死ぬまで消えない十字架
ただ、その女は、最初のオリジナルの一日目の時には、
「確かにいなかった」
と感じていた。
どこかで出てきたのだろうが、それが、
「繰り返している一日目」
ということだったのだ。
ということは、
「最初のオリジナルと、繰り返している毎日との間に、何か大きな違いというものがあり、その違いが、何を意味しているというのか、それが、ハッキリと分かっていなかった」
ということであった。
そして、桜井には、
「今日も、片桐が死ぬ」
という夢を見ていると感じた。
「今日で何日目なんだろうな?」
とすでに感覚がマヒしているくらいになっていた。
だからこそ、
「同じ日を繰り返している」
という感覚の中での。
「第三段階」
くらいに入ってきたことだろう。
第一段階というのは、
「オリジナルの最初の日を、夢のように感じてしまう」
ということ、
そして、第二段階では、
「最初に繰り返した時、明らかにおかしい」
という感覚を覚えたことで、
「本来なら一番しっかりしている時だったのかも知れない」
とおぼろげに感じるのだが、それが、毎日繰り返して、感覚がマヒしてきた時、
「やっと、しっかりしていたということが意識できるようになった」
というのが、今の第三段階なのかも知れないと思うのだ。
だから、
「他の人たちよりも、同じ日を何度も繰り返しているのだから、その時は、自分が一番作為進んでいる」
と思うのだが、逆にいえば、
「他の人は一日が終われば、自分よりも先に行ってしまい、自分だけが、また同じ日を繰り返す」
ということになるのだった。
最初こそ、
「どうすれば終わらせられるのか?」
と考えたが、感覚がマヒしてきた今では、
「終わらせる必要があるのかな?」
と感じた。
「片桐が死んだことで、毎日を繰り返すようになった」
と感じた桜井は、
「片桐が付き合っていた女を、自分の自由にしたい」
という、まるで、
「動物的本能」
から、彼女を襲った。
その結果、彼女に自殺を決意させたことで、
「死ぬまで消えない十字架を背負ってしまった」
と思った。
その報いがこの、
「同じ日を繰り返す」
ということであれば、
「感覚がマヒした」
ということは、
「少しは俺は減刑されたと思ってもいいのかな?」
と感じたが、結局、死ぬまで消えない十字架なのだから、同じ日を繰り返すということは、このまま永遠に消えないということになるのであろう。
ただ、これが、自分への戒律だということになれば、これから何をすればいいというのだろう?
よく考えてみれば、
「他の人はどんどん死んでいく」
ということで、しかも、
「その死を、ずっと見続けなければいけない」
と考えた。
まるで、
「成仏できずに、この世をさまよっているかのような感覚だ」
片桐の異常性癖に対して、途中から陶酔した気分になったのであるが、その思いが、今の自分の、
「同じ日を繰り返す」
という罰に値すると思ったのだが、
「片桐の考え方が、またしても、堂々巡りを繰り返し、同じ陶酔していた彼女の気持ちが次第に自分に乗り移っているような気がする」
事件の捜査をしている警察が、
「事件の最初の発見者が、桜井ではなく、田島巡査だ」
ということに、翌日になったとたん、まったく不思議に感じなくなったのだ。
それを、田島巡査だけは、
「おかしいな」
と思いながらも、誰にも言わないでいた。
「そのことに触れるわけにはいかない」
と感じたからで、もし、そのことを言ってしまうと、
「自分もこの世から、存在が消えてしまうのではないか?」
と感じるのであった。
事件は、翌日になると、
「死体発見置き場の近くに、一冊の小説が置かれていた」
という新たな発見があったのだ。
「どうして昨日は気づかなかったのだろう?」
と誰もが感じていたのだが、その小説というのは、被害者である片桐が、精神疾患の間書き上げたもので、本人が面白いと自分で感じたことで、出版社に投稿すると、それが、何と企画会議で通り、
「今度、出版予定ということになっていた本」
ということであった。
その事実を、出版社は、どう感じるのであろうか?
いや、
「その事実を出版社の人が知ることができるのだろうか?」
時間が出版社でも繰り返されていて、その本を
「素晴らしい」
と感じた時からであった。
「異常性癖の男性が主人公で、まるで自分の小説のようであったが、途中から主人公が変わってしまい、その主人公は、片桐本人から、桜井に変わっていた」
ということである。
登場人物は苗字だけだが、完全に実名であった。
「あたかも正夢のような小説」
ということであった。
その小説は、
「死ぬまで消えない十字架」
というタイトルだったのだ。
( 完 )
64
作品名:死ぬまで消えない十字架 作家名:森本晃次