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東京メサイア【初稿】

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#11.リュックサック



商店や古いビルが並ぶ生活道路を走るビースト(13:03)
不意にビーストの前方を速足で横切るカンタロー
カンタローの後を追いかける8頭余りの野犬
野犬に向かって何かを投げつける振りをするカンタロー
数頭の野犬はカンタローの偽投に反応するが多数はカンタローを追う
ビーストを道路脇に停める八村
街路樹にしがみついて野犬を追い払うカンタロー

◆    ◆    ◆    ◆    ◆
回想:東京神奈川県境の神奈川側(11:50)
検問通過を待つ車で長い車列ができている
車列の中ほどに慈恩が運転する軽トラックがある

慈恩 「(窓から顔を出して)進まねぇなぁ」
吐夢 「もう手配が?」
慈恩 「いや、そんなはずはない」

警察官とカンタローが問答しているところに助手席を降りて近づく慈恩
検問の警察官とカンタローのやり取りを見聞きする慈恩

警官A「東京23区はあと10分で封鎖される」
カンタロー「どうしても行かないといけないんです。お願いします」
警官A「あと10分で外出自粛要請が発効する。つまり誰も出歩くなということ。だから」
カンタロー「誰にも迷惑かけませんから」
警官A「だめだ、帰りたまえ」
カンタロー「そこをなんとか」

検問を済ませた車が橋に向かう

カンタロー「どうして車はよくて歩行者はだめなんですか」
警官A「ニュース聞いてないのか。入ったら明日まで戻って来られない。だから1台づつ確認して通している」

橋を渡る車とUターンさせられる車を横目に軽トラックの助手席に戻る慈恩
警官Bが慈恩に話しかける

警官B「急ぎの用事ですか。でなきゃ引き返してもらってます」
慈恩 「お巡りさん、ご苦労様です。こいつを至急届けなくちゃならないんです。届け先はすぐそこです」
警官B「なんですか、荷物は?」
慈恩 「観葉植物です。一応ナマものなんで」

少し思案して警官Aに合図を送る警官B
検問所の警官Aが車止めのブロックを脇に寄せる
軽トラックが橋へとゆっくり動きだす
警官Bに気づかれないように軽トラックの背後に回りこむカンタロー
検問を通過し長い橋を渡り始める軽トラック
軽トラックの幌の下に隠れるカンタロー
ぎちぎちに並んだ観葉植物の間に挟まって身の置き所がないカンタロー
反対車線は家族を乗せた乗用車や商用車で詰まっている
薄暗い荷台でリュックを背中から降ろすカンタロー
リュックを植木鉢の間に適当に置こうとするカンタロー
車の揺れでバランスを崩しロープに手をかけるカンタロー
ロープにテンションがかかりロープが簡単に切れる
植木鉢のかたまりが一斉に前後左右に移動する
アオリと呼ばれる荷台を囲む枠板に激しくぶつかる植木鉢
幌を支える金属の骨も大きくしなる
すれ違う車を避けながらハンドルを強く握る吐夢

吐夢 「ハンドルが・・・」

後輪に繋がるシャフトがたわむ
軽トラックが左右に蛇行する

慈恩 「あぶねえっ」

対向車の大型バンに接触しそうになる
車体が大きく傾き荷台から植木鉢がぶつかる音がする
小窓から荷台を見る慈恩
幌を突き破った観葉植物の大半が横倒しになっている
樹木を結わえていたロープが破れた幌とともになびいている
植木鉢がいくつか横倒しになり前後左右に転がる

吐夢 「兄貴、荷台の様子見てきましょうか」
慈恩 「いや、橋を渡りきる。ここで停めたら怪しまれる」

蛇行しながら反対車線に寄りかかる軽トラック
エンジン音を唸らせた高級外車と鉢合わせしそうになる軽トラック
衝突を避けるためハンドルを切る吐夢
シャフトが折れ制御を失う軽トラック
橋のコンクリート防護壁に衝突する軽トラック
防護壁の上端をガリガリと破壊して停まる軽トラック
助手席で割れたフロントガラスの破片を浴びている慈恩
顔をしかめ吐夢に命令する慈恩

慈恩 「吐夢、ブツを見てこい」

運転席のドアをこじ開ける吐夢
後方を確認すると荷台の観葉植物がすべて橋の下に落ちる勢いで傾いている
車体が傾いて運転席から地面まで高さがある
ぐちゃぐちゃになった荷台でリュックを探すカンタロー
黒いリュックを見つけるが引き揚げられない
両足を踏ん張り片手でリュックを浮かした瞬間に車体がさらに傾く
吐夢が運転席から飛び降りたタイミングである
傾斜した荷台を観葉植物が滑り、幌を突き破って橋の下に次々に落下する
カンタローが持ちあげかけたリュックもカンタローの手を離れる
荷台の端を両手で掴み落下を免れるカンタロー
荷物がなくなり平板になる軽トラックの荷台
荷台から降りるカンタロー
車から降りた吐夢と鉢合わせするカンタロー

吐夢 「てめえ、そこで何やってんだ?!」
カンタロー「すみません、検問で通してもらえなかったので」

返事もそこそこに吐夢の脇を素通りするカンタロー
損傷してない橋の壁にとりついて橋の下を見おろすカンタロー
河岸の葦の茂みに観葉植物の鉢が散乱している

カンタロー「ああ、僕のリュックが・・・」
吐夢 「リュック?」

橋の下を覗く吐夢
観葉植物に混じって黒いリュックが2つ確認できる
吐夢を横目に駆けだすカンタロー

吐夢 「待ちやがれ」
慈恩 「誰だ、あれ?」
吐夢「(カンタローを追いながら慈恩を振り返り)ブツが橋の下に」

土手をよたよたしながら下るカンタロー
吐夢もカンタローを追いながら土手を下る
葦の茂みを掻きわけ自分のリュックを見つけるカンタロー
中身を確かめ立ち去ろうとするカンタローを吐夢が呼び止める

吐夢 「待て、そのリュック」
カンタロー「これは、これは僕のです」

吐夢と距離をとってリュックの中身を取りだし吐夢に見せるカンタロー
リュックの中から取りだしたのはひまわりの形状をした銅製品
潰れた透明ケースの中でひまわりの花と茎が分離している
カンタローの背後から慈恩の手が伸びる

慈恩 「貸せ」

SORAと書かれたTシャツをリュックから出す慈恩
リュックの底を手触りで確かめる慈恩

慈恩 「ちっ」

と舌打ちしてリュックをカンタローに返す慈恩
慈恩と吐夢の表情を伺って後ずさりするカンタロー
納得いかない吐夢は

吐夢 「待ちやがれ」

カンタローを追いかけようとする吐夢を慈恩が制止する

慈恩 「吐夢、あれは違う」
吐夢 「でも」
慈恩 「俺たちのリュックは別にある。茂みを探せ」

葦の茂みを掻き分ける吐夢
真上に破損した防護壁見あげる吐夢
そんな様子を橋の下に住まう幾人かのホームレスがじっと見ている
茂みを探索するがなかなか見つけることができない吐夢
橋の下に目をやる慈恩
ホームレスの北風がリュックを股の間に挟んで座るところが見える
吐夢を呼び寄せると北風に声をかける慈恩

慈恩 「おい、おっさん。そのリュック」

聞こえない素振りの北風

慈恩 「俺たちのものだ。返してもらおう」

リュックからインゴッドを一枚取りだす北風

北風 「おや、これは」

仲間のホームレスが集まってくる

慈恩 「いいから、早く、こっちに投げろ」
北風 「(インゴッドをリュックに戻して)これは俺たちが拾ったものだ。だから・・・」

吐夢が慈恩に並びたちリュックを見る

北風 「まずは警察に届けて」
慈恩 「なことはいい」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA