異常性癖の「噛み合わない事件」
里美は、その頃ちょうど、旦那に嫌気を刺していて、昔をずっと懐かしんでいた。そこで偶然再会したのが、川崎で、
「川崎という男も、一度結婚したが、すぐに離婚して、もう結婚はいい」
と思っていたこともあって、二人が昔の鞘におさまるまでに、そんなに時間はかからなかった。
二人は。すでに昔の自分たちではないということは分かっていたが、それは、
「昔の恋愛気分を味わえればいい」
ということであった。
もちろん、身体を求めあうのは、当然のことであったが、それだけではなかったということだ。
だから、余計に、
「娘に対しては、昔の自分の間違いを犯してほしくない」
と思ったことから、娘の様子を垣間見ることになったのだ。
そこで、娘が、
「レズであり、そのために、霧島を好きになったということが分かって、混乱してしまった」
というのだ。
そして、その霧島に、くっついている女が、恵子だと分かり、
「恵子がしっかりしていないから、霧島がみゆきに迫ってくる」
と考えた。
しかし、そのみゆきが殺されるということになり、里美は、その復讐を、恵子にしようと考えたのだ。
「なぜ、霧島ではないのか?」
というと、
「みゆきを殺したのは、恵子だ」
と思ったからだった。
てっきり、
「霧島を奪われたことで、恵子が、逆恨みして、殺したと思ったというのだ」
それこそが逆恨みであり、
「里美という女も、かなり精神的に疾患があったんだな」
と思われた。
しかし、まさか、
「みゆきの死というものが、殺意からの本当の殺人ではない」
とは思わなかったので、恨みの矛先が、恵子に向いたのだった。
しかし、里美は、そこまで肝が据わっていなかった。
何といっても、娘を殺されたという衝撃的な翌日である。
「とにかく恨みを晴らす」
ということだけに凝り固まって、手は震えていただろうし、相手にも抵抗されるであろう。
それを考えると、殺人未遂であったというのも分かるというものだ。
ただ、
「殺人事件ということであれば、こっちの方が動機はハッキリしている」
ということで、
最初の殺人は、
「殺すつもりは微塵もなかったのに、死に至らしめた」
ということでの、傷害致死といってもいいもので、
二つ目の犯行は、下手をすれば、誰にも知られることのない犯罪であったにも関わらず、本当は、
「殺意のある犯罪」
ということで、一番表に出てこなければいけなかったという犯罪だったのだ。
それを考えると、
「これがもし、連続通り魔事件ということだったとすれば、それこそ、完全犯罪だったのかも知れないな」
と、桜井警部補は感じた。
川崎とよりを戻した母親の里美は、みゆきが死んだことで、旦那と、完全に離婚することを決めた。
最初は、
「川崎と結婚する」
というつもりだったが、
「女は、離婚してから結婚までに半年必要」
ということで、その間に、血痕への気持ちは失せてしまった。
だからと言って、交際を辞める気はなく、これからの人生をやり直すつもりになっていた。
ちなみに、恵子が襲われたことを告白したことで、里美は自分から自首することになったので、起訴はされたが、殺人でもなかったということで、執行猶予付きということになったのだ。
「これが本当の殺人事件なんだけどな」
と、他の刑事は、なんとなく、しっくりこない感覚であったが、桜井警部補は、
「まあ、こんなものだろう」」
として、それ以上言及することはなかった。
恵子とい霧島の二人は、
「別に何か変わったという様子はなく、霧島も、殺意がなかったということで、懲役は免れないが、そんなに思い罪でもなかった」
ということであった。
桜井警部補は、
「あの二人だったら、今まで同様にやっていけるだろう」
ということは分かっていた。
恵子も、今まで通りの風俗での仕事を続けていて、時々面会にもいっているということで、この二人の場合は、
「雨降って地固まる」
ということになるのではないか?
と感じていたのだ。
結局、
「住宅街通り魔女性殺害事件」
と言われた捜査本部であったが、その、
「戒名」
のどれもあてはまらないという、
「おかしな事件だった」
ということになるのだろう。
( 完 )
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作品名:異常性癖の「噛み合わない事件」 作家名:森本晃次