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打吹山の天女は梨ソフトクリームの夢を見るか?

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 なお、天女どうこうは当面書かなかった。面倒だ。
「その板でですか」
「現代ののろしかな? みんないつも使ってて、上った煙は見えないようで見える人たちに見えてる」
「なるほど~。夜闇や雨ではどうするんですか?」
「ゴメン私のたとえが悪かった」
 百代は板をしまった。
「さ、どんどん歩こ!」
「うう……」
「む、もしや羽衣依存? 人間界では足は大事だよ」
「私天上では、トップ女子スプリンターって言われてたんですよ。短距離走向きなんです」
「何その設定」
 笑って、浅津を励ます。
「頑張って! グルメも温泉もあるから」
 歩き出す小道。舎人を探し、町並みを眺め。
 鯉たちが、水路をゆったりと。自然と文明が共存する。
 百代も、気持ちに余裕がある。人口五万の倉吉に、人脈によって投げた網に期待だ。
 百代は、手をポン!とした。
「ねえ、人相書き作ってみない?」

 やがて、人間の少女をその背丈でこけしにした感じの人形に出会う。格調高いお店の前。
「『はこた人形』の、顔描き体験を利用させてもらお。倉吉伝統の張り子人形の、顔だけ描かせてくれるんだよ」
「舎人が、大和武尊さまですね」
 その名は無論、日本神話の英雄。武勇の有名な一つが、女装して宴に侵入し敵を討った、というものだ。
「そう! でもお化粧は無しね。舎人さん探しに役立たないから」
 入って、多数の民芸品に迎えられる。はこた人形の他、狐や天狗の面、因幡の白兎の置物等々だ。
 体験申し込みが叶い、奥に通され机に向かう。お店のかたの指導を受け、筆を握って真剣な何やかや……。
「で、できました!」
「園児レベル来た!」
 保育士の百代が呆れる。浅津が全身を描くと、顔から手足を生やしかねない。
「天女が描いたという伝承とセットで由緒正しい神社に残ってたら、ワンチャン人気出たかもしれないけど」
「百代さんはどうなんですか?」
「ゴメン私もセンス無いんだった」
 顔を描き分けられずBLマンガ製作を諦めた中学生時代。口にしづらい黒歴史だ。
 お店の外で、振り返る。
「あ~、楽しかったです」
「う~ん、お化粧無しにしたけど、結局舎人さん探しに役立たず」
 Aくんそっくりの男性につき、一応お店のかたに尋ねたが、そちらもあいにくなのだった。
「でもはこた人形はお守りにもなるから、目的達成を見守ってくれるかも。大事にしようね」
 浅津もうなずき、小さな人形をバッグにしまった。

 てくてく継続。
 スマートフォンを覗き、百代がボヤく。
「倉吉転入が最近ってこともあるのかな……いい返事が無いな」
 知らないというもの。自称Aくん他称じゃがいものもの。
「板の調子が悪いんですか? 地面に叩きつけると直るかもですよ」
「昭和よりひどい古代!」
 百代は、画面を示して説明した。
「これは繊細な最新機器で、みんなと文章を交換してるの。すごく便利で、同時に危なくもあるんだけど」
 画面に、「ももた☆」という文字が見えている。百代が折々使う「別名」だ。
「言霊ですか? それは危ないです」
「そうそう」
 古人の慧眼。言葉に宿る霊力、言霊。現代社会も、使い方のせいでよく苦しむ。
 百代は言った。
「元気補充しよう」

