東京メサイア【初稿】
吐夢 「つべこべ抜かすと痛い目に遭わすぞ(凄む)」
吐夢が北風ににじり寄る
吐夢を阻止するかのように参集する数人のホームレスたち
吐夢とホームレスたちが対峙する
北風 「ああ、わかった。だがな、これを直接お前さんに手渡すと拾得者の権利が残る。こうしよう」
リュックを掴んで立ちあがる北風
北風 「わしがこれを拾ったところに戻す。それからそれをお前さんたちが見つければいい」
慈恩 「面倒くせえじじいだ(呟く)。わかったから、早くしろ」
葦の茂みに深く分け入りュックを高い背丈の葦原に投げる北風
北風が手ぶらで戻るのを確かめて葦の茂みに入る吐夢
北風 「さあ、わしらは昼飯にするか」
仲間のホームレスとともに橋の下から移動する北風
ある者は土手へ、ある者は堤防に穿かれた大きな排水口に消える
吐夢 「見つかりました」
泥で汚れたリュックを手に茂みから戻る吐夢
安堵の溜息をつく慈恩
リュック側面にいびつな凹凸があることに気づく慈恩
慈恩 「おい、ちょっと貸せ」
リュックを手にすると中から一枚のインゴッドを手にする慈恩
残ったリュックの中身を見て蒼ざめる慈恩
リュックを逆さにして中身を地面にぶちまける慈恩
ごつごつした石がいくつも地面に散らばる
慈恩 「あのじじい」
怒りで紅潮する慈恩の顔
煤けた物干棹で手当たり次第にホームレスの掘っ立て小屋を破壊する慈恩
破壊され尽くした橋の下のホームレスの住み家
先が折れた物干棹を持つ慈恩の手が震える
橋の下から河原に出て叫びながら物干棹を橋脚に投げつける慈恩
土手を走りながら慈恩の叫び声に一瞬振り返るカンタロー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神社の境内
人の姿はなく静まり返っている
手水舎で水を口に含むカンタロー
汗を拭いながらベンチ状の縁石に座るカンタロー
リュックからやきそばパンを取りだしてひと口齧るカンタロー
痩せた小型の野良犬が2頭カンタローに近づく
物欲しげな様子に仕方なく菓子パンをちぎって投げるカンタロー
投げられた菓子パンを追う小型に野良犬
匂いを嗅いだだけですぐにカンタローの足元に戻ってくる小型の野良犬
その際に林の中からやや大型の野犬も姿を現す
やきそばパンを大きめにちぎって林の中に投げるカンタロー
林のほうを目視している野良犬たち
林の中から唸りながらさらに大きな野犬がカンタローに近づく
大きな野犬の頭にやきそばが1本乗っかっている
恐怖を感じて腰をあげるカンタロー
ファスナーを閉じリュックを背負い直すカンタロー
続いて5頭目が恐ろしい形相で林から出てくる
慌てふためいて神社から逃げさるカンタロー
街路樹にしがみつくカンタロー(13:03)
カンタローの周囲を8頭の野犬が取り囲む
カンタローを車内から眺める江藤と八村
八村 「どうします?」
八村が問う間もなく車外に出る江藤
八村 「知事・・・」
江藤のあとを追う八村
警戒棒を振りかざし一頭追い払うのに手こずる八村
野犬に飛びかかられて仰向けに倒れる八村
八村の耳にキャンキャンやクウゥという野犬の弱った鳴き声が聞こえる
江藤の周囲から野犬が離れていく
多くの野犬が耳を垂れ道路の反対側へ退散していく
数頭は前足を片方あげたままであったり後足を引きずったりしている
八村の目の前にいた野犬がいなくなる
カンタローがしがみつく街路樹の太い枝に九の字に引っかかっている野犬
カンタローの眼前で野犬が街路樹の幹をずり落ちていく
周辺をうろつく野犬がいなくなり江藤らと対峙するカンタロー
何も言わずリュックを抱えその場から逃げだすカンタロー
江藤 「あれ? お礼のひとつも言わないなんて、今どきの若者ときたら・・・」
八村 「恐れをなして・・・(苦笑)」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA