真実探求
その時までは、沢田も、
「絶対に、三郎を殺さなければいけない」
ということまでは感じていなかった。
実は、やよいは、
「沢田のことを、自分で考えているほど、愛しているというわけではない」
ということと、
「三郎のことを、そこまで、情けない人間だと思っていない」
ということに次第に気づいてくるようになった。
その中で、自分が警察に逮捕されることになった。
もっとも、それは、自分が、最初は、
「沢田のために、何とか犯行をごまかせるように」
という、いたずらに毛が生えたほどの、計画ともいえないような中途半端なことだったのだが、そのために、却って警察に自分を疑わせる結果になるとは思ってもいなかった。
要するに、
「警察を舐めていた」
ということであった。
やよいの人生は、確かに、
「舐めていることから、巻き起こった」
ということであった。
ただそれは、やよいに限ったことではない。
この事件においての、
「三郎も、沢田もそうであった」
ということであり、今のところ結果として、
「三郎と、やよいはこの世のものではない」
という事実であった。
やよいが死を選んだのは、
「本気で自殺をするつもりだったのか?」
という思いも警察では思っているようで、そもそも、
「最初の三郎への殺人も、どこまでが本当の殺意だったのか?」
と、
「やよいの自殺」
ということで、考えさせられるのであった。
警察は、あくまでも、
^やよいの自殺」
ということで、
「被疑者死亡」
ということで、事件に終止符を打ったのである。
だから、警察ではそのことは。
「すでに過去の事件」
ということになり、
「犯人は、やよい」
ということにさせられた。
だが、捜査員のほとんどは、
「なんともやり切れない」
と思っていた。
ということは、
「犯人はやよいではない」
と思っていることだろう。
そして、
「やよいは犯人ではないから、自殺をした」
ということをそれぞれに思っているのだが、それを証明することは、不可能に思えたのだ。
だから、
「被疑者死亡」
ということで事件は解決を見るしかなかった。
それに対して誰も意義を申し立てないのは、
「これでいい」
と思っているからだろう。
確かに、
「警察は暇じゃない」
ということから、事件をこのような形で終わらせるのは間違いではないが、心の中で、煮え切らないものがいつも残っている。
だが、この時はそうではなかった。
死んでしまった二人は、
「これでは、犬死だ「」
と思うからだ。
しかし、警察は今回の事件を、
「これでいい」
と思っているし、捜査員も、そう思うようになってきた。
もちろん、
「煮え切らない事件である」
というのは間違いないことであり、
だからと言って、
「他に、どのような形で大団円を迎えるのが正しいというのか?」
ということであった。
「そもそも、今回のような事件で、真犯人が捕まったとして、それが正解だといえるのだろうか?」
と考えられ、
「それを考えると、じゃあ、正解というものをジャッジするのは誰なんだ?」
ということになる。
「警察関係者にそのジャッジをできる人などいるわけではない」
警察というのは、
「事実を見つけ出すのが、仕事で、真実を見つけるのは、警察の仕事ではない」
と思っている。
そもそも、
「真実って何なんだ?」
と思うのだが、よく。
「真実は必ず一つ」
といっている人がいるが、果たしてそうなのだろうか?
一つしかないものというのは、
「真実ではなく、事実なのではないだろうか?」
事実というものが真実を生むのだとすれば、その真実が必ず一つでなければいけないということではない。
なぜなら、
「真実というのは、事実というものの回答ではない」
ということだからである。
もし、
「真実というもののすべてが、真実につながっている」
ということであれば、
「裁判などいらない」
といってもいいだろう。
「真実は一つだ」
というのであれば、
「事実さえ見つかれば、その事実から、法律に照らして罪状を決めればいいだけで、本当に裁判などという時間もお金もかかるものは必要ない」
といえるだろう。
しかし、実際には、
「情状酌量」
であったり、殺害に至った経緯などというものが、事実関係だけからしか出てきないものではないだろう。
そこには、人間にとっての感情というものもあれば、
「それぞれの事情」
というのもあることから、だから、
「真実というものは一つではない」
といえるのではないだろうか?
それが、今度の事件にも言えることで、その
「一つではない真実」
というものを、警察がまず事実を探そうとしている間に、当事者側で、勝手な判断をしてしまったことで、自分たちでけで、
「事件を結末に追いやった」
ということであろう。
「早まった」
と言ってもいいだろうが、果たしてそうなのだろうか?
結局それぞれの事情を警察は事実として、積み重ねていた。
「いずれは、真実が見えてくるはず」
という以前に終止符を打った。
警察としては。
「やりきれない」
という気持ちで、本当は、真実を知りたいと思うのが本当ではないだろうか?
しかし、結果としては、
「普段ほど、やりきれない気持ちには意外となっていない」
というのが、捜査官のほとんどの気持ちだった。
ということは、
「この事件は、中途半端に終わったわけではなく、これが、本来の終結の形だったのではないだろうか?」
と考えるからだった。
「これが刑事事件というものか?」
少なくとも、真犯人は、今一人勝ち井だとは絶対に思っていないということになるだろう。
( 完 )
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