東京メサイア【初稿】
#15.ガチ恋口上
知事室(16:38)
壁に埋め込まれた大型金庫の扉を閉める江藤
ややいらついている江藤
アタッシェケースにぎっしり詰まった100万円束
ケースの留め具を締める八村
八村 「用意できました」
窓際にもたれ外を眺めたままの江藤
江藤 「ひとつ引っかかってることがあるの、八村」
八村 「何でしょう、知事」
江藤 「犯人と真緒がグルってことはない?」
八村 「まさか犯人と真緒さんが・・・」
織場 「あり得ますね。被害者を演じている」
八村 「織場」
織場 「劇場型犯罪と手口が似ています」
八村 「いい加減なこと言うんじゃないよ」
八村 「知事、真緒さんは事件に巻きこまれました。救い出すことだけ考えましょう」
カーナビを操作しながら運転する八村(17:28)
後部席の床にチェーンで固定されたアタッシェケース
八村 「警視庁に応援を求めなくて本当にいいんですか」
江藤 「いい。警察を排除したのはあたし。あたしがなんとかする」
八村 「我々が全力でサポートします」
助手席の窓にもたれて呆然と流れる暮れゆく景色を眺める江藤
病院の敷地前に通りかかるビースト
玄関敷地の植込付近にふと記憶にある人影が目に留まる江藤
江藤 「あ、あいつ。停めて」
八村 「なんすか?」
江藤 「いいから停めて」
八村 「ちょ、いまから身代金の受け渡しですよ」
照明灯を支えにリュックを抱えて俯いているカンタロー
ブレーキをかけてビーストを停車させる八村
江藤 「バックして」
ビーストを後退させると八村にも植込の前にいるカンタローが確認できる
八村 「あ、あの野良犬に追われてた奴」
江藤 「何してるんだろう? 外出ダメだって言ってるのに」
八村 「病院だから、きっと」
江藤 「助けてあげたのに、礼のひとつも」
ビーストから降りかける江藤
「待って、知事。あいつ・・・」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
回想:港南総合病院(16:08)
プリントアウトしたヤフー地図を頼りに歩道を歩くカンタロー
道の先に港南総合病院の建物が見えてくる
敷地入口の車用チェーンを跨いで敷地に入るカンタロー
病院の玄関はガラス扉が閉められ暗い
本日休診を報せる貼り紙がガラス扉に貼られている
カンタロー「すみませーん」
玄関に向かって叫ぶカンタロー
玄関の扉は押しても引いても開かない
数歩下がって建物の階上に叫ぶカンタロー
カンタロー「すみませーん」
返答はない
がっくりと膝に手をつくカンタロー
階上の窓に女性(桜井裕子)の影
諦めて帰りかけるカンタロー
玄関扉が開き裕子が声をかける
裕子 「カンタローさん」
カンタロー「あ、ソラさんのお母さん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
廊下やホールを仄かに照らす非常灯
暗い階段を並んでのぼる裕子とカンタロー
裕子 「来てくださったの? わざわざ」
カンタロー「どうしても渡したいものがあって」
裕子 「何かしら」
階段をのぼりきった所で立ち止まるカンタロー
リュックから小さな化粧箱を取りだすカンタロー
非常灯のか弱い灯りに下で箱を開けるカンタロー
箱の中には銀色に光り輝くチェーンのついたブレスレット
ブレスレットは、月、星、太陽がモチーフになっている
裕子 「まあ、素敵」
カンタロー「僕が作りました。半年かかりましたけど」
ブレスレットを箱から少し持ちあげる裕子
カンタロー「それ、ソラさんに渡してもらえませんか」
裕子 「カンタローさん。こんな素敵なもの。あなたから、直接ソラに」
カンタロー「え? 面会謝絶なのでは」
裕子 「ううん、いいの。そら、もう・・・」
涙をこらえる裕子
集中治療室のすりガラスドアが開く
リクライニングベッドに横たわる桜井ソラ
集中治療室のドアの前で躊躇するカンタロー
入室を促されて集中治療室に入るカンタロー
ソラの顔を悲しげに見つめながら話す裕子
裕子 「ソラにね、カンタローさんがお見舞いに来てくれたわよ、って言ったら、ソラの目が開いたの」
頬がこけ痩せ細っているソラ
眉毛やまつ毛が抜け落ち唇の血色もない
ベッドの脇でバイタルを測定する計器が低い数値と弱い波形を描いている
カンタロー「ソラちゃん・・・」
ベッドサイドに立ちリュックからブレスレットを取りだすカンタロー
カンタロー「これ、作ったんだよ。ソラちゃんに似合うと思う」
力なくブレスレットに触れるソラ
口元に笑みが浮かぶソラ
き・れ。い、と唇を動かすソラ
目でカンタローに訴えかけるソラ
カンタロー「何?」
何か言いたげそうな表情を見てソラの口元に顔を近づけるカンタロー
ソラ 「早くいい人見つけて、幸せになって。わたしにことは、忘れなさい」
それはカンタローの心に直に語りかけるような言葉
目を閉じて唇を動かすソラ
ご・め・ん・ね
バイタル計器から警報音が発せられる
集中治療室に飛びこんできた主治医と看護師がカンタローをベッドサイドから引き離す
看護師「心室細動です」
医師 「出てください」
集中治療室から追いだされるカンタロー
遅れてやってきた別の看護師にも邪魔者扱いされ廊下でただ狼狽するカンタロー
ドアの隙間からは医療スタッフだけが見える
裕子 「ソラ、しっかり」
裕子の声がカンタローの耳に届く
懸命に医療措置を行う主治医
涙目になるカンタロー
廊下の突き当りまでひた走るカンタロー
リュックからチェキ帳を取りだすカンタロー
チェキ帳に並ぶ幾百枚ものソラの写真を見て涙ぐむカンタロー
カンタロー「(写真を見つめて呟くように)言いたいことが、あるんだよ・・・」
チェキ帳を握りしめ大声を張り上げるカンタロー
廊下から聞こえるカンタローの絶叫に似た声に反応するが救命に戻る看護師
『言いたいことがあるんだよ
やっぱりソラはかわいいよ
好き好き大好きやっぱ好き
やっと見つけたお姫様
俺が生まれてきた理由
それはソラに出会うため
俺と人生一緒に歩もう
世界で一番愛してる
あ・い・し・て・る』
救命に尽力した医療スタッフがベッドの周りに立ち尽くす
穏やかに息を引き取ったソラ
カンタローの手の中から沢山のチェキが床に舞い落ちる
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA