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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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夢幻空花なる思索の螺旋階段

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漆黒の闇の何処とも知れぬ処から斯様な嘲笑が漏れ出たのであつた。
さうなのである。私はずつと外界の漆黒の闇に侮蔑されてゐたのであつた。
私は不意に一歩前へ踏み出ようとしたが、其処に足場は無く、直ぐ様私は足を引つこめざるを得なかつた。
――もしや、此処は……深淵の《浮島》なのか……嗚呼……《吾》斯く在りか……。


表白


それは不意を突く地震であつた。一歩踏みださうと右足を上げた途端、あれつと思ひも掛けず左足が何かに掬われたかと思ふと、私は途端にBalanceを崩し不格好に右足を咄嗟に地に着け踏んばるしかなかつたのである。
――ゆさゆさ、ぐらぐら。
辺りは暫く地震の為すがままに揺す振られ続けてゐたが、私は己の無様さに
――ぷふいつ。
と嘲笑交じりの哄笑を思はず上げてしまつたのである。
――何たる様か! 
暫くするとその地震も治まり辺りはしい~んと夕闇と共に静寂(しじま)の中に没したのであつた。
其処は私の普段の逍遥の道筋で或る信仰を集めてゐた巌の前であつた。ぐらぐらとその巌も私と共に揺す振られたのである。地震の瞬間は鳥達が一斉に木々から飛び立つたがその喧噪も嘘のやうに今は静かであつた。
――ぷぷぷぷぷふぃ。
何かがその刹那に咳(しはぷ)くやうに哄笑を上げた。
――ぷぷぷぷぷふぃ。
私は怪訝に思ひながらも眼前にどつしりと地に鎮座するその苔の生えたごつごつとしかし多少丸みを帯びた巌を凝視したのであつた。
――ぷぷぷぷぷふぃ。
間違ひない。眼前の巌が哄笑してゐたのであつた。
――ぷぷぷぷぷふぃ。《吾》揺す振られし。ぷぷぷぷふい。
どうやらその巌は自身が揺れた事にうれしさの余り哄笑してゐるらしかつた。
――何がそんなにうれしいのか? 
と、私は胸奥でその巌に向つて呟くと
――《吾》、《吾》の《存在》を実感す。
と私の胸奥で呟く者がゐた。
――何! 《存在》だと! 
――さう。《存在》だ。《吾》、《吾》から食み出しし。ぷぷぷぷぷふい。
――《吾》から食み出す? 
――さう。何千年もじつと不動のままに一所に居続ける馬鹿らしさをお前は解らないのだ。《吾》には既に《希望》は無し。《風化》といふ《吾》の《滅亡》を堪える馬鹿らしさをお前は解らぬ。
――はつはつはつ。《吾》の《存在》だと! お前に《存在》の何が解るのだ! 
――解らぬか。巌として此の世に《存在》させられた懊悩を! 《吾》風化し《滅亡》した後、土塊に《変容》した《吾》の《屍》から、ぷふい、《何》か《生物》、ぷふい、自在に《動ける》《生物》が誕生せし哀しみをお前は未来永劫解る筈がない。この高々百年の《生き物》めが! 
辺りは今も深い深い静寂に包まれてゐた。
――何千年、何億年《存在》し続ける懊悩! 嗚呼、《吾》もまた《何か》に即座に《変容》したく候。此の世は《諸行無常》ではないのか? 《吾》もまた《吾》以外の何かに変容したく候。
――ぶはつはつはつは。《吾》以外の何かだと! 馬鹿が! 《吾》知らずもの《吾》以外に《変容》したところで、またその底無しの懊悩が待つてるだけさ。汝自身を知れ。
――嗚呼、《吾》また底無しの自問自答の懊悩に飛び込む。嗚呼……。
辺りは闇の中に没してそれこそ底無しの静寂の中に抛り出されてしまつた……。


奴隷

物心ついた時にはまだ電化製品が物珍しかつたが、何時の頃かは解らぬが、今では電化製品に埋もれた生活を送るやうになつてしまつたことに、私は、常々胸の痛む悲哀を電化製品に感じながら生活してゐる。それでも、私が所有する電化製品は必要最小限度で、なるべくなら所持しないやうに気を使つて生活してゐるのである。それといふのも電化製品は切ないのである。何故と言つて『人間に《もの》を奴隷として使用する権利があるのか』といふ疑問が何時も私の頭の片隅を過るのである。
――さて、人間とはそれ程に特別な生き物なのか。
電化製品もまだ分解可能な程度の時代であればその《もの》に愛着といふものが湧いたのであるが、今の電化製品は最早分解不可能で愛着なるものが微塵も湧かないのである。これは困つたことで、私は《もの》を消耗品としてはどうしても看做せないので、それ故電化製品は私にとつて切ないのである。それでも私は大の音楽好きなので音響機器に関しては愛おしい愛着を持つて接してはゐるが、しかし、それも故障してしまへばもうお仕舞ひである。修理するよりも新品を買つた方が、結局のところ経済的なのである。私は何時も電化製品が故障してお釈迦になつてしまつた時は心苦しくもそれを廃棄するのである。これは物凄く切ない行為でどうにかならないかと途方に暮れるが今のところどうにもならないので残念至極である。映像に関しては故、タルコフスキー監督の映画等特別なものを除くと殆ど興味がないのでTelevisionは埃を被つて抛つたまま使はず仕舞ひである。
そもそも、この私の電化製品等、《もの》に対するこの名状し難い感覚は何処から来るのかといへば、それは《脳》無き《もの》はそもそもから人間がその特性を見出し奴隷として使ふことに何の躊躇ひがないことに対する抵抗感にある。現状では電化製品を始めとする多くの《もの》が人間の奴隷である。
私の嗜好は手先の延長上の《もの》、例へば手製の道具類等には愛着が湧くが、それ以外は切ないばかりなのである。
嘗ては馬や牛など《脳》あり《意思》ある生き物を何とか馴致し協働で生業を営んでゐたが今は電子機器等の《もの》といふ奴隷が取つて代わつたので、それが私に嫌悪感を湧き起こすのである。《もの》にもまた《意思》はある筈である。
――何故、《吾》こ奴の為されるがままに作られ機能しなければならぬ? 
等と《もの》が呻いてゐるのが聞こえるやうで、電化製品に埋もれた生活は気色悪いのである。
――何故、人間なる生き物は《吾》にある特性があるのを見出しそれを良いことに《吾》を下僕以下の扱ひをする? 人間も《吾》も同じ《存在物》ではないのか? ぬぬぬ! 人間は何様のつもりなのか! ぬぬぬぬぬ! 
…………
――何故、人間は《便利》といふ《現実逃避》を喜ぶのだ? 《存在》する事とはそれ自体が《不自由》で《不便》な事ではないのか? 
…………
――人間め! 貴様達も此の世の下僕ではないか! ソクラテスのデルフォイの神託ではないが、人間どもよ、汝自身を知れ! 貴様らが《吾》を奴隷として扱ふ《存在》でないことを知れ! ぬぬぬぬぬ! 
…………
――何故、《吾》此処にゐなければならぬ? 何故、《吾》こんな形を強ひられなければならぬ? ぬぬぬぬぬ! 


揺れる

――もしや、地震? 
と私は眠りから覚醒した刹那、頭蓋内でさう呟いた。自身が顫動してゐる私を私は覚醒と同時に認識したのである。しかしながらちよこつと開けた瞼の裂け目から覗く外界はぴくりとも揺れてゐる様子は無く、間違いなく自身が顫動してゐると感じてゐる私の感覚は錯覚に違ひなかつたのである。
――これが……錯覚?