石のきおく
その騒ぎでだんだん人が集まってきた。ぼくは急いで石を拾うと、学校目指して全速力でかけだした。
そのうち、パトカーのサイレンがけたたましく響いて、あたりは騒がしくなった。
大変だ。早くしないと町中パニックになっちゃう!
「た、田中先生」
運よく先生は、まだ教室にいた。
「な、なんだ。どうした」
「せ、先生。ちょっと話を聞いて」
ぼくは舌がもつれそうになりながら、一気にことのてんまつを話した。
「へえ、この石が……?」
と、田中先生は石を手に取った。
「あ、先生……」
ぼくがとめる間もなく、先生はブラキオザウルスになった。説明しているとき、なんども素手でさわっちゃだめって言ったのに。
「こりゃあ、おもしろい」
まったく先生ったら。子どもみたいだ。
「もう、先生。遊んでる場合じゃないよ。くる途中にもこの石をさわったテツオが恐竜になっちゃって、大騒ぎなんだ」
「ああ、それで、さっきからパトカーが騒がしいのか」
先生は窓から首を伸ばして、外を見た。
「あ、ティラノザウルスが校門から入ってきたぞ。あれがテツオか?」
タケルだ。家から出てきちゃったんだ。
「いえ、あれはタケルです」
見ると、ティラノザウルスの後ろからおまわりさんがぞろぞろついて来ている。生け捕りにするつもりらしい。
「ああ、もう! 待ってろっていったのに」
頭を抱えたぼくに先生はいった。
「まこと。その石を元の場所に埋めてきたらどうだ?」
「え?」
「たぶん、その石は何億年も前には地上にいて、いろんなことを見てきたんだ。でも、地殻の変動で、その記憶を持ったまま埋もれてしまった。地面から掘り出されて、あまりにもようすが変わっていたから、自分に触れたものを記憶の中にある、似ているものに変化させてしまったんじゃないかな」
ぼくは石をじっと見つめた。この石の記憶が、さわったものを変えてしまう……。この石は感情を持っているんだろうか。
うん。田中先生の言うとおりかもしれない。
他にいい考えもうかばないし、一か八かでやってみるしかない。
「たいへんだ。ティラノザウルスがつかまりそうだ」
ブラキオザウルスの先生は、タケルを助けようと、急いで外に飛び出した。
「うわあ、またちがうのが出てきた」
おまわりさん達はビックリして逃げ出した。