自殺というパンデミック
さらに、ホストは殺害されたので、現れてはいなかったが、女性二人の胸に現れたハート形の痣。一気に捜査は進んだ。
この薬は、実は、ある
「犯罪組織によって開発されたものだった」
ということであるが、当初の目的とは別に、副作用として、
「自殺をしたくなる」
という、実際には、
「自殺菌」
と呼ばれるものがあり、それを抑制する力があるというものだった。
人間、心のどこかで自殺を考えている。
実際に自殺をする人は一握りだが、実際には、ちょっとしたことで自殺をする傾向にはあるらしい。
それが自殺菌というもので、その菌が発動すれば、確実に自殺を遂げるというもので、それが薬の副作用だったのだ。
元々は、新種の麻薬のつもりで、
「資金源になれば」
ということでの開発だったようだが、それが、間違って
「裏の市場」
に流れてしまった。
それをヤバいということで、下手に動けば、自分たちの立場が怪しくなるということで、そのまま状況を見据えるということでいかできない状態になった。
それが、中途半端な形で広まることになり、
「本来なら、解毒剤のようなものの開発も必要」
ということなのに、それもないまま、出回ってしまった。
幸い、
「自殺ということが表に出た」
ということで、事件にはならなかったが、さらに、その副作用として、
「二重人格が表に出てしまう」
ということ、さらに、
「同性愛を引き起こす」
ということが、次々に副作用として巻き起こってきたのだ。
そして、その証拠というべきか、身体に烙印が押され、それが、
「胸にあるハート形の痣」
ということだったのだ。
薬とすれば、
「これほど中途半端で未完成なものはない」
ということであるが、これこそ、洗練すれば、
「完全犯罪たりえる」
といえるのではないだろうか?
そこに、まだ組織は気づいていない。とりあえず、副作用を抑えるための、
「解毒剤の開発」
というものに躍起になっているということだ。
つまり、
「組織の連中は、完全に、流れから何歩も遅れてしまっている」
ということが致命傷になっている。
それがどういうことなのかというと、
「自分たちが想定していたよりも、早く、事態が進行してしまっている」
ということになり、
「自分たちの立場は、風前の灯火だ」
と考えるようになった。
そうなると、彼らからすれば、
「なりふり構わずに、隠蔽に走らなければならない」
ということになる。
ただ、その際、
「自分たちの存在を世間に晒してはいけない」
というのが当たり前ということになり、
「殺人などということはしてはいけない」
ということであった。
だからと言って、この自殺の効力を使うのは、禁じ手であり、それこそ、
「本末転倒な行動だ」
といってもいいだろう。
それが、結局、今の、
「ドミノ倒しのような事態を引き起こしている」
といってもいいだろう。
そう、この薬には、伝染性もある。
「性交渉を持つことで、伝染する」
ということが分かったのだ。
だから、この三人、
「ホストのクズ。そして、つかさ。いちか」
とそれぞれに、性交渉を持ったことで伝染し、
「自殺する」
ということになったのだ。
だから、ホスト殺しの男が、
「放っておいても、自殺するつもりだったんだ」
ということが分かったのだろうが、
「ではなぜ、この男にそれが分かったのか?」
そこまでは誰も分からない。
一つ言えるのは、
「清水刑事の顔を見ることで察した」
ということだ。
「事件が社会問題になるまでに、時間が掛からなかった」
ということであるが、この殺人犯が清水刑事を見て察したということが、社会問題ということの原点だったに違いない……。
( 完 )
64
作品名:自殺というパンデミック 作家名:森本晃次