失せ物探し 探偵奇談26 後編
あのこがほしい
遊びの途中で急に瑞が倒れてしまったので、郁らは随分心配した。しばらく意識を失っていたが、目を覚ましたとき、瑞は「返してもらった」とそう呟いた。
そうして今朝登校してきたとき、もう不安そうな彼ではなかった。郁はそれをみて、ちょっと子どもみたいだった彼もかわいかったなと、伊吹と同じことを思ったのだった。
「事の経緯はわかったけど…瑞くん、どうしてあの子の名前がわかったの?」
昼の食堂で、昨夜聞けなかったことを颯馬が尋ねている。それは郁も気になっていた。彼は遊びの中で少女と邂逅を果たし、名前を言い当てたことで力を返してもらったらしい。そこで彼女の意識と接触し、なぜ彼女がひとから多くを奪っていったのかもわかったのだという。
「誰かが手のひらに、指で…書いてくれたんだ。その気配を必死で追って解読した…」
カウントダウンの隙間を縫って、誰かが瑞の手のひらを指先でトントンと叩いたのだという。そしてそれが、手のひらに文字を書き始めた。
「不安は極限だったけど、その指の動きを追う意識は冴えわたっているような不思議な感覚だった。時間がゆっくり流れているみたいに、指先の動きの細部まで、適確になぞれた。我ながらよく冷静に対処できたものだと思うけど…」
すごい。郁だったら冷静にそんなことできる状況じゃない。伊吹も同感だったようで、おまえすごいなと驚いている。
「そんなものでよく正確に当てられたね?でも一体誰が助けてくれたわけ?」
「…わかんないけど、なんとなく、あの子自身な気がする…」
なまえをよんでほしい、そう夢の中で聞いたのを覚えてる。瑞はそういって少し寂しそうな顔をした。
「そっか…名前呼んで欲しかったんだね…」
作品名:失せ物探し 探偵奇談26 後編 作家名:ひなた眞白