東京メサイア【初稿】
#7.インゴッド
クレモナ貴金属店(9:09)
地方都市の駅前通りに面した路面店
通りの路肩に停車する幌付き軽トラック
荷台にはパキラやドラセナなど幹のしっかりした背の高い観葉植物が多数積まれている
車内でキャップと白マスクを被って顔を覆う慈恩と吐夢
荷台から重たいパキラの鉢をおろす慈恩と吐夢
パキラの鉢と黒いリュックが載った台車を押す吐夢
キャップを目深にかぶった慈恩が貴金属店裏口のインターホンを鳴らす
店主がカメラ画像を軽く確認する
裏口のドアを開く店主
店主 「あれ、いつもの人と違うね」
布マスクを下げる吐夢
布マスクの下からラバー製の気味悪い髑髏のマスクが現れる
江藤が退席し和田が演壇に立つ(9:15)
神妙な面持ちに和田を捉える放送用カメラ
『急なことで誠に恐縮ですが、本日昼12時0分から明日の昼12時0分まで24時間、東京23区において計画停電をいたします。この措置は一般のご家庭向けだけでなく、企業様に対しても行われます。23区全域の電力供給が停止されます。この措置に伴いまして電話、インターネットその他の通信網が一時的に遮断されます。110番119番への通報通電も不可となります。またバス鉄道等各種公共交通機関も運行を休止します。交通信号や電光掲示板等も作動しません。
このような状況下におきましては、誠に遺憾ですが公務を預かる警察職員の安全を鑑み、警察業務の一切を24時間停止といたします。よってこの間適切な犯罪取り締まりができません。23区内都民の皆様がこの間に外出されることは予期せぬ危険を伴うことが予想されます。この間は外出を控え極力ご自宅等で安全に過ごされますようお願い申し上げます。なお23区以外の、東京都下各市町村の行政サービスは通常に業務機能いたします』
市民公園(9:20)
ケヤキやクスノキなどの樹木に囲まれた比較的広い公園
タコが足を広げた滑り台に子どもたちが集まる
ゾウが伏した形のオブジェによじ登るエミリ
ゾウの鼻にペンギンのキャラクターがついた子供用のバケットハットが掛けてある
タコの滑り台から滑りおりるカズマ
エミリとカズマが遊ぶ様子を、スマホを手に微笑ましくみる母親アサミ
公園には母子の姿が数組ある
ベンチに腰掛けるひとりの母親がスマホを取りだす
違う母親もスマホの着信に気づき画面を見る
画面に文面を読み子どもを呼びよせる母親たち
帰り支度を急かす母親たち
晴美のスマホが鳴動しテキスト画面が開く
テキストを読み終える間もなく公園中を見回す晴美
晴美 「カズマ、エミリ。帰るわよ」
クレモナ貴金属店(9:33)
事務所の隅で両手足を縛られテープで目隠しされた店主が呻く
店舗事務所の奥にある大きな金庫の扉が開いている
金庫の中は空っぽ
快走する電車内(9:33)
適度に混み始めた車内で幾人かの乗客がスマホを手に囁き合う
唐突に車内アナウンスが始まる
『当列車は行先を変更して次の浅月駅止まりとなります。ご迷惑をおかけして誠に・・・』
俄かにざわめき立つ乗客たち
ホームに到着した電車のドアが開き大勢の乗客がホームに吐きだされる
混雑するホームで途中停車の理由を駅員に問い詰める複数の乗客
大きなリュックを抱えたまま見知らぬ駅のホームで戸惑うカンタロー
クレモナ貴金属(9:43)
金庫の前で100gのインゴッドをリュックに詰めた終えた吐夢
吐夢 「ちょうど100枚」
慈恩 「マギーさんの言った通りだな」
吐夢 「(リュックを持ちあげて)重い」
慈恩 「よし撤収だ」
髑髏マスクをリュックに投げこむ慈恩と吐夢
重くなったリュックを台車に乗せる吐夢
キャップと布マスクで顔を覆ったまま吐夢が台車を押す
観葉植物と黒いリュックを載せた台車が貴金属店の裏口から出る
荷台にあがった慈恩に観葉植物を受け渡す吐夢
観葉植物を荷台に押しこみ荷台から顔を出して周囲に目を配る慈恩
続いてリュックを持ちあげるがゴールドの重さにもたつく吐夢
慈恩 「バカ。早くしろ」
リュックの口ひもも縛り直す吐夢
リュックをようやく荷台に載せる吐夢
樹木と鉢にロープをかける慈恩
さらにロープを幌の骨に縛り幌を下げる慈恩
車体を軋ませて貴金属店の周辺道路から走りだす軽トラック
結婚式場教会(9:44)
屋根のてっぺんに距離を置いて跨って座る愛子と村定
愛子 「いまさっき彼から電話があって、君とは結婚できないって」
村定 「それが僕と何の関係が?」
愛子 「あたしね、年齢を盛ってたの」
村定 「サバを読んでた?」
愛子 「彼には29歳って言ってたのね」
村定 「本当は?」
愛子 「39歳」
絶句する村定
愛子 「それがバレたみたい。しかも結婚式の当日に」
村定 「それはひどい」
愛子 「ひどいでしょ。結婚式当日よ。年齢なんて関係なくない? 29歳だろうが39歳だろうが」
村定 「いやあ、ひどいの意味を・・・。ていうか年齢は多いに関係あるでしょ」
愛子 「あたしのことが好きだったらそんなの関係ないはず」
村定 「ま、そこはお互いのことだから立ち入らないけどさ。でも話を聞く限り、結婚式の中止と僕は関係ないよね」
愛子 「心の狭い男が悪い。思わない? 私みたいなかわいい女性と結婚しないなんて」
村定 「なんだかなぁ」
愛子 「あんたも一因よ。あんたがそんなとこで突っ立てるから」
村定 「いやあ、それは言いがかり・・・」
愛子 「あんたがそんなところにいるから彼から電話がかかってきたの」
村定 「もう話が無茶苦茶」
愛子 「慰謝料よこしなさい。結婚式が中止になったんだから」
村定 「待って。少し落ち着きましょう。結婚式が中止になって可哀そうだと思うけど」
愛子 「可哀そうと思うなら慰謝料ちょうだい」
村定 「慰謝料って・・・。それよりさ、なんで僕がこんなところに立っているのか、君、不思議に思わないの?」
愛子 「なんで?」
村定 「見りゃわかるだろう」
愛子 「?」
村定 「僕、いまから死のうとしてるんだよ」
愛子 「へぇ。なんで?」
村定 「なんで、なんでって・・・興味ないか」
愛子 「あなた、あたしの彼より若そうに見える。死ぬなんてもったいない」
住宅街(9:51)
前にエミリを、後ろにカズマを乗せて自転車をこぐ晴美
前かごに紙おむつを、後かごにネギとバケットを積んで自転車をこぐ晴美
荷物を載せた晴美の自転車が自宅に到着する
玄関が開け放たれていることを不審に思う晴美
晴美 「(玄関に向かって)カズマ、ちょっと手伝って」
家の中から返事がない
晴美 「カズマ、エミリ」
子どもたちの名前を大きな声で呼ぶが返事がない
家に入りリビングやキッチン、子供部屋を探すが子どもの姿が見えない
1階の窓から裏庭を探すも子どもがいない
玄関から戸外に飛び出す晴美
晴美の顔に不安と焦りの色
晴美 「隠れてないで出てきなさい」
左右に目を配りながら家の外周を探す晴美
見つけることができず敷地から道路に飛びだす晴美
晴美の手がぶつかり自転車が倒れる
買い物袋から飲料や食品が地面に散乱する
道路の真ん中に立ち大声で子どもの名前を呼ぶ晴美
晴美 「カズマァ、エミリィ」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA