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打吹山の天女は梨ソフトクリームの夢を見るか?

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「……実は、婚約までした彼氏が浮気してさ」
 苦笑い。
「舎人さんは誠実でいいな。私は最悪の言霊をぶつけ合って、恋愛に懲りちゃった」
 自室で、少子化なんて知るかあっ! と叫んだ思い出。
「いつのことなんですか?」
「二年前かな」
「じゃあ、そろそろ別の恋を……」
「話しにくいけど、私の心の傷は深くて。さ、舎人さん探し再開しよ」
 その態度を見て、浅津ももう尋ねなかった。

 てくてく継続。
 ほどなく有名なお店に到着し、白いたい焼き――既に述べた、百代が街に来た目的の一つ――で元気を追加。
「おいしい! これ、私の色の白さにちなみましたか?」
「浅津にちなんだグルメは多いから、欲張らなくていいよ。あ、そういえば……やっぱ何でもない」
「何ですか!? 気になる、気になる」
「ゴメン」
 過去に、浅津にちなんだ強烈な銘菓が一つあったのだが、本人が知ると担架が必要になりかねず百代は流した。「ゴメン」は市民一同の代弁だ。
 もぐもぐとして、近くのお寺へ。若い女性客が多い。
「ここは『里見八犬伝』、男前の勇士集団と縁が深くて、市の内外から注目されてるお寺だよ」
「倉吉は人材を世に送り出してるんですね! 可愛い犬の像がちょこちょこあります」
「計、八体だね」
「全部見つけましょうか?」
「目的が迷子だよ」
 さらに、日本で唯一の梨の博物館、鳥取二十世紀梨記念館へ。梨の巨木とゆるキャラに迎えられ、人探しと観光でぐるっと回った。
「ふ~。面白かったね」
「面白かったですが、足が疲れました~」
「言霊を善用しないと」
 からかわれ、浅津は愚痴った。
「疲れた、疲れた」
「ぼちぼちアレかな~」

「入浴シーンですか?」
 車を走らせ、さくっと郊外の関金温泉。
「答えはNO! 令和のコンプライアンス他でNO」
「……つまり?」
「この短編小説のカメラは私から離れない。私は建物の外で玄関とスマホを見てるから、安心して日本屈指のラドン温泉を楽しんできて」
「今何か、野太いブーイングが聞こえたような……」
「安心して以下同文」
「はい!」
 浅津を見送って、操作を開始。車で移動中に、例の「地域ラヴァー」の認証が完了したのだ。
 ……が気づいたのは、ここが扱う行方不明はペットばかり。人探しは初めてで、うかつだった。実際繊細な問題なのだ。
 人探しの方法を、改めて調べる。そしてあれこれ検索を試す。
 ……日もだいぶ傾いた。天気予報どおり、灰色の雲も増した。
 販売員の友人たちが休憩時に返事をくれたが、それも残念なものだった。

 再び市街。一軒のラーメン店。
「逆ナンも嫌いな舎人さんって、私たち話しかけて相手にされるのかな」
 そんな心配もさせてくれる、一本のわらがあった。
 匿名掲示板の、全国のバイクツーリング愛好者が集まるところ。そこと思しきお店がおいしいという投稿一件が、「Aくんみたいな客とバイク談義で盛り上がった」「あの彼、サンクス」という内容を含んでいたのだ。日時は三年前。「こちらこそ!」の返しは無い。
 見回して、カウンター席に座る。
「私は牛骨ラーメンと烏龍茶。浅津は?」
「私にはどれがどうやら……おすすめはどれですか?」
「牛骨ラーメン! この地域から全国区になったんだよ」
 二人の前に同じものが並ぶ。
「お~、食欲をそそります」
 どれがどうやらの浅津にも、浮く油や湯気や香りで伝わるようだ。
「いただきま~す」
 百代は、まず浅津の様子を見る。
「……むうっ! ふぉわ、ふぉむふぁふぁみふぃ」
「天上のアイドル出身、食レポスキル無し! すき焼きや肉じゃがに通じるうま味があって最高、と翻訳しとこう」
 浅津は飲み込み、満足そうな笑顔で言った。
「きっとそれです」
 烏龍茶と際立たせ合う味を楽しみつつ、百代は機会を見て店主に尋ねた。
「すみません。ヘンな質問なんですが」
「何だい?」
「ネットで見たんですが、こちらに芸能人のAくんそっくりの常連さん、お客さんって来ますか?」
「うん? ……ん~、思い当たらないから言いやすいけど、思い当たらないな。Aくん以外の男前でどう?」
 百代が浅津を見ると、やはり失意が見える。
「それが、この子がAくん命で……」
 ああ、一本のわら……。
 と、浅津は一つのものを取り出した。
「この顔ではどうですか?」
 そ、それは「天女が描いたという伝承とセットで由緒正しい神社に残ってたら、ワンチャン人気出たかもしれない」浅津作のはこた人形! 勝算があるの? 天女の直観でワンチャンあるの?
「ハハ、どうって、面白いと思うよ」
 ……百代も納得の意見だった。
「あのうすみません、それ」
 脇から声がかかった。カウンター席の若い女性客。
 こ、これは大逆転か!? 天女の直観でワンチャンあったか!?
「それどこで売ってるんですか? すごくカワイイ」
 謎の人気出た! が、ここで欲しいのはそれでなく……。
「ああお嬢さん、これは白壁のほうの自作体験サービスで……」
 そのまま、店主との会話はその女性客に奪われた。
「ありがとうございました~!」
 外は、既に薄暗い。
 牛骨ラーメンがくれた力で、二人はまた歩き出した。

「浅津はお酒飲める?」
「飲めます! 今のお酒にも興味あります」
 夜闇と雨が迫りくる。ああ、安請け合い。素人の頼りなさ、興信所の頼もしさ。
「よし、居酒屋で舎人さん探しとお酒だ」
 とて運転も、翌日の仕事もある。百代自身は飲むまい。浅津が楽しんでくれれば、百代も楽しい。次善は起こせる。
「百代さん」
「何?」
「……百代さんと、人間界に戻ってきて最初に相手にしてくれたおばさんには本当に感謝してます」
 最初のおばさん意外と地位が高い! 百代は少し悔しかったが言わなかった。
「ありがとう」
「昔から、この土地にはやさしい人が多いです」
「……ねえ、今日舎人さんが見つからなきゃどうするの?」
「天上に行きます。急いで人間界に戻れば、次は半年はかかりません」
 とぼとぼ……。
「さみしいね」
 百代が言うと、彼女は舌を少し出して笑った。
「じゃあ百代さんの部屋に居候して、百代さんをアイドルプロデュースして生計を立てつつ舎人を探します」
 百代、苦笑い。
「私を売るのはベリーハードだよ」
 ……居酒屋に元気者や知恵者の友だちを呼ぼう、と思ったその時だった。
「浅津!?」
 浅津が突然駆け出した。
 遠ざかる背中。百代も追う。
「どうしたの!? 浅津!」

「て、天上のトップ女子スプリンター意外と足が速い……文化部ぐらいかと思ったのに」
 百代が既に歩いていると、手前の角から息を切らした浅津が現れる。
 示した、一本の黒い傘。
「何なに!? どっから持ってきたの?」
「傘泥棒ならいいって、百代さんが言いました」
「言ったっけ!?」
 浅津の真剣な表情が続く。
「でも傘泥棒にならないよう、この傘と百代さんの傘を交換して下さい!」
「どういうこと?」
「無力な私の、一生に一度のお願いです……」
 浅津の目を見て、百代は決めた。
「分かった」
 珊瑚色の傘を浅津が受け取り、黒い傘を百代が受け取る。