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青い瓶(本人登場)

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すると不意に背後から声をかけられて、今度こそ私は飛び上がってその瓶を取り落とした。
しかしすっと私の身体の脇から手が伸び、腰の辺りで落ちかけた瓶を掴んだ。
ぎょっとしながら振り返ると、そこに居たのは白髪の年配の男性だった。
真っ白の髪、真っ白のひげ、彫りの深い外国人のような顔つきに瞳だけ真っ黒な眼が印象的だった。
その男性は小太りで草色のシャツを着て、古めかしいジーンズを穿いていた。

ごめんなさいと声をかけようと思ったのに、その男性は何事もなかったかのように元の位置にその瓶を戻した。
その何気なさが、まるで『急に声をかけたのは自分が悪いから』とでも言うかのようで、私は逆に自分のうっかりが心底申し訳なく思えた。

「わかりません。ただ、どうしても気になって」

私の口をついて出たのはそんな言葉だった。
そのとき自分で喋りながら、さっきの声音が少し前にお店の中から呼びかけるように聞こえる声と同じだと気がついた。
つまり――この男性がおそらく店主だ。
すると『ふむ』と言いながらその男性は小首を傾げ、もう一度青い瓶を手に取ると、何も言わずに私の方に突き出してきた。
手に取れということだろうか。
私はその瓶をまた眺め、改めて――不格好だなあ――と思いながら、でも取り落とさないように気をつけて両手でそれを受け取った。
そして私はその瓶をさらに眺め、ふとお店の中の僅かな照明(今時どこにあるのかというようなオレンジがかった色をした電球だ)に向け、ひっくり返して望遠鏡を覗くようにかざしてみた。
なんでそうしたのかは私にも分からない。
でも、そのときはそうするのが一番正しいことのような気がして――ここでも、見えない何かに誘われるようにそうしていたとでも言えば良いのだろうか。
瓶の底は、語弊を恐れずにいえば一番よく出来ているように見えた。
何しろ揺らぎがなくほとんど完全に平らだったのだ。
あえて言えばその中に気泡のようなモノがひとつふたつ混じっているくらいで、海の中で誰から漏らした呼気のような印象で、綺麗だなと素直に思えた。

だから、

――その奥におぼろげに揺らぐ何かが見えたとき、私は目の錯覚を疑った。
でも私は目を凝らした。
すると、そこには確かに『何か』があった。
青い光のような微かなばかりの『何か』。
私はますます目を凝らす。
するとそれは『何か』ではなく、『影』に見え、陽炎のように左右にじりじりと揺らぎながら、僅かに僅かにとだが、大きくなっていた。

これは、
一体、
――なんだ?


作品名:青い瓶(本人登場) 作家名:匿川 名