小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

東京メサイア【初稿】

INDEX|17ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

#13.水色の帽子



走行するビースト車内(14:03)
八村 「意外でしたね」
江藤 「何が?」
八村 「歌舞伎町ですよ。平和だった」
江藤 「真緒が補導されたところね」
八村 「もう少し、なんていうか、はみだし者が・・・」
江藤 「治安がよくなったって聞くし」
八村 「どこへ行ったんでしょうね、真緒さん」
江藤 「さあ・・・」
八村 「真緒さんの交友関係は?」
江藤 「誰と付き合ってるとかよく知らないの。ほとんど会話がないから」

ぼんやり窓の外を眺めているとふたりの子どもが江藤の目に留まる
閉店しているラーメン屋の角のベンチに所在なく座っているカズマとエミリ

江藤 「停めて」

停車するビースト

八村 「真緒さんですか」
江藤 「ラーメン屋」

後退してラーメン屋の店先に停車するビースト
車内からカズマとエミリの様子を観察する江藤
江藤が車から降りるのを見てエミリを護るように抱きよせるカズマ

◆    ◆    ◆    ◆    ◆
回想回想:晴美宅(9:30)
晴美がペダルを漕ぐ自転車が晴美の自宅に停まる
カズマとエミリを自転車から降ろす晴美

晴美 「ママ、これから買い物に行くから、お家でおとなしくしてなさい。わかった?」

少し急いでいる様子の晴美
カズマとエミリが玄関に入るのを見ずに自転車を走らせる晴美
玄関手前でエミリが心細げにカズマに言う

エミリ「お兄ちゃん、エミリのお帽子持ってる?」
カズマ「ううん、持ってない」
エミリ「あれ、どうしちゃったのかしら」
カズマ「公園に忘れてきたんじゃないか」
エミリ「どうしよう、お兄ちゃん(泣きそう)」
カズマ「ママが帰ってきたら探しにいこう」
エミリ「誰かに盗られちゃわないかな」
カズマ「うーん(口を尖らせて思案する)」
エミリ「パパから大事にしなさい、って。ああ、パパに怒られちゃう」
カズマ「うーん。じゃ、これから探しに行こう」
エミリ「公園、遠いよ」
カズマ「大丈夫、だいたいわかるから」

複雑な表情のエミリの手を引いて自宅前を離れるカズマ
人影のない住宅街をエミリと手を繋いで歩くカズマ
険しい瞳をしたカズマの額に汗が流れる
前方に木々の生い茂った公園を見つけるカズマ

カズマ「あった」

駆けだすカズマとエミリ
しかし見覚えのない小さな公園
公園の中に足を踏み入れるカズマとエミリ
見回すがタコの滑り台もゾウのオブジェもない

カズマ「あれ?」
エミリ「タコさんいないよ」
カズマ「うーん」

途方に暮れるカズマ


ラーメン屋のベンチの前(14:04)
警戒心を解くためにサングラスを外す江藤
しゃがんでカズマとエミリに向き合う江藤

江藤 「どうしたの?」
江藤 「お母さんは?」
江藤 「迷子になっちゃたんだ」
江藤 「お家がわからなくなったんだね」
江藤 「お名前は言える?」

警戒心が解けないカズマ
降りてきた八村に江藤が言う

江藤 「とりあえず保護しましょう」

カズマとエミリをビーストに乗せようとする江藤
乗車をためらうエミリ

エミリ「パパに買ってもらったお帽子・・・」
江藤 「お帽子?」
カズマ「エミリが帽子を公園に忘れてきて・・・」
江藤 「エミリちゃんっていうんだ。キミは?」
カズマ「僕はカズマ」
江藤 「ふたりは兄妹でいいかな」
カズマ「うん」
江藤 「じゃあエミリちゃんがお帽子を公園に忘れてきて、それをお兄ちゃんのカズマくんが一緒に探しにきたんだ」
カズマ「うん」
江藤 「それで公園にあったの? それ」
エミリ「タコさん公園」
カズマ「タコさん公園の場所がわからなくて・・・」

泣きそうになるカズマ
ビーストのカーナビに地図が表示される
いくつかの公園が順次拡大される
ぼんやりとした画像で公園の遊具が映しだされる
遊具が拡大されるとそれはタコの形をした滑り台
タコさん公園の場所が地図上に特定される
ビーストがタコさん公園に停まる
公園に駆けこむエミリとカズマ
ゾウの鼻に水色のバケットハットがぶら下がっている
ビーストを背に笑顔でカズマらを見守る江藤と八村
◇    ◇    ◇    ◇    ◇
贅沢な内装が施されたビーストの車内ではしゃぐエミリとカズマ

八村 「母親らしき人、見つかりませんでしたね」
江藤 「きっとパニックになっているはずよ。どこにも連絡できないんだから」
八村 「この状況で子どもが迷子はつらい」
江藤 「多少は探し歩いてもいいのにね」
八村 「いや、危険でしょ。さっきの野良犬の件もあって女性のひとり歩きは」
江藤 「そうかしら。我が子がいなくなっているのよ」
八村 「家から徒歩で迷子になったことを考えると、この近辺にお家があることは間違いないんですけどね」
江藤 「住所さえ憶えていてくれたらね」
八村 「幼稚園で教えてもらえないかな」
江藤 「カズマくん、幼稚園の場所わかる?」
カズマ「うーん。なんとなく。でもきょう幼稚園お休みだよ」
江藤 「休みって、初めから?」
カズマ「うん。ママが言ってた」
江藤 「そうか・・・休みか・・・」
八村 「ついてないですね。しばらく保護するしか」
江藤 「母親はきっと不安で仕方ないはず」
八村 「真緒さん、見つかるといいですね」
江藤 「あの子はもう高校生だから」
八村 「だから余計に心配なさってるのでは?」
江藤 「八村。あたしは都知事として街の様子を・・・」
八村 「承知しております」
江藤 「問題が起きてないか見て回ってるの。文句ある?」
八村 「いえ、滅相もございません」

話題を変えようと後部車内が映るカメラ画像をチェックする八村

八村 「子どもたち、眠ったみたいです」
江藤 「歩き疲れたのね、きっと」
八村 「ええと、事前に織場らに知らせておいた巡回ルートでは、この後ご自宅マンションに向かうことになっていますが、よろしいですか」
江藤 「うん(生返事)」

マンションに到着するビースト

八村 「帰っていらっしゃるといいですね」

自宅のあるフロアまで非常階段をのぼる江藤
廊下を歩く江藤
自宅ドアの前に立つ江藤

◆    ◆    ◆    ◆    ◆
回想:6年前マンションのリビング

江藤 「真緒より仕事をとるのね」
ルーベン「ひどい言い方だな。仕方ないだろう」
江藤 「結婚前は家庭的だった」
ルーベン「仕事が忙しくなったんだ。わかってくれたはずだ」
江藤 「1年も帰らないって思わなかった」
ルーベン「仕事が順調だから家に帰れない。レコーディングやツアーとかで」
江藤 「そのくせたまに帰ったと思ったら真緒にいい顔ばかり。あたし働きながらひとりで真緒を育ててるんだよ。あなたが甘やかすからあたしの言うことなんて聞きやしない」
ルーベン「すまないとは思ってる」
江藤 「もう普通の勤め人には戻れないのね」
ルーベン「すまない」
江藤 「謝って済む問題じゃないの」
ルーベン「本当にすまない」
江藤 「もうおしまい。あたしのことなんてこれっぽちも考えてくれない」

薄闇の廊下から寝起き顔の真緒(小学生)が現れる

真緒 「どうしたの」

真緒の目線に合わせてしゃがむルーベン

ルーベン「真緒。ごめんな」
真緒 「どうしたの、パパ」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA