時間差の悲劇
ということであれば、時効はない、
もし、記憶が戻って自殺した場合であっても、結局は、
「殺人ではない」
ということで、罪に問われることはない。
だから、
「法律は被害者家族にとって、まったく効果はない」
といってもいいだろう。
よくテレビで見る暴行事件の刑事ドラマなどでは、
「犯人として、まだ高校生の受験ノイローゼが引き起こした事件」
ということで、だいたいそういう場合は、
「金持ちのドラ息子」
の場合が多い。
親の過度な期待が、息子を苦しめ、息子はそのストレスから、暴行を行う。
それを知った親は、
「尻ぬぐいに走る」
ということで、法律というものの、理不尽さが、結局、加害者に有利に働くことになるのだ。
なんといっても、顧問弁護士などを使って、
「まだ、未成年で前途有望な少年」
ということで、被害者家族のところに乗り込んでいく。
そこで
「今裁判に持ち込んでも、お金はかかるし、裁判にかけたとしても、被害者が法廷に立って、言いたくないことも言わされることになる」
というのだ。
「裁判の争点は、同意があったかなかったか」
ということになるので、そのあたりをしつこく聞かれることになり、お嬢さんは、針の筵ですよ。それにこんなことが学校や近所にバレると、お嬢さんの将来がどうなるかということも考えてみてください」
ということを言われるだろう。
そのうえで、
「示談金をたくさん払いますから」
ということを言われると、
「娘としては、もうこの事件を一刻も早く忘れて、立ち直りたいという気持ちが大きいはずです」
ということで、
「裁判で争うよりも、示談」
ということにする人が多い。
ということになる。
今回の事件では、
「犯人が誰だか分からない」
ということと、
「時効が成立した」
ということで、被害者側とすれば、
「早く記憶が戻って、一刻も早く事件を忘れ、昔のような明るい家庭を気づきたい」
ということになるのだろうが、考え方として、
「失った5年間というのは、決して短いわけではない」
ということだ。
娘とすれば、
「25歳から、30歳というくらいの一番楽しいはずの時期ではないか」
ということで、それは、家族の皆にも同じことがいえるだろう。
旦那とすれば、
「新婚という期間であり、この時期に味わいたいことはいっぱいあった」
ということで、実際に、
「子供ができるまでの時期を大切にしたいな」
と話をしていたのだ。
そもそも、
「子供ができてからの毎日というのが、正直、ピンとこない」
ということから、
「結婚生活というのは、新婚の時期しか、想像ができない」
と思っていたのだ。
だから、本当であれば、一番ショックであるはずの二宮が、少し最近明るくなってきているというのは、何かいいことがあったからではないだろうか?
大団円
旦那である二宮が、明るくなる原因といえば、
「香織の記憶が戻ってくる」
ということからであろう。
しかし、医者から釘を刺されたように、
「記憶が戻れば、彼女は、あの悪夢を見ることになるんです、それをしっかりと覚悟したうえでないといけません。へたをすれば自殺もしかけない。だとすると、彼女を最悪の自殺というものから救えるとすれば、あなたしかいないんです」
ということを話していた。
もちろん、家族にもそれなりの話をしていたが、詳しい話であったり、毎日の病状については、二宮しかしらなかった。
それでも、最近明るいというのは、
「香織について、何かいい知らせのようなものがあったからではないか?」
と思っていた。
「本当であれば、何か記憶を取り戻す際に、都合のいい記憶だけを思い出させるというような特効薬でもあればいいんですがね」
と二宮がいうと、
「実は」
と医者がいった。
「これはまだ治験状態で、日本では使用が許可されていないんですけどね」
ということで、ここで、医者と二宮の
「密約が成立していた」
この薬は元々、
「犯罪事件に使うために開発されたもの」
ということで、海外警察や医者の間では、一部の事件に限ったり、特別に許された間合いに限り、使用できるということであった。
つまり、
「人体に影響があるから」
というわけではなく、あくまでも、
「人道的に」
ということで、日本では、いまだ許可されていないというものであった。
しかし、今回の医者というのは、実は国籍は社会主義国にあり、社会主義国の医者免許を持っていたのだ。
そういう意味で、かつての社会主義国というのも、やっとここにきて、
「人類の役に立った」
というものであった。
だから、このような提案ができたからということで、二宮に提案されたものだった。
「身体に対しての影響はほとんどありません。副反応もほとんどないのが、治験では証明されています」
ということで、かつての、
「世界的なパンデミック」
による、
「ワクチン供与」
における、
「副反応の問題」
に比べれば、よほど、信憑性は高いということであった。
だから、
「これを利用すれば、妻は、暴行に関しての記憶に一切触れることなく、記憶を取り戻せるということですね?」
というと、
「ええ、そうです。ただし、5年間記憶がなかったということは、記憶が戻ればわかるはずですので、その原因がどこにあったのか? ということを、あなたや家族が隠しきることができればということになりますね」
と医者は言った。
しかし、二宮とすれば、
「ええ、それでもかまいません。このままいつか戻るかも知れない記憶を恐れているよりも、まわりに二つの、時間差の悲劇があることを考えれば、一つの方がどれほどいいか?」
ということを考えていた。
二人の意見は一致して、結局、
「そうだ、結局、道はいくつかあっても、最良の結果は一つしかないんだ」
ということになるのだ。
「事実というのは一つであり、その真実というものgはいくつかあれば、取り戻さなければいけない真相というものもいくつかあるだろう」
と考える。
しかし、その真相にたどり着くためには、少々のいばらの道は仕方がないといえるだろう。
つまりは、
「進むも地獄。戻るも地獄」
という状態の中にいたわけで、一つでも、光明が見える道が見えてくるのであれば、進む道は決まっているといえるのではないだろうか?
少なくとも、そう考えれば、
「時間差の悲劇」
というものは起こることはなく、この時間差の悲劇というものは、医者の話では、
「伝染する」
と言われているということであった。
そもそも、
「例の特効薬で、記憶を取り戻す」
ということが開発されたのかという、本当の理由は、
「この伝染病による副作用というものを未然に防ごう」
という考え方があったからだ。
そもそも、この伝染病というのも、
「陰謀論」
というものの中にあり、結局、
「世界的なパンデミック」
のためのワクチンが、今度の事件を、
「最悪の形から逃れることに貢献した」
ということになるだろう。