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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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乖離する吾

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何もかもをかなぐり捨ててでも抱きしめたいのです。
あなたは既に私にとっての欲望の捌け口であり、
私の理想なのです。
これを恋と言ふのでせう。
切ない思ひを噛み締めながら、
あなたからの便りを心待ちにしてゐる私がゐます。

さうして凍てつく冬の未明は小さく小さく蹲りながら
赫赫たる真夏の陽光を夢見ながらひりひりと夜明けを待つのです。

知らぬが故に何もかも知りたいと言ふ飽くなき欲望は、
何時まで経っても満足することはないでせう。
さうだから尚も私はあなたを求めずにはゐられないのです。
痺れるやうな熱き接吻をして、あなたをぎゅっと抱きしめて愛欲に溺れたいのです。
あなたはそれを受け容れてくれないかも知れませんが、
そんなことはお構ひなしに、
私はあなたを抱擁したいのです。
こんな私は間違ってゐるでせうか。

さうして凍てつく冬の未明は小さく小さく蹲りながら
赫赫たる真夏の陽光を夢見ながらひりひりと夜明けを待つのです。

――愛してゐます。
と、私は直截に言ふことに羞じらひを覚えつつも、
やはりあなたを愛してゐるのです。
惚れた方が負けとはよく言はれることですが、
私はあなたには敗北してでも卑屈に忍びより、
の心持ちをちらりと横目で見ながらですが、
あなたにこの思ひを伝へなくては浮かばれないのです。

こんなつまらぬ表現しか出来ぬのが恋といふものでせう。
惚れてしまったならば、もう当たって砕けろなのです。
こんな私をあなたは受け容れてくれますか。

上弦のか細い月が漸く昇る未明の徘徊は、
私ののぼせた頭を冷やすのにはまだまだ温か過ぎるのです。
手はみながらも私の心に鬱勃として湧いてくる熱きものは
鎮まるどころか尚更に燃え上がるのです。
――あなたが欲しい。
と、直截にしか言へない私の語彙の足りなさをもどかしく感じるのが恋といふものでせう。

さうして凍てつく冬の未明は小さく小さく蹲りながら
赫赫たる真夏の陽光を夢見ながらひりひりと夜明けを待つのです。

そして、私は火照った頬を冷やす前に来光を浴びてしまってゐるのです。

そんな私の心を一枚剥がしてみると
其処にはアダムとイヴを誘惑したエデンの園の蛇がとぐろを巻いて、
鱗をきらりと光らせながら隙あらばとあなたを狙ってゐるのです。

さうして蛇の交尾のやうな激しい愛撫をあなたとしたい私がゐるのです。


すれ違ひ

おれはしっかりとお前を見つめ、
最低の礼儀は尽くしたつもりだが、
それが癪に障ったお前はおれに対して牙を剥いたのだ。
それがお前のおれに対する切実なる思ひの表現であり、
おれの存在はお前を瞋恚に駆らせる導火線でしかなかったのだらう。
怒りを爆発させたお前は、おれに牙を剥き、
吾がを穢された狼のやうに低く腹に響く唸り声を上げて
何時おれに致命傷を与へるかその間合ひを測ってゐる。
おれがいくら鈍感とはいへ、お前のその瞋恚に圧倒され、
おれはお前に惨殺されるその光景が脳裡に過ぎり
おれはじりじりと後退りするばかりであった。

それは端から勝敗が決してゐた対峙であった。
最早怒りに吾を見失ったお前にとって、おれの恭順など目に入る筈もなく、
お前は只管におれの存在を呪ったのである。

哀しい哉、おれはお前のその瞋恚を軽くみてゐたのかもしれぬ。
その迫力たるや凄まじく、蒼穹を食ひ千切るほどに、
つまり、水爆が爆発したかのやうな衝撃をおれに与へたお前は
おれの口に手を突っ込んで
胃袋を掴み出すかのやうな勢いでおれに襲ひかかる間合いを測ってゐた。

