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東京メサイア【初稿】

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#9.江藤真緒



真緒在住マンションの前(11:59)
道路脇に停めたシビックの車中で張り込みをする織場と招堤
招堤が茶封筒の上に開いた江藤真緒の資料に目を通しながら

招堤 「16歳ですからね。心配なんでしょう」
織場 「16歳にもなってなんで俺たちがJKの面倒見なきゃいけないんだ?」
招堤 「資料によると新宿渋谷で補導歴もあるみたいですよ」
織場 「そうなの? 知事の娘、そんなにやんちゃなのか?」
招堤 「両親の離婚を境に非行歴が増えてますね」
織場 「ということは娘さん、名前が何て言ったっけ」
招堤 「真緒ちゃん」
織場 「家庭がうまくいってないということか。それとも反抗期か」
招堤 「とくに母親との仲が険悪だと書かれています。それで住まいも知事公館でなく元の自宅マンションに分かれて」
織場 「母親との仲が悪いなら、父親にみてもらったらいいのに」
招堤 「それが父親っていうのが、珍しい職業で」
織場 「珍しい職業」
招堤 「現代音楽家」
織場 「なんだ、それ?」
招堤 「名前はルーベン・ウェストファリア。ちなみに日本国籍」
織場 「聞いたことないな。売れているのか」
招堤 「さあ。現代音楽自体がマイナーですから」
織場 「じゃ、そんなに儲からない職業か」
招堤 「離婚当時江藤沙耶、つまり母親は大学関係の職に就いていた。一方父親は収入が安定せず、そういう事情もあって母親のエトサヤが真緒さんの親権を得ています」
織場 「思うに真緒ちゃんは父親のことが好きだったんだろうな。父親も娘の前では弱い姿を見せなかった。できる範囲で精一杯の愛情を真緒ちゃんに注いだんだろう」
招堤 「あれ? 先輩、想像力豊かですね」
織場 「だから両親の離婚で父親から引き離されることは真緒ちゃんにとってすごくショックだった」
招堤 「父親は自由人みたいだし、真緒さんの養育は難しいと判断された」
織場 「離婚当時、真緒さんは小学生か。わからんだろうな、その辺の事情は」
招堤 「それで非行少女まがいなことを繰り返して」
織場 「エトサヤが知事になったから、娘さんの非行を監視するために警視庁が動くことになったのか」
招堤 「これ和田副知事の考えらしいです。知事に公務に専念してもらうために」
織場 「そのために毎日公安がこんな風に張り込みしているのか」
招堤 「いえ、普段は防犯カメラ映像の監視が主だそうです。ただ今回・・・」
織場 「警察業務が停止したか」
招堤 「公安は監視業務の一時中断を申し入れたそうですが、和田さんの強い要望があって」
織場 「確かに誰かが見守ってないのは不安だろうが、都民全員に外出禁止が出されている状況では真緒ちゃんも外に出ないだろう、簡単には」
招堤 「外出禁止じゃなく強制力のない外出自粛ですからね。わからないですよ」
×    ×    ×    ×    ×
助手席でリクライニングを倒して目をつぶっている織場
マンションの駐車場ゲートからラパンが出てくる
体勢を低くする招堤
ラパンを運転する女性をオペラグラスで観察する招堤
ラパンがマンションの前から公道に出て走り去る
加恵の容姿と資料を見比べる招堤
織場に声をかける招堤

招堤 「真緒さん家の家政婦さんが出ていったみたいです」

座席を起こしマンションのほうを見る織場
中型バイクがエンジン音とともにマンションに近づき停まる
マンションの側面からラメ素材のミニショルダーバッグを肩に掛けた真緒が現れる

招堤 「あれは・・・」

弾むように中型バイクの後部に跨り運転者の腰に抱きつく真緒
真緒を乗せた大型バイクが走りだす

織場 「マルタイだよな」
招堤 「はい、江藤真緒です」

エンジンをかけバイクの後を追うべくシビックを駆る招堤

織場 「大丈夫か、真緒ちゃん」
招堤 「?」
織場 「ノーヘルだった」
招堤 「心配するの、そこっすか?」

エンジン音を響かせる中型バイクが加速をつけて遠ざかる
バイクの後を追うシビック
細い路地を猛スピードで走るバイク
植木鉢や花壇など障害物の多い路地を低速で追うシビック
やがて広い道路に出るシビックだが前後左右の道路上にバイクの姿はない
悔しがってハンドルを叩く招堤


都内一般道(12:03)
まばらな通行量の交差点に差しかかるラパン
交差点の信号機がすべて消えていることを見て気づく加恵

加恵 「あら大変、冷蔵庫も使えないわ」

ラパンをUターンさせマンションに戻る加恵
マンションの真緒宅のドアを開く加恵

加恵 「真緒さま、いらっしゃいますか」

リビングのカウチに真緒の姿はない
冷蔵庫の扉を開けると案の定停電状態で庫内は暗い

加恵 「真緒さん」

真緒の部屋をノックし部屋の中を見回す加恵

加恵 「真緒さん」

風呂やトイレを探すが真緒の姿はない


都庁舎(12:25)
都庁舎前に加恵のラパン
玄関ホールの隅で江藤に頭を下げる加恵

加恵 「すみません。私が真緒さんのお傍に居るべきでした」
江藤 「あたしからも真緒に直接電話で言ったのよ。きょうはとくに絶対外に出てはダメって。ほんとあの娘ったら・・・」
加恵 「私、いまから探しにいきます」
江藤 「いいのよ、加恵さん。真緒が勝手に出ていったの」
加恵 「でも・・・」
江藤 「放っておきましょう」

足元が落ち着かない加恵
八村が加恵と江藤に近づく

八村 「実は、加恵さん。こういうこともあるだろうと、警官2名を配置しています」
加恵 「え? そうなんですか」
江藤 「そんなことしなくてもいいって言ったのにね、和田さんに」
八村 「おそらく、真緒さんの行先もわかっているでしょう。だから加恵さん、気を楽に・・・」

くたびれたシビックが都庁舎前に停まる
織場と招堤が降りてくる
歩み寄るふたりの姿を見て不吉なものを感じる八村

江藤 「どちら様?」
織場 「警視庁刑事二課、織場と」
招堤 「招堤です」

毅然と答える織場と申し訳なさそうに小声の招堤

織場 「これは江藤知事、お久しぶりです」
八村 「そんなことはいいから、君たち、なんでここにいるの?」
織場 「はい我々2名は、本部長から直々にマルタイの監視及び警護の任を拝命し・・・」
八村 「真緒さんね。マルタイって言うな」
織場 「命令に従って監視業務を遂行しておったところ、マルタイが若い男とバイクで逃走。追尾しましたが路地に逃げこまれ、追尾を断念。マルタイを泳がせて様子を見ることにいたしました」
招堤 「すみません。単純に見失いました」

薄笑いを浮かべる織場

八村 「役立たず」
江藤 「真緒は本当に・・・(憤慨する)。皆さんにご迷惑ばかりかけて・・・」

気が抜けたようにその場にへたりこむ加恵

作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA