傀儡草紙
それからさらに長い月日がたち、事件のことを覚えている人間も数少なくなりました。
私の眼前では、あの惨劇のときに失われたはずの執事のオートマタが今日の予定を説明しています。向こうではメイドのオートマタが書斎のホコリをはたくのに一生懸命です。
実は、男を殺害した真犯人は私です。彼の隣人であり、最初の発見者だったこの私なのです。
殺害の際、特に難しいことはしていません。ただ、オートマタの中に人がいると思わせるために、オートマタを購入した3カ月後に殺害を行い、殺害後にその2体を自分の家に運び入れて隠しました。その間に商人も殺しておいて、さらに3カ月がたった半年後に男の遺体を自分で発見した。それだけのことです。
3カ月の空白と「3日であんなオートマタは創れない」という情報を突きつけられれば、大抵の人はあの2体のオートマタには人が入っていたに違いないと思い込むものです。
でも、以前から隣の金持ちが人嫌いなことを知っている男がオートマタの開発者だったとしたら?
そうなんです。隣家の事情をあらかじめ知っている私なら、2体のオートマタを開発するのに十分な時間があったんです。
彼を殺したあと、商人も適当な理由をつけて呼び出して秘密裏に殺して(彼は私の家の地下深くに眠っています)しまい、さらに3カ月の時間を稼ぎました。そうすれば、首謀者が商人、オートマタの中にいた幻のふたりが実行犯というふうに誰もが思い込み、三人とももうすでにどこか遠くに逃走してしまったと結論づけるだろうと思ったんです。実際は中には誰もいませんし、オートマタも商人の遺体も隣の家にあったんですけどね。
ただ、やっぱり人間は愚かなものです。この悪事を一生の秘密にする自信があった私でしたが、男から奪った巨万の富にも、自分の創ったオートマタにも、その改良にももう飽きてしまいました。
せめてこの手記が多くの人の目に触れることを祈りつつ、これからお縄につこうかと思います。