ニューワールド・ファンタズム
俺はソファーから立ち上がり、部屋を出る。
(疲れた。後でカインに礼を言っておかないとな。)
後で聞いた話によるとカインはアリスさんの攻撃に耐え、倒れなかったという。
あいつすごいやつなんだな……。アリスはなんで強い人は一人がいいんだろう……って俺に聞いてきた。いやディオン団長じゃん!というツッコミはやめておいたが。
「疲れた」
マジで休めねぇんだけど。しかもカインは明日のライブに行くつもりらしい。
よくそんな体力あるよな、バカだからだろうか。あいつ今頃くしゃみしてんのかな。しかし天使とはいえあんなことするんだな…………。
「…………眠い」
ふと自分のステータスカードを見ると、
「なんだこれ?」
習得スキル一覧に《■■■》と文字化けして読めない物が表示されていた。
「こんなの初めてだな……」
三文字?なんかあったっけ?まあ、不具合だろうからすぐに直るだろう。それにしても、平和だな。これが続くといいんだけど。しっかし、まだ気になる事がある。なんで今更冒険者の護衛が求められたのか。天使の護衛には《騎士団》から精鋭が選抜されると聞いているんだが。普通それで十分のはずなのだ。他に冒険者の護衛は要らない。なのに、天使は魔眼まで使って俺を護衛にしようとした。なんでだ。こんなこと気にしてもなんもならないのは分かっている。だけど、何故か引っかかる。俺は家に帰る。
「…………なんなんだよ、…………疲れた……」
休みだったのに。俺は家のベッドに寝転がる。もう暗くなっているので、俺は眠った。
次の朝俺は、家から出たくなかった。しかしドアをノックされ、俺は起き上がる。
「…………どちらさま……」
「やべぇぞ!アル!」
「カイン……朝からうるさい」
「いや、それどころじゃないんだって!」
「?」
「いいから、早く装備を着てこい!」
「あ、ああ……」
とんでもなく焦っていたカインを見て、俺は急いで準備をする。
「どうしたんだ?」
「ついてこい!」
走り出し、しばらくすると二日前に来た場所に来る。
「…………普通のライブじゃないか」
「よく見ろ!」
歌っているセナの周りには騎士達が殺陣を行っている。けどなんだ、この違和感。
「…………死んでいるのか?」
「《隠蔽》で傷も血も見えないんだが、ピクリとも動かねぇんだ」
「急いで止めるぞ」
「おう!」
俺達はそれぞれ得物を引き抜き走り出す。観客席を飛び下り、ライブステージに突撃する。
「オリャあああああ!」
先にカインが両手単発突進技《リース》を発動して、騎士達に向かう。ふん、と剣の側面で叩き、気絶させた。
「《黒き剣士》に《旅月》?」
「おう、ライブを殺戮に変えんじゃねえよ」
カインは楽しみを潰されたことに怒り、半ギレ状態だ。
「悪ぃが、手加減なしだ」
マフラーの剣士はそう言いつつ、剣を敵に向け
「継承展開、《孤月》」
その言葉の後、カインの剣と鞘をライトベールが覆う。しかし、普通と違うものが。通常のライトベールは刃そのものが発光したように見えるのに対してそれは、まるで青い炎のように剣を覆い、揺らいでいた。
「孤月壱式」
「《夕刻》」
神速の抜剣術。刃が触れる前にライトベールがぶつかり、その直後、剣が敵の鎧に直撃した。
これがカインの一族に伝わるエクストラスキル《孤月》。広げたライトベールに斬撃を付与する能力を持つ。
「貴様ぁああ!」
騎士の一人がカインに切りかかる。
「《残影孤月》」
「ガッ……」
設置された斬撃に当たった騎士も倒れていく。
「次はどいつだ!」
「来ねぇなら、こっちから行くぜぇぇぇぇ!!!」
片手剣単発突進技《ソニックスラスト》。
「俺も混ぜてくれよ」
「へっ、好きにしな!」
両手単発上段突進技《アトラシュ》。上段からの振り下ろし。
カインは筋力と技術で攻めるタイプなので、敵からしたらキツイ筈だ。
案の定騎士は倒れる。俺も負けないように剣を振るう。片手剣垂直二連撃技《スラスト・リンク》。二連撃技を受けて、騎士は一歩下がる。
「何故気付いた…………《隠蔽》はどうした!」
「悪いけど、《索敵》持ちなもんでな」
「クソがああああ!!!」
騎士にあるまじき言動と行為だな。
片手単発突進刺突技《ソニックシュート》。鎧の横腹をえぐりとばし、気絶させる。
「お前達、偽物だろ」
「チッ……」
そう、こいつらは《弱すぎる》。本物の騎士なら、こんな芸みたいなことに紛れて殺し合いをしない。こいつらは《犯罪者クラン》だろう。冒険者ギルドに属さない法外組織集団。殺しや窃盗、破壊工作などを行い、モンスターの次に冒険者の敵となる勢力。
「この野郎ッ!!死にやがれェ!!」
偽騎士は両手剣垂直斬りを放ってくる。しかし、本物の騎士より圧倒的に遅い。本来はナイフや短剣を扱っているのだろうその相手の剣を避けて俺は片手剣単発水平技《アインル》で胴体に衝撃を与える。その男の後ろにいた主犯格と思われる偽騎士はイかれたように剣を振り上げる。
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「悪いがごめんだな。」
「セアアアァァァァ!!!!!」
奴は剣を止めて盾を構えている。しかし、片手剣上段技《グランデ》で奴の盾のバランスを崩す。そして
「カイン!」
「おうよ!」
両手剣刺突技《シングルショット》。男は鎧を着けているとはいえ胴体に大ダメージを受け、膝を付き倒れる。一人が敵の防御を崩し、もう一人がトドメを刺す。スキルの硬直時間の問題も連携すれば問題ない。敵の集団を全員を倒すと、歌っていたセナが目に入る。……おかしい。
(こんな状況を見てなんで平気で歌っているんだ……)
まさか…………。
俺の予感は的中していた。彼女に声を掛けると、セナは倒れてしまった。……決まりだ。
これは《洗脳スキル》によるもの。
「おい!しっかりしろ!」
俺の声に反応しない。
この症状は《特定付呪品》で発動しているタイプ。どこかにあるそれを壊さなければこの呪いは解除されない。
「やあ、これを探しているのかな?」
「あんたは……」
そこには眼鏡をかけた若者が笑って立っていた。その手には土偶。間違いないだろう。こいつがセナに呪いをかけた張本人!
「僕は《クリスハイト》。犯罪者クランのトップをやっている者さ」
「そんなお前がなんでこんなことを!」
「なんでだって?それは《依頼》だからさ」
「依頼だと……」
「そ、君たちも誰かの依頼で働いているんだろう?それと同じさ。僕達が受けた依頼は彼女の信用を無くすこと。のはずだったんだけど、君たちが気付いちゃったからそれも出来なくなってしまったよ」
「なら……」
俺が意見を言う前に奴が叫ぶ。
「だけどね。もう一つ依頼は残っているのさ!」
「彼女を殺すという依頼がね!……やれ」
ドゴーン!という爆音と共にステージが割れて何かが這い上がってくる。そう、モンスターが。この街に侵略してくる。
「誰か!冒険者を!」
「助けて!」
「子供がまだあそこに!」
「キャアァァァァァァァァ!」
「死にたくない!」
「うわあああああ!」
モンスターが侵略してきて三十分が経過した。俺達は今、前線で戦っている。いや、生きている。
作品名:ニューワールド・ファンタズム 作家名:川原結城