小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

東京メサイア【初稿】

INDEX|12ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

#10.教会の空



都民課フロア(12:39)
職員がひとりもおらず静まり返った都民課フロア
窓の下から複数の声がする
窓際に近づく江藤と八村
都庁玄関周辺に大勢の市民が集まっている
かまた音楽祭、高円寺まつり、浅草大道芸、芝公園フェスタ
行事を予定していた主催者、町内会、婦人会の人々がプラカードを掲げて陳情を行う

婦人A「中止だなんて困ります」
婦人B「予定通りイベントを開催させてください」
婦人C「せめて屋内行事だけでも」
婦人D「東京都の協賛を受けているんです」

建物に向かって口々に声をあげる自治会や婦人会の都民たち

婦人A「江藤知事、出てきてください」
婦人B「私たちと話し合って」

都庁舎の窓から眼下に集まった民衆を見つめる江藤

江藤 「申し訳ないわ。急な中止要請で」
八村 「仕方ありません。ことがことなだけに」
江藤 「皆さんに説明したほうがいいのかしら」
八村 「お気持ちはわかりますが、ここは沈黙を通してください。忍の一字で」

溜息をつく江藤

八村 「娘さんのことがご心配なんですね」
江藤 「(呟き)本当に真緒ったら・・・」
八村 「申し訳ありません。使えない警官を配置しまして」
江藤 「ううん、違うの。加恵さんに迷惑ばかりかけて。加恵さん、どれだけ真緒のこと・・・」
八村 「加恵さんは・・・」
江藤 「真緒が小さい頃からずっと真緒の世話を・・・」
八村 「真緒さんは私八村が必ず探しだします。警察の総力を結集させて。あ、いま警察はあのポンコツふたりしかいないのか・・・」
江藤 「八村、あたしが行きます」
八村 「知事が街に出られると?」
江藤 「そうよ。街の様子も見たいし」
八村 「しかし現在警視庁の護衛もいない状況です。危険です」
江藤 「危険かどうか見てみないとわからない」
八村 「副知事も外出には賛成されないかと」
江藤 「八村、あんたがいれば問題ない」
八村「お気持ちはわかりますが、知事。いま出られると、あの人たちに捕まってしまいます」 

シュプレヒコールをあげる群衆 

江藤 「和田さんは?」
八村 「和田副知事はもう出立されました。八王子の分庁舎から指揮を執るために」
江藤 「あ、そうか・・・」

腕組みする江藤
窓ガラスを震わせるほどの地鳴りがする
50台の大型バイクが都庁舎向かってくる
一部チョッパーを含んだハーレーダビッドソンの一団である
バイクの一団が陳情都民を取り囲む
慄いた陳情婦人が一団の頭目に向かって強がる

婦人C「何よ、あんたたち」

一団にリーダー宮城譲二がバイクのエンジンを切る
ヘルメットを取る宮城
潮焼けした長い髪が宮城の肩にかかり宮城の顔立ちが露わになる

江藤 「ジョージ・・・」

江藤の呟きを耳にして

八村 「お知り合い?」

と心の中で問う八村
宮城の合図でエンジンを切るバイカーたち
バイクに跨ったまま群衆に警告する宮城

宮城 「こんなところで何してる? 江藤知事が外出自粛だと言ってるだろ。さっさと家に帰るんだ」
婦人D「誰なんです、あんたたちは?」
宮城 「俺たちは、自警団だ」
婦人A「自警団? そんなの聞いたことないわ」
宮城 「村の消防団とかあるだろ。あれと同じだ。わかったらさっさと解散しろ」

宮城に何か問いかける婦人
婦人を無視してエンジンをかける
50台のバイクが一斉にエンジン音を鳴らす
群衆を取り囲む輪を狭めるハーレー集団
不満げな様子で都庁舎前を離れる陳情団
都庁舎の都民課フロアを見あげる宮城
窓の向こうには誰もいない
徐々に数を減らしていくハーレー集団
最後残った宮城が向きを変えヘルメットを被ろうとする
その時都庁舎の地下駐車場から黒く大きな車両が地上に現れる
アメリカ大統領専用車ビーストを真似た日本製のビーストである
降ろした助手席の窓から宮城に視線を送る江藤
江藤の視線に応えて笑みを浮かべる宮城
助手席の窓があがるとともに勢いよく走りだすビースト
ヘルメットの下に顔を隠す宮城


ビースト車中(12:50)
幹線道路を走行するビースト
ビースト以外幹線道路を走っている車はない

八村 「知事、ひとつ訊いてもいいですか」
江藤 「なに? ああ、さっきのバイクの?」
八村 「お知り合いですか」
江藤 「うん。高校の同級生。名前は宮城譲二」
八村 「付き合ってたんですか」
江藤 「付き合ったってわけじゃないけど。あたしの少ない友達の中で唯一親友といえる女友達がいてね、彼女が不良グループのひとりに惹かれちゃって。最初のデートの時、怖いから一緒に来てって」
八村 「親友のデートに付き合うとか」
江藤 「彼女のボディーガード?」
八村 「なんすか、その関係?」
江藤 「高校を出てから宮城譲二は名古屋でオートレースの世界に。あたしは東京で普通の女子大生になったから接点はなし。そうしてさ、それで終わるはずだった」
八村 「えぇ、はずだった、って、謎の過去形」

前方の建物の中層階バルコニーから2つの人影が落ちるのを目撃する江藤と八村
顔を見合わせる江藤と八村

江藤 「今の見た?」
八村 「はい、ビルから飛び降りましたね」

ビーストのアクセルを踏む八村
ビルが近づきバルコニーに建つ教会の十字架が見えてくる

八村 「教会?」
江藤 「でも確かに、ふたり飛び降りたよね」
八村 「結婚式場でしょうか。それならそういう演出なのかも」

◆    ◆    ◆    ◆    ◆
回想:教会(11:00)
教会の屋根に上で興奮が収まった愛子が村定と並んで座る

村定 「実は無実の罪で逮捕されて」
愛子 「無実の罪?」
村定 「裁判で有罪になった。執行猶予中」
愛子 「犯罪者じゃん」
村定 「会社の金に使いこみがあって、僕に罪が被せられた。業務上横領罪」
愛子 「おーりょーざい?」
村定 「刑事でも民事でも負けた。僕に2億円払えってさ。ほんと日本の裁判制度終わってるよ」
愛子 「2億?」
村定 「そう。総額2億円の損害を与えた罪。僕は何もやってないのに」
愛子 「へぇ。2億円持ってるんだ」
村定 「だから、会社の金、1円も盗ってないって」
愛子 「本当は隠し持ってるんでしょ。貸して」
村定 「だから、世間はそんな目で見てくるんだよ。もう耐えられなくて」
愛子 「それで死のうと?」
村定 「もうこの世の中に絶望したんだ。わかってくれた? だから僕がここにいることと君の結婚とは関係ない」
愛子 「いいえ、関係ある。あなたも世の中のクズな独身男のひとり。男は女性を幸せにしてなんぼでしょ。だからお金貸して」
村定 「話、聞いてた? 僕これから死のうとしてるんだよ」
愛子 「あたしだって切羽詰まってるの」
村定 「そういえばさっきから慰謝料だの、カネ貸せだの」
愛子 「借金で首がまわらないの」
村定 「借金くらい皆あるでしょう。で、いくら?」
愛子 「600万」
村定 「600万? 600万円かぁ」
愛子 「貸してくれるの?」
村定 「あのなぁ。無理に決まってるでしょ」

ふてくされる愛子

村定 「600万もの大金、何に使った?」
愛子 「婚活費用に親から借りた分とクレカとか街金で借りたものとか」
村定 「街金はヤバいな」
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA