は神の恩恵を受けていない。だから自分達の科学力で守るしかない。そこで現れたのが貴方。恩恵を受けずに恩恵を超えた男。貴方がこの国を救う勇者になるのよ《黒き剣士》」
「いいだろう。」
「そう、よかったわ」
「ただし、俺が救うのはこの国ではなく、スレイブ達だ」
「……どういうつもりかしら?」
「どうもこうも、愛と平和の女神様が奴隷制度を推進しているって情報を聞いてな?俺は前々からこの国が嫌いだった。人間を扱う権利は、誰も持っちゃいない!」
「……残念ね」
ロゼラリアが手を振ると騎士たちが現れる。王宮のじゃない、《ロゼラリア・クラン》のだ。
「やりなさい」
騎士たちは襲い掛かってくる。
「お前らはすっこんでろ!」
俺の闘気に気圧された騎士たちはバタバタと倒れていく。
「じゃあな。支配と差別の女神さんよ」
そう言って窓から飛び降りる。体術スキルで受け身を取り、ダメージはない。
「……」
先に調べておいて正解だったな。俺が行くべき場所は。
(最前線、北部!)
「……《ソニックアクセル》!」
身体の最高速度を引き出す。
走ったその先にあったのは。
「なんだこれ、扉?」
首都から約三時間。高さ数十?の、鋼鉄の。
「でかすぎんだろ」
その時スピーカーから
『こちら、北部戦線第一戦団。貴官の所属を名乗れ。』
「こちら冒険者ギルドアースリア支部所属第一級冒険者。アルタイル・アリエル…………
貴官達を救出に参上した。」
『この基地には軍人以外の者は侵入出来ない。それに、本当に僕達を助けてくれるの?』
最後の声は震えていた。恐怖に怯える子供の声。
「ああ、任せろ。」
『この扉は厚さ五?あるんだよ。壊せるわけがない』
「修行の成果を見せてやるさ」
俺の最近の特訓は神威を抜かずに炎を扱う練習。あの時、豚を倒した時のイメージを。
「フーッ…………」
腰を落とし、どっしりと構え、そして武術の?掌?の構えを取る。炎を掌に集めて。
「?炎掌??」
そこから炎を一点解放。
「ハアアアアアア!」
扉を吹き飛ばす。地面ごと抉り飛ばし跡形もなくなる。
「これでいいだろ?」
『……ありがとう。冒険者』
「……ああ」
中に入るとみんなから剣に興味を持たれた。この国の剣といえばロボットの大剣のみ。人が持つ剣など昔のものになっているらしい。しかも、その大剣を振るうのは大隊長ただ一人という。
「俺は二番隊隊長、レングだ」
「おーい。カイ、エイルを呼んでくれ!」
「はいはーい」
「……」
しばらくすると無表情な少年がやってきた。
「こいつが俺達の大隊長、エイルだ」
「……よろしく」
「ああ」
「ごめんねー無愛想でしょ」
「あはは……」
「本題に入りたい」
エイルと呼ばれた少年は話を切り出す。
「本当に俺達を助けるつもりか?」
「ああ、そうだ」
「…………なら、俺達も動き出すか」
「……?」
「俺達も一週間後に革命を起こすつもりだったのさ」
レングが笑いながら話す。
「あの悪女共の顔面に一発ぶち込まないと気が済まないからな!」
レングの声に周りの少年達もそれに頷く。
「それなら話は早い」
「俺達の戦力は大型が百六○機、小型が八十八機。……そして」
『儂達だ』
半透明の男たちが音もなく現れる。
「あんたたちは……?」
「この人たちは僕たちの先祖。死んだ黒種の人達の魂だよ」
「死んだ……魂……」
「そう、そして俺達黒種には能力がある。……死者を身に宿しそれをトレースする能力?英霊憑依?」
「凄い能力だな……」
「神の加護がない俺達の力だ」
「……俺と同じか」
「え?」
「俺にも加護はないんだ」
「それであの力を……?」
「どうして俺にこんな力が宿ったのかは分からない。それに俺は二年前、刀を引き抜くまで自分のステータスすら見ようとしてなかった。冒険者になってステータスを見れるようになってもそれを人に見せようとは思えない。ただ、俺は俺だ。神の加護を受けない純粋な俺の力。それはあの女神がいうように、君達への希望になるのかな?」
「……ああ、お前は俺達の希望だ」
「そうだぞ。」
「一緒にあいつらを叩く」
「おう!」
首都からここまで約三時間。この基地から戦士が飛び出す。
「行くぞおおおおおおお!」
俺たちが向かったのは王城の裏側。城壁の警備が最も薄い場所。警備しているのは《ロゼラリア・クラン》と警備兵のみ。この大扉を破壊するのは俺の仕事だ。
「炎術?炎波?!」
両手から溢れ出る炎が扉を溶かす。そしてそれを合図に全方位から侵入する。
「一番隊、出る。」
『了解!』
『野郎共!終わらせるぞ!』
『押忍!』
「ああ、決着をつけよう」
これが俺達の革命となる。そしてこれは、神破りとなる。
ガシュン、大きな足音と駆動音。これは俺たちのものでは無い。
「あれは……」
王国の首都防衛兵器。それは《セルウス》によく似た二足歩行の機体。
それは味方などではない。……敵だ。機関銃を互いに向け乱射する。
『俺が先陣を切る』
そう言ってエイルの《セルウス》が敵に向かう。振動ロングソードを手に。
『道を開けろ!』
俺は兵器相手に戦うことがないので全て任せてしまっている。
「……大丈夫か?」
『問題ない。燃料も弾薬も残っている。……気付いたか?』
「ああ、死体も確認した。黒種じゃない。帝王種……女だ」
『奴らが前線に出てくるとはな……てっきり男を乗せると思っていたが。』
『同感だな』
『ああ』
『だけど、遠慮なくやれるってことだろ?』
その一言にパイロット達はニッ、と笑い、操縦桿を強く握る。
「……来たぞ。」
騎士。ここは俺の戦場だ。
「……せあっ」
片手剣重突進技《ストライカー》。複数人の騎士を吹き飛ばして、次の構え。
片手剣六連撃技《パーティクル》。
範囲内の敵を薙ぎ払う高位剣技だ。そして俺達が向かうのは勿論、王城。
「待て!」
その声は木霊する。それは、一人の女性騎士だった。
「私たちがここを守る!」
騎士から闘気が噴き出す。そのオーラは徐々に形を作っていく――闘気の巨人。
『こいつは俺がやる』
「エイル……」
『任せたぞ、大隊長。』
『任せろ』
俺達は先に向かう。
『さあ、やろうか』
「目覚めろ!闘気の騎士(オーラ・ガーディアン)!」
『《セルウス》!』
互いに巨大な剣を構え、走り出す。
『?英霊憑依?!?魂?(ソウル)?融合?(オン)!』
?アーサー・ペンドラゴン?
「愛する女神よ!我に力を!」
『セアッ!』
「ハアアアアアア!」
鍔迫り合いにもつれ込んだ。互いに一歩も譲れないこの戦い。
「女神に、勝利を……!」
『俺達だって……ここで負けられないんだ!』
幼い頃。俺の目の前で母が父を射殺した。それは子供だった俺に深い傷を負わせた。心の傷。
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城