東京メサイア【初稿】
愛子 「あたしね、借金があることも彼に隠してたのね。どうせ結婚したら彼の貯金から返すつもりで」
村定 「いやいやいやいや、それは詐欺」
愛子 「なんで? あたしが困ってるの、夫婦だったら助けてくれるの当たり前だよね」
村定 「(独白)クソ女・・・」
愛子 「なんか知らないけど借金があることもバレてさ。おまけに結婚式のキャンセル料もあたしに払えとか。もうわけわかんない」
村定 「キャンセル料いくら?」
愛子 「500万」
村定 「総額1100万」
愛子 「払えるわけないよね」
村定 「1100万くらいなら働いて稼げばなんとか」
愛子 「あたしいままで働いたことないし。働くなんて絶対無理」
村定 「働けよ」
愛子 「あぁ、せっかくいい男捕まえたのに、なんでこうなっちゃたんだろう」
村定 「(独白)自業自得」
愛子 「だからお金貸して、2億持ってるんでしょ」
村定 「またそれ(辟易)。もし仮に2億持ってたら死のうなんてしないでしょ。持ってないけど」
愛子 「もう最悪。もっと裕福な家庭に産まれたかった、もっと美人の家系に生まれたかった」
村定 「そりゃね、みんなそんな風に思うこともあるけどさ。思っても仕方ないこと。産んでくれたことに育ててくれたことに感謝しないと」
愛子 「産んでくれって頼んだ覚えないし、産んだのなら責任もって最後まで面倒見ろって話。ほんとバカな毒親のせいであたしの人生めちゃくちゃ」
うんざりしている愛子の顔を覗きこむ村定
村定 「思うんだけど、君ね。人生もう一度親の腹からやり直したほうがいいよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夏の終わりの青空とゆっくり流れる白い雲
教会の屋根に並んで座る愛子と村定
村定 「空が青くてきれいだね」
愛子 「きれいね」
村定 「雲が白いね」
愛子 「白いね」
村定 「街が静かだね」
愛子 「静かね」
村定 「決心ついた」
愛子 「うん」
村定 「本当?」
愛子 「リセットしたい。こんなクソみたいな人生」
村定 「じゃあ飛び降りるときに何て叫ぶか、決めようか」
愛子 「あたしはもう決まってる」
村定 「何?」
愛子 「もっと美人に生まれたかった! あんたは?」
村定 「僕? 僕は・・・もっとまともな社会に生まれたかった。かな」
屋根の上に立つ愛子と村定
前を向いたまま手を差しだす愛子
愛子の手を握る村定
村定 「それじゃあ行きますか」
頷く愛子
教会の屋根を下り走る村定と愛子
屋根の端で空中に高く飛びだす村定と愛子
村定 「おかあさーん」
愛子 「ばっきゃろー」
バルコニーに教会がある建物に近づくビースト(12:53)
教会の直下に歩道と車道を跨ぐようにエアマットが膨らんでいる
人の背丈以上の高さがあり横幅は20メートルある
外縁部がとくに圧がかかって膨らんでいる
ビーストを降りてエアマットに近寄る江藤と八村
建物にも周囲の道路にも人影はない
八村 「誰かいますか?」
江藤 「誰かそこにいるの?」
エアマットの壁に呼びかける江藤と八村
暫しの沈黙のあとエアマットの中心部からバンバンと表地を叩く音
そのあと男女の乾いた笑い声が聞こえてきて脱力する八村
八村 「やっぱり結婚式の演出だったようですね」
江藤 「心配して損したわ」
ビーストに乗りこむ前に再びエアマットの呼びかける江藤
江藤 「お幸せに」
エアマットの中央部で仰向けに寝転ぶ愛子と村定
泣きそうな笑顔の村定と愛子の目に映る真っ青な空と白い雲
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA