東京メサイア【初稿】
#12.津曲健一
人影が消えた池袋西口公園(13:20)
公園周辺の店舗はほぼ全部閉まっている
ただひとつ開店しているカフェバーの店先に置かれたテーブルと椅子
椅子に掛けて生ハムとキールをたしなむ津曲健一(通称マギー)
向かいの椅子に露出の多い服装の金髪女性が掛けている
津曲の足元にはおとなしく侍るシベリアンハスキー
ふたりの十代若者が公園の一角に立つ派出所の壁にスプレーで落書きを始める
津曲 「(若者たちに)おい、お前ら」
津曲のほうを振り向く若者たち
津曲 「目ざわりだ。消えろ」
シベリアンハスキーが若者たちに一度吠えその後低く唸り声
恐れ慄いて立ち去る若者
電動キックボードを押して慈恩と吐夢が津曲の前に現れる
リュックを見て満足気な笑みの津曲
真緒を乗せたタカシのバイクが西口公園に停まる
タカシが津曲に向けてアイコンタクトで挨拶する
バイクから降りながらミニショルダーからスマホを取りだす真緒
電源を入れるが通信が繋がらない
真緒 「なんで? まだ圏外・・・」
リュックを地面に投げだして膝をつく慈恩と吐夢
津曲に頭をこすりつけるように土下座する慈恩と吐夢
津曲 「どうしたんだ、慈恩?」
リュックからインゴッドの板を一枚取りだす慈恩
笑みを浮かべる津曲
リュックから角張った石を取りだす慈恩
バイクから降りる真緒
タカシから手渡されたミネラルウォーターのボトルキャップをひねる真緒
津曲の怒声が公園に響く
津曲 「ふざけんじゃねえ、この野郎」
テーブルの上のグラスと皿を津曲が手で払いのける
それらが地面に落ちて音を立てて割れる
慈恩 「すんません」
額を地面にこすりつける慈恩と吐夢
津曲 「マジで言ってのか」
慈恩 「本当なんです」
津曲 「てめえらが抜いたんじゃねえだろうな」
慈恩 「そんなこと・・・もしそんなことしてたらここにいません、て」
慈恩の真剣な表情を覗きこむ津曲
後座に派手な女子高生リリアを乗せたバイクが西口公園に到着する
津曲 「ちっ。どいつもこいつも。船は遅れるわ、運び屋は税関で捕まるわ」
津曲 「ドジリやがって、バカが」
津曲 「明後日までに金が必要なんだ。それはお前たちに言ったよな」
慈恩 「はい」
津曲 「組に6千万払わなきゃ東京では商売できない。できないだけならまだいい。俺の命があぶねえ」
慈恩 「なんとかします」
津曲 「バカ、てめえらボンクラになんとかできるわけねえだろうが」
椅子に掛け大きな溜め息をつき怒りを鎮める津曲
公園の一角にハヤトがバイクを停める
バイクから降りたリリアが真緒を見つける
リリア「あれ、真緒じゃない?」
真緒 「リリア、久しぶり」
リリア「あんた、大丈夫なの? あんたのママがあちこちの街頭テレビに映ってたよ」
真緒 「ああ、関係ない」
リリア「って、ママに怒られない?」
真緒 「あたしはあたし」
タカシ「街頭テレビって何だ?」
リリア「タカシ知らないの? この娘・・・」
リリアに咳払いする真緒
リリア「いいじゃない。どうせバレることなんだから。この娘ね、江藤沙耶の娘なの」
タカシ「江藤沙耶って?」
ハヤト「江藤沙耶・・・」
ハヤトが呟き閃いて大きな声をだす
ハヤト「ボブ・サップの腕をへし折った、あの江藤沙耶?」
真緒 「あれは、都市伝説。ママに聴いたら握手しただけって・・・」
リリア「江藤沙耶がこの前の選挙で当選したの、知ってるよね」
タカシ「選挙? なんだそれ」
ハヤト「よく知らないけど、もしかして東京都知事選?」
リリア「そう。で、いま東京都知事」
タカシ「東京都知事? (真緒に向かって)君、東京都知事の娘なのか?」
困り顔の真緒
椅子に掛けて思案していた津曲にタカシの驚いた声が届く
何かが閃いて笑顔になる津曲
津曲 「おい、タカシ。ちょっと来い」
都庁 (13:58)
フルフェイスのバイクが都庁に向かって疾走する
ライダーはラメ素材のミニショルダーバッグを肩からかけている
バイクが東京都庁の正門に着く
ガラスドアのハンドルにミニショルダーバッグをぶら下げるライダー
建物内に居合わせた招堤とライダーの目が合う
招堤の動きを確認するとバイクを駆って立ち去るライダー
ドアハンドルからミニショルダーバッグを外す招堤
ロビーに戻る招堤
加恵の隣に座り団扇で加恵を扇ぐ織場
織場 「何だ、それ?」
招堤 「落とし物ですかね」
招堤が目線の高さに掲げたミニショルダーを加恵が眺める
加恵 「ちょっと、それ。もしかして・・・」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA