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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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乖離する吾

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赤裸裸にあれとは、誰が言い出したかは解らぬが、
存在どもが勝手に世界に対して恐怖を感じ、
それを鎮めるためにのみ存在どもは赤裸裸にあるに過ぎぬ。


言霊の残る国において

国旗に文字を書くのは多分この極東の島国の人間のみだと思ふ。
他国では国旗に文字を書くなんて禁忌なことで全く考へられないことなのだらう。
つまり、日の丸には魂が宿り、また言葉にも魂が宿る、
つまり、言霊信仰が根強く残るこの極東の島国で、
国旗に文字を記すのは、己の思ひを日の丸に宿すといふ行為に外ならず、
文字がびっしりと書き込まれた日の丸を見ると、
その持ち主に対する人人の思ひの重さが一目瞭然なのだ。

多分に言霊はこの極東の島国では存在し、
それは先験的なものの眷属に属するものなのか。
言葉が消費する言葉としては簡潔できぬこの極東の島国において、
思ひの外、言の葉は重く、
多分にこの極東の島国の文字には石に文字を刻印するに等しい労力と重さが、
今以て文字に託されてゐるに違ひないのだ。

この極東の島国において発話(パロール)する言葉よりも遥に書き言葉(エクリチュール)に重きが置かれてゐて、
一度書き記された文字には人の念が宿り、
その念を受け止められるのが例えば日の丸と言ふ国を象徴するものに相等しいものとして認知され、
また、Personal computer(パソコン)に打ち込まれた言葉でさへ、
それが印字とされる段になると
それは或る厳粛な儀式に等しく、
紙に記されし言の葉は、
既に魂が宿るものへと変化してゐて、
其処に人の思ひが宿ると無意識に感じ取ってゐるのが
この極東の島国に住む人人なのだ。

ならば、かう書かう。

吾、此の世に存在せし故に非在の陥穽に騙されし。
故に、吾、存在と非在のに揺れるものとして認識されしなり。
それが正しいとか誤謬とかの問題を超越して。

アイロニーな存在でありたい

誤謬であることを承知しながらも
それを呑み込みながら、
おれの存在を存続させるアイロニーに自嘲しつつ、
それでいい、と自分に言い聞かせながら
おれは心底アイロニーな存在でありたい。

しかし、アイロニーは苦悶することを齎すが、
捻ぢ切れる己の有り様に嗤ひながら、
おれは此の世に屹立するのだ。

何を嗤ってゐられるのか。
それはおれが全身誤謬で成り立ってゐるアイロニーに
納得してゐるからに違ひない。

それでは何故納得できるのかと自問すれば、
此の自問する吾と言ふ存在が既にアイロニーな存在としか言ひ様がないのだ。

しかし、アイロニーと一口に言っても、
その苦悶の程は計り知れず、
おれは絶望の底に落とされても
おれが誤謬で出来てゐることは換へやうもなく、
もう居直るしかないのだ。

多分、誤謬に真理は隠されてゐるかもしれぬのであるが、
真理を求める虚しさにおれは既に疲れてゐる。
それは、真理が青い鳥のやうに思へ、
真理は何気ない日常に両手から零れ落ちる程に転がってゐて、
それに気付かぬのは馬鹿であるのであるが、
正しく俺はその馬鹿の一人で、
日常に苦悶しか見えぬおれは、
盲人にも劣る存在でしかないのだ。

ならば、と開き直るおれは、
アイロニーなることをそれでも辛うじて肯定してゐて、
其の捻ぢ切れる思ひはどうしようもなく、
唇を噛んで堪へ忍ぶ外ない。

アイロニーは誤謬ではなく、
存在が存在するための必要最低条件の天賦のもので、
それは先験的なものに違ひなく、
おれがアイロニーから抜け出せることは先づない。
しかし、それでいいのだ。


意識の居所

緩やかに眠気が襲ふ中、
さて、意識は何処にあるのであらうかと自問す。
果たせる哉、意識は頭蓋内の脳と言ふ構造をした五蘊場にあると言ふのは
単なる先入観でしかなく、
気があるところに意識は遍在してゐるに違ひない。
それといふのも第一に触覚が意識の大分を占めてゐるからだ。
触覚が薄れる眠気の中において意識はやがて朦朧として、
触覚が不覚になるとともに眠りに就く。
眠りに就いたならば、
触覚は全く働かず、火傷をしてゐても何にも感じないのだ。
その間、意識はといふと、夢遊に遊んでゐる。
例へば火事で焼死するといふ事例が後を絶たないのは、
眠ってゐるときには意識は既に夢の中で、
それはもう意識とは言へず
意識は雲散霧散してゐて、
それを敢へて名指せば、
意識を攪拌しての意識の溶解、
つまり、気の分散に感覚は不覚状態に陥り
意識は感覚を捉へることに悉く失敗するのだ。

この意識と感覚の脱臼関係は、
例へば焼死といふ悲劇を招くが、
一方で、この意識と感覚の脱臼は、
夢中と言ふ得も言へぬ悦楽に自我を抛り込むのだ。

此処で我慢できずに無意識と言ふ言葉を使ひたい欲求を感じるのだが、
無意識は、断言するが、ないのだ。
無意識といふ言葉は意識を語るための逃げ口上に過ぎぬ。
意識は溶解と凝固を繰り返し、
気を集めては霧散しながら、
感覚に繋がり、脱臼するのだ。

そして、感覚は不覚と覚醒を繰り返し、
やがて睡眠状態に陥る。

其は統覚をぶち壊し、
自我を自縛する意識、もしくは気の蝟集、否、輻輳を溶き、
存在を溶解させし。
其を吾は意識の脱臼と呼びし。








渺渺と

時に意識を失ふことがあるが、
その時の渺渺たる感覚は何処に源泉があると言ふのだらうか。
既に無意識なる言葉を信じてゐないおれは、
その時の意識状態を意識溶解と呼んでゐる。

何処までも膨張する意識と言ふのか、
其は何と呼べば良いのか。
敢へて言へば、其は無限に溶暗した意識。

――さあ、飛翔の瞬間だ。意識は肉体から溢れ出し、無限へと、渺渺と確かに存在する。其は無意識を食ひ破り、肉体の束縛を食ひ千切り、無限へと拡大膨張し、渺渺たる本源の吾を解放する。さあ、踊らう。夜が明け、意識が戻るまで。

行方知らず

おれの心は何処へ行ってしまったのだらうか。
何時の間にか行方知らずになってゐたおれの心は、
ふらりふらりと此の世を彷徨ってゐるといふのか。

心が抜けたこのおれは、
何の感情も湧くことなく、
無表情に此の世をぼんやりと眺めてゐる。
哀しい哉、心此処に無しと言ふ事態は緊急事態なのだ。
ところが、おれはといふと行方知れずの心に何の執着もなく
この抜け殻状態の肉体を満喫してゐるのだ。
感情が無いといふこの状態は案外と平安で、
おれはいつもよりも落ち着いている。

案外、心は不必要なものなのかも知れず、
へっ、
――心あっての人間だらう。
との半畳が聞こえてくるが、
しかし、人工知能の有用性を鑑みれば、
心の無い人間と言ふのもまた、此の世にとってはとっても有用に違ひない。

それでは行方知らずのおれの心は、
何処へ行ってしまったのだらうかと
おれはやうやく重い腰を上げてウロウロと探し始めたのであるが、
そんな簡単に見付かる筈がないのは言ふ迄もない。

傍から見れば、これは 全くの喜劇なのだらうが、
当の本人にとっては至って真剣で、
行方知らずの心が戻らぬ事態は、
余程おれが心に嫌はれてしまったのだらう。

一体おれは何をしたのだらうか。
唯、おれは自己弾劾をしただけなのに、
作品名:乖離する吾 作家名:積 緋露雪