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傀儡草紙

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03.中身 ―オートマタ―



 とあるところに、大金持ちの男が住んでいました。

 男はその圧倒的な財力でとてもぜいたくな生活をしていましたが、お金持ちの家でわがまま放題に育ったせいか、思い通りにものごとが進まないと気がすまない性質でした。特に異常なほどの人嫌いで通っていて、他人の失敗で自分が被害を被ることや他人が介在することで期待通りに行かなくなることを何よりも嫌っていました。
 しかし、得てして世の中はお金さえあれば生きられるものではありません。どうしたって生活をしていれば他人と関わる必要が出てきますし、他人と関われば意見の相違が発生するものです。豪華なパーティを開いても、招待者の中には皮肉を交じえて何やら余計なことを言ってくるものがいます。異性を口説こうと思っても、もちろん全てが思い通りになるわけではありません。仮にうまく行っても関係の清算などをしようとすればやはりもめごとが発生します。その他にも、屋敷で働く者が自分の期待にこたえてくれないという事態も起こります。男はそれらが我慢できず、彼ら、彼女らにきついせっかんを行います。当然のように、屋敷の使用人は一人、二人と消えていきます。そんな屋敷内の空気を敏感に察知した来客者や商売相手も一人、二人と減っていき、しまいには家族すらもいろいろと理由をつけて屋敷を出ていってしまったのです。

 こうして、男は使い切れない財産を抱えながら、広い家にひとりぼっちで生活をすることになってしまいました。

 さすがにこれには男も困り果ててしまいます。この広い屋敷の何もかもを自分で行うのはとても大変ですし、一人では裕福さを自慢する相手もいません。たくさんのお金があってもこれではなんにも面白くないのです。

 そんなとき、屋敷にとある商人がひょっこりと訪ねてきました。この商人は長い間ずっと遠い地で行商をしていたので、男がひとりぼっちになってしまったことを知らなかったのです。
 男は自分の状況を商人に話し、この問題を解決する良い手段はないだろうかと相談します。そして、もし解決してくれるのなら、自分の財産の半分を差し出しても構わないとまで言ったのです。

 話を聞いた商人は少しばかり腕組みをして思案をします。やがて、何かを思いついたような顔つきになると、男に言いました。

「3日間だけ時間をください。お役に立てそうなものをお持ちしますよ」

商人はそう言って、ひとまず屋敷を立ち去ったのでした。


 3日後、商人は再び男の屋敷を訪れます、へんてこな物体を2つほど引き連れて。
 男に迎えられた商人はよいしょ、よいしょと汗をかきながらその物体を屋敷の中に運び入れます。それが終わると、その2つの物体はカチャカチャ、ガチャガチャ、ウィーンと機械的な音を立てて屋敷の構造や物の配置を調べ始めたのです。

「こちらはメイド型のオートマタ。一切の家事は彼女に任せておけば完璧です。あちらのは執事型。あなたのスケジュールや財政の管理は彼の管轄ですね」

商人がそう話す間に、2体のオートマタは屋敷の構造や物の配置を全て把握し、早速作業に入りました。メイドはせっせと廊下の掃除を始めながら洗濯物を集めます。執事も男の予定をあっという間に記憶し、そろそろ食事の時間であることを伝え、商人とともにディナーを楽しむことを提案します。

 男は2体の素晴らしい働きに見とれて、思わず棒立ちとなっていました。もう他人なんかいらない、この2体さえいれば一生、人と関わらずに生きていけるんだ、そんな考えを頭の中に渦巻かせて。

 うっとりしている男に、商人は声をかけます。

「ご相伴におあずかりしてよいかはお任せしますが、この2体を創ってくれた技術者への支払いもありますので、まず、お金の話をさせてください。確か、あなたの財産の半分をいただけるんでしたよね」

男はすぐに支払うと宣言しました。たとえ財産が半分になっても、一生を裕福に暮らすのには十分過ぎる額が残っています。その残りの一生を人と合わずに過ごせるのなら、そちらのほうがどれほどいいことか。男はそう考えて、この2体を買い取ることにしたのです。

 こうして、商人は豪勢なディナーをたらふく飲み食いしたあと、持ち運んだ2体の人形を残し、それよりもはるかにかさばる大金を持って帰ったのです。


 こうして、男が2体とともに暮らすようになってから、半年という時間が過ぎ去りました。その間、近隣の住民はオートマタも男も一切見かけることはなかったようです。でも、だれもそのことに不信感は抱きませんでした。なぜなら、彼の屋敷にはたくさんの金があり、十分すぎるほどの食料も備蓄されていたのですから。

 ところが、男の屋敷の隣家の住人が、どうしても男と会って話さなければならない用事ができたとき、それは見つかりました。
 その隣人はいくら扉をたたいても返事がないので、やむなく無断で屋敷に入り込みます。そこで彼が見たものは、自室で頭を割られて無残に殺されていた男の姿だったのです。

 隣人はすぐに男の死を都市の治安維持隊に通報します。その後、彼らによって行われた調査で、以下の事実が判明しました。

 まず、男はオートマタを購入してから半年後に発見されましたが、実際に殺されたのは購入して3カ月後だったということです。
 また、男の自室に置かれていた金庫は空だということもわかりました。男はオートマタ代として商人に財産の半分を渡したことはすでにうわさになっていました。彼は銀行すら信用していなかったので、金庫にはまだ半分の財産が入っていなければならないはず。それがこつ然と消えうせていたのです。
 さらに、2体のオートマタとそれを売った商人が行方をくらましていることもわかりました。しかも、商人が開発を依頼したとされる技術者もどんなに探しても見つからないのです。それどころか、捜索の際に出会った技術者は、誰もが判を押したように「あんなのを3日で創るなんて無理に決まってる」と言うのです。

 これは恐らく商人が全てを仕組んだのだろう、治安維持隊も近隣の住民もそう考えました。この商人は男から相談を受けたとき、その財産を半分どころか根こそぎ奪おうと考えて、一芝居を打ったというわけです。

 専門の技術者が「3日で創るのは無理」と言っているのですから、あのオートマタは偽物━━中には歯車やバネなどは入っておらず、代わりに人が一人分、入れるような空洞があったに決まっています。その空洞の中に商人の手先の人間が入り込んで、数カ月の間オートマタのふりをしていたのでしょう。男は裕福な上に全てオートマタに任せていたのですから、食料などが多少減っていても気にも止めなかったはずです。
 こうして、しばらくは従順な召し使いのふりをして、いい頃合いを見計らって主に牙を向き、もう半分の財産とオートマタを運んで逃げ出したのです。今頃、商人と実行犯の二人の計三人はどこか遠い地でぜいたくに暮らしていることでしょう。

 犯人は捕まらず迷宮入りになりましたが、真相はおおかたこのようなことだろうということで事件は忘れ去られていったのです。

作品名:傀儡草紙 作家名:六色塔