 風情あるお店の前。赤い垂れ幕に白い「赤瓦」の文字。
「ここは、白壁土蔵群の中心のお店。元はお醤油を作る蔵で、天井の凝った造りも見どころなんだよ」
 入ると、多くのお客さんと品々。
 百代は浅津に言った。
「舎人さんのついでに、食べ物飲み物に目をつけていいよ」
 喜色満面の浅津に、申し訳無いが補った。
「私は長者じゃないので控えめによろしく」
 二人はお店のかたやお客さんを見て、並ぶ地元の食べ物、お酒、布、竹製品や装飾品を見る。
 ぐるっと回って、Aくんはいない。
「百代さん、百代さん」
 百代が浅津を見る。
「私、一つ選ぶなら現代の醍醐を試したいです」
 申し訳無いぐらい安く上がったので、百代は名産の飲むヨーグルトを三本買い、うち二本を渡した。
 飲んで、浅津がうれしそうだ。
「わ~っ、うまっ! 何ですかこれ」
「そんなに?」
「私が知ってる醍醐より全然イケますね! 何これ呪術ですか」
 当然、製造技術は古代の比ではない。かつ郷土の誇り、蒜山の乳製品だ。
「元気になる呪術がかけてあるんだよ」
「やりますね現代」
 一本目を飲み終えた浅津を、百代はからかう。
「太る呪術もかかってる」
 おいしいもののお約束。ガマンが要って悩ましい。
「問題のやつです!」
「でもまだ歩き回って痩せるから、グビグビやっといて」
「ひゃ~」
「飲んで頑張れ、天上のトップ女子スプリンター!」

「とにかく人がいるコースを行こ」
 から近くのお寺へ。
「『弁財天』って、市杵嶋姫さまですよね」
 お寺の前の札を見て、浅津が言う。
「なの? 私疎くて」
「ご存じじゃないんですか!? 美しさの光輝く、芸術の女神さま。私も前座をやりましたが、人間界の皆さんも拝殿を建てて崇めてるんですよね。推し活のされようがさすがです」
「寺社の見え方が違ってくるな」
 などと話す弁天参道。
 以降も二人は目を光らせ、わいわいと話し郷土工芸館、醤油醸造場、防災拠点、酒造場とめぐる。
「私のいた頃から別世界で、驚くばっかりです」
 百代が笑う。
「私もね……私は、場所もモノももう知ってる。でも浅津と歩くと、新しい気づきがあって私も楽しい」
 住む人がいて、来る人がいる。そして来る人にはもちろんのこと、住む人にも新たな気づきがある。それはすごくありがたいことだと、百代は思った。

「足が痛いです~」
 小さな公園のベンチに浅津が座り、百代は座らない。置いた免許証をスマートフォンで撮る。
「早くて三十分か。日曜だけどどうかな」
 地域情報に強いネットコミュニティー「地域ラヴァー」に登録し、認証を求めた。二方面作戦の、一方の強化。
「ふう……にしても、浅津はホント舎人さん一筋だね。どこを好きだったの?」
 正直、百代の純粋な疑問だ。伝説の舎人は、ジコチューの印象が拭えない。追いすがるべき相手なのか。
「実は、伝説は事実と違います……舎人と私の善悪が逆なんです」
「どういうこと?」
 浅津は、遠くを見る目で答えた。
「舎人は脅迫どころか、ナンパも逆ナンも嫌いです。羽衣は特別な素材で、私の不注意で宙を漂ってたのを舎人が捕まえてくれたのが事実です。それで私がお礼を申し出ると、舎人は、母が重病にかかりもう命が尽きる、安心させるために母の前で結婚するフリをしてほしい、と答えました。でも私たちは、すぐ本当に恋に落ちたんです」
「そんなことが……」
「しかし私が天上から戻らなかったので、全て舎人が強要した、という誤解が広まったのかもしれません」
 百代は、いたわるように言った。
「悪いのは、例のアイドル活動の契約相手ってことか」
「……悪いのは私の父です。父が事故で借金を作り、返すために私が契約をしたんです。それに私も悪いんです。責任から逃れるように舎人と結婚して、結局舎人を苦しめました」
 素朴な伝説のはずが……百代が言葉に詰まると、逆に浅津が尋ねてきた。
「百代さんは、お相手どうなんですか?」
「私!?」
 百代が面食らう。