しかし、他者との対峙は大概そんなもので、
おれと他者とはどうしても解り合へない底無しの溝があり、
それを跨ぎ果さうとする馬鹿な試みは初めからすることはないのだ。
Territoryの侵害は、おれとお前の双方にとって不快であり、
誤謬の原因にしかならない。

しかし、その誤謬は誤謬として正確に認識すれば、
他者に対する理解が進むかと言ふとそんなことはなく、
未来永劫他者と解り合へることはない。
だからこそ、おれは他者を追ひ求めるのだ。
おれは理解不全なものにこそおれの秘匿が隠されてゐると看做す。
これは論理矛盾を起こしてゐるが、この論理矛盾にこそ信ずるものがあるのだ。

おれは他者に対して畏怖することを微塵も表情に出さずに
ぎらりと彫りの深い眼窩の座る目玉で他者を一瞥だけして、目を伏せる。
これがおれの他者に対する対峙の作法で、
これが瞋恚に駆られる他者に向かひ合ふぎりぎりの態度なのだ。

偽装

そのままでいいと言はれようが、
おれは終始偽装する。
それが世界に対する正統な振る舞ひ方で、
騙し騙される此の世の渾沌の中での唯一残さた主体の取り得る姿勢なのだ。

此の世は欺瞞に満ちてゐるなどと嘯いたところで
それは現実逃避の逃げ口上に過ぎず、
此の世が欺瞞に満ちてゐるからこそ尚もおれは偽装するのだ。

つまり、おれは世界と狸の化かし合ひをしてゐるのであって、
老獪な世界に対して高高百年くらいしか存在できぬ生き物たるおれは
偽装することでやうやっと生き延びることが可能なのだ。
ときに、若くして病死してしまふ人生もあるが、
それもまた、偽装の末のことであって、
おれの脳裡ではロバート・ジョンソンのブルースが鳴ってゐる。
その哀切なる歌声に人生の儚さを思ふのであるが、
ロバート・ジョンソンは二十九歳で射殺されてしまっちまって、
珠玉のブルース・ナンバーを数十曲吹き込んだことを除けば、
その人生は余りに儚く、ロバート・ジョンソンもまた、
偽装した人生を歩んでゐたと言へるだらう。
何故といって、素顔を晒してしまったが途端に
ロバート・ジョンソンは恨みを買い射殺されてしまったのだ。

主体の本性が垣間見えたときに、他人は己の嫌な部分が見えてしまふのか、
その醜悪さに思はず目を避けるのだ。
それ程に本性は誰にとっても目を背けたくなるものであり、
其処に救ひは全くないのだ。

更に言へば素性が明らかになることなど今生ではないに違ひない。
仮に主体の素性が明らかになったところで、
それもまた、偽装した主体の仮面であり、
さうでなければ、他人はやはり目を背けるのだ。
此の世で最も醜いものが主体の素性、若しくは本性ならば、
それは偽装するのが儀礼といふものなのだ。

さて、おれは此の世界の森羅万象の素性を闡明することに明け暮れた時期もあったが、
それが既に欺瞞でしかないことに気付いた途端、
おれは世界の森羅万象の偽装の仕方に興味は移り、
その巧妙至極な偽装の仕方に感嘆する外なかったのだ。

邯鄲の夢に過ぎぬとも言はれる此の人生において
上手く偽装できなければ、
世界と断絶し、
主体は繭を作って
その中に閉ぢ籠もることに相成り、
老獪至極なる世界に対してたったの一撃すら喰はせることすら出来ぬのだ。

それを無念と言ふのではないか。
さあ、偽装の仕方に巧妙になる訓練に励め。
己の本性ほど醜悪至極なものはないのだ。


絶望の行進

我が物顔で行進するそれは、
こっちの都合なんて全くお構ひなし。
今更参勤交代の時代でもなからうが
それが行進すれば、此方は平伏するばかり。
ちらりでもそれを見てしまったならば、
作品名:乖離する吾 作家名:積 緋露雪