「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」
と言われるが、少しおかしな犯罪であればあるほど、その信憑性に、一貫したものがないといって方がいいのかも知れない。
分かりやすさだけが、信憑性ということではないということである。
それを考えると、
「やつの話の内容には、信憑性の有無に関係なく、筋は通っているように思えるんだよな」
ということであった。
この話は、少しでも、他人事だと思う人が聞けば、信憑性がまったくなく、理路整然としていないことから、
「信憑性がない」
というよりも、
「理解できない」
ということになるのであろう。
それだけ、話の信憑性というものが、いかなるものかということを考えると、
「何かの疑問があるという方が、理屈に合っている」
といえるのではないだろうか?
西田の話は、
「ところどころの話としては、辻褄が合っていないように見えるが、一貫はしている」
といえるような気がする。
もし、この逆で、
「辻褄が合ってはいるが、一貫していない」
という場合とで、どちらが、刑事としては信用できるか?
ということを考えると、そこに答えはないような気がする。
その時々で、理屈も辻褄も違っているわけで、犯罪の度合いによっても違うし、そうなると、
「結論として考える場合」
ということでの、
「やつが誰かの身代わりで出頭してきた」
ということなのか?
ということも、理屈として納得できることなのかということになるのであった。
もう一つ考えることで、
「刑事の技量」
というものもかかわってくる。
犯罪を犯したり、刑事と対することが使命のようになっている連中からすれば、相手がどんな刑事であるかということを知る必要があるというものだ。
そういう意味で、
「やくざの事務所では、刑事一人一人についての情報はきちんと得ている」
というところが多いのではないだろうか?
もちろん、
「警察というところは、公務員」
ということは分かっているので、中には、
「いかにも公務員」
という刑事も多いだろう。
だが、そんな刑事を相手にする必要はなく、かといって、熱血刑事というのも、今の時代にいるとは思えないので、結局は、
「平均的な刑事」
という人たちを相手にするということになるであろう。
となると、彼らの違いというと、
「年期」
ということになるのかも知れない。
まだまだ、素人といってもいい新人刑事、あるいは、半分は、通通といってもいいようなベテラン刑事までいる中で、そのランク分けさえできれば、警察を手玉に取ることくらいはできるのではないか?
ということであった。
もちろん、年期の入り方の中にも、個人差があるわけで、それが、
「刑事としての魂」
といえるものなのかも知れない。
だから、新人刑事の中にも、
「扱いにくい」
というタイプの刑事もいる。
「何を考えているのか分からない」
というような刑事ほど、相手にしにくいといえるだろう。
相手がいくら、
「刑事魂をしっかり持っている」
といっても、そのレベルが分かっていれば、
「逆に利用できる」
というくらいにだって見ることができるというものであった。
やつらにとって一番厄介なのは、当然のことながら、清水刑事であろう。
清水刑事は、
「俺たちから情報をえようとすることもあるが、それも、場をわきまえていて、決して無理なことはしない」
ということであった。
それを考えると、
「俺たちとは、かなり考え方は違っているが、それでも、他の刑事たちよりも、考え方は血かい気がする」
ということであった。それは、
「一周回って戻ってきたところ」
という考え方をするからであった。
だから、
「他の刑事たちに対しては、こちらの思惑を当てはめることで、いかようにも洗脳できる」
というくらいにまで思っているが、
「清水刑事に関しては、似ても焼いても食えないというような、百戦錬磨の人ではないか?」
と考えるのであった。
ただ、
「そういうことを、清水刑事も、自分たちに感じているのではないか?」
と彼らは考えている。
つまりは、
「考え方が似ていることで、相手が何を考えているかということが分かってしまっているのではないか?」
と考えられるということであった。
だから、
「百戦錬磨」
というものであり、
「お互いに何を言っても、相手には通じない」
と思えることもあれば、
「何を言っても言い訳にしか聞こえない」
ということで、
「赤子の手をひねるかのように、手の打ちようがない」
ということになるかのようにも思えた。
清水刑事は、この出頭してきた、
「西田」
という男と面識があるわけではないが、少し取り調べしただけで、
「まるで、狐とタヌキの化かし合いになってしまう」
と感じたほどだった。
だからと言って、清水刑事の顔面に、
「苦虫を噛み潰したような感情が浮かんだわけではなかった」
というのは、
「相手が何かを企んでいるということが分かっているだけに、それが何かということが、容易に分かってこないことに、苛立ちを覚えている」
といってもいいだろう。
「自分にとって、分からないことが今まではあまりなかった」
と自負しているのに、今回は分かりそうで分からないというこの感覚が、いかにも気持ち悪いという感覚になってしまったということであろう。
ただ、一つ分かっていると感じているのは、
「やつは、出頭してきたといっても、人の身代わりで出頭したのかも知れないが、それだけではないような気がする」
ということであった。
そこまで聴いて考えてみると、鈴木刑事にも何か分かってきたような気がした。
「今回の自首というのは、安全性を考えたからじゃないんでしょうか?」
と、少し遠回しな言い方だと自分でも思いながら、鈴木刑事はいうのだった。
それを聴いた清水刑事は、さっきまでの、苦虫を噛み潰した表情から、幾分か和らいだ表情で、さらに、何かを期待しているかのような顔にもなっていた。
「ほう、それはどういうことかな?」
と、興味深げに聞いてきたのだ。
それは、上から目線ではなく、下から見上げるような表情で、今までの清水刑事の態度にはなかったものだった。
清水刑事からすれば、鈴木刑事に対して。
「少しは成長してきたかな?」
というもので、それだけ、自分が対等な立場に立って、しかも、
「同僚と、事件に関して、ああでもないこうでもないという話をしているかのように感じられる」
というものであった。
それが、
「後輩の成長を見守る上司」
ということで、今までになかった態度ということだったのだろう。
「西田という男のことは、正直私も面識がないので、かつてに彼に対しての調書からしか判断はできないので、あくまでも、想像の域を出ないということで話をさせてもらいますが」
という前置きをしたことで、
「ほう、だんだんと刑事としての考え方が分かってきたかな?」
と、清水刑事は考えた。
「それで?」
と、考えたうえで聞いてみると、
作品名:「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」 作家名:森本晃次