東京メサイア【初稿】
#16.身代金
港南総合病院(17:29)
八村 「あいつ、泣いてます」
照明灯の下に立ち涙ぐむカンタロー
カンタローに歩み寄る裕子
俯いたまま裕子の顔を見られないカンタロー
カンタローの背中に手を添えて目頭を押さえる裕子
そっと踵を返す江藤
晴海ふ頭第8倉庫(18:00)
吊り荷用のチェーンフックが天井近くの鉄骨梁から下がっている
廃材を燃やして炎があがるドラム缶が2つ
2つのドラム缶の間に大型の無人フォークリフト
パレットを高くあげた状態で停まっている
パレットの上にパイプ椅子に縛られた真緒
猿ぐつわを噛まされ意識が朦朧としている真緒
ドラム缶の炎の背後に立つ髑髏マスクの慈恩と吐夢
倉庫の前にビーストが停まる
大きな鉄扉の隙間をすり抜ける江藤
重いアタッシェケースを持って八村が江藤に続く
慈恩らと江藤たちの中間にフタがされたドラム缶がある
天井に吊るされたスピーカーから津曲の声
津曲 「そのドラム缶の上に金を置け」
八村 「真緒さんは無事なんだろうな」
津曲 「心配するな。少しクスリを盛ってある。死にはしない」
フォークリフトのパレットが揺れる程度に下がる
薄目を開けようと首を動かす真緒
江藤 「ひと言いいかしら」
津曲 「なんだ? 俺たちに説教でもする気か」
江藤 「いいえ、真緒に。その子に聞かせたいの」
八村を促す江藤
進み出てドラム缶の上にアタッシェケースを置く八村
江藤 「真緒、このお金は東京都民1400万人の税金よ。私が東京都から緊急に借りて、あんたの身柄と引き換えにこいつらにくれてやる。このお金はね、知事云々は関係ない。あたし個人の問題。だからあたしには1億円の借金が残る。聞いてる? 真緒。あんたの軽はずみな行動がどれほど人に迷惑かけてるか」
八村 「何もそれを今言わなくても」
織場 「厳しい意見だが間違ってない」
倉庫の影で取引の様子を窺っていた織場が呟く
津曲 「下がれ」
鉄扉の前まで後退する八村と江藤
アタッシェケースを開く慈恩
ぎっしり詰まった札束を確認する慈恩
倉庫壁面に設置されたオペレーティングルームに向けて親指を立てる慈恩
オペレーティングルームの窓に一瞬映る津曲の顔
鈍いモーター音とともにパレットが上昇する
アタッシェケースを抱えてその場を離れる慈恩と吐夢
八村 「その子を降ろしたまえ」
声の出どころがわからないままドラム缶のところまで歩み出る八村
パレットがさらに上昇する
津曲 「それ以上近づくな。うしろに下がってろ」
江藤 「八村」
渋々後退する八村
織場 「津曲!」
オペレーティングルームに繋がる鉄骨階段を駆けあがる織場と招堤の足音
オペレーティングルームの窓から鉄骨階段を覗き見る津曲
織場 「とうとう尻尾を出したな」
八村 「お前たち」
織場 「奴は二課が2年間追っても居場所が掴めなかった麻薬ディーラーで」
津曲 「畜生」
狼狽えてタブレットでフォークリフトを操作する津曲の手がブレる
パレットがズズっと前にせり出す
パレットの上のパイプ椅子が不安定に揺れる
八村 「かまうな!」
次の瞬間フォークリフトがバランスを崩し前傾する
パレットから真緒がパイプ椅子ごと転落する
地面に前倒しになったフォークリフトの爪が突きささる
ドラム缶が倒れて廃材が激しく燃えあがる
真緒に駆け寄る江藤と八村
その光景に足を止める織場と招堤
ぐったりとしているが意識はある真緒
八村 「真緒さん」
江藤 「真緒、しっかり?」
真緒の容態を確かめる江藤と八村
猿ぐつわが外れて真緒の唇が動く
真緒 「わたし、死んじゃうの・・・」
織場 「津曲、この野郎」
八村が織場の怒声に被せて声を張りあげる
八村 「追うんじゃない」
上りかけた階段で止まる織場と招堤
八村 「織場さん、招堤さん、人命救助が先です」
織場 「しかし犯人が」
八村 「そっちはいい」
織場 「しかし1億円を持ち逃げされて・・・」
八村 「今はそれより真緒さんを・・・」
真緒を抱きかかえる江藤
都庁舎前(19:23)
ビーストのリアハッチが全開になっている
絨毯を敷き詰めたビーストの床に寝かされている真緒
加恵が空の車椅子のグリップを握って待ちかまえる
真緒を抱きかかえて車椅子に移乗する八村
真緒を乗せた車椅子を押す加恵
車椅子を先導する八村
八村と加恵の後方で江藤が気を失って地面に崩れおちる
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA