小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

夢幻空花なる思索の螺旋階段

INDEX|25ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

一人の超人間を創造することに関しての
あらゆる全てのもの。

銃眼のそこで
こがらすが囀り鋭い声を発してゐる
そして小枝を一本づづ落とし積み重ねる。
巣が積み上がつた時、
母鳥は
天辺の窪みに休み
そして野性味あふれるその巣を温める。

吾は信念と誇りを
山腹を登る
実直な若者に残す、
弾け出る朝陽の下、
彼らは蚊鉤を投げ落とす;
同じ材料で作られた存在
座りがちなこの生業によつて
それが壊されるまで。
今こそ吾は吾の魂を創ろう、
学ばされる学校で
無理矢理魂を勉強させながら
肉体の破滅まで、
ゆつくりと血液は腐敗し、
気が短い譫妄状態
或ひは鈍い老衰、
或ひは最悪のことが来る事――
友人達の死、或ひは
あらゆる輝ける眼差しの死
それは息を飲まさせる――
空の雲としか思へず
地平線が消え行く時;
或ひは或る鳥の眠たさうな囀り
深まり行く影の影の中。


陰翳――断章 弐

――ほらほら、無といふ文字や零といふ記号で封印されたものたちが、蛇が外界の状況を把握する為にちよろちよろと舌を出すやうに己の場所から逃げ出さうとしてゐるのが見えないかい? 
――ふつ、それで?
――奴等もまた己が己であることに憤怒してゐる《存在》の虜囚さ。身の程知らずつたらありやしない……へつ。
――さういふお主もまた自同律の不快が持ち切れずに己を持て余して《他》に八つ当たりしてゐるじやないかい?
――へつへつへつ。さういふお主もつんと澄ました顔をしてゐるが、へつへつへつ、自同律の不快が持ち切れずに《他》に八つ当たりしてゐるじやないかい?
――はつはつはつ。馬鹿が……。あつしは己の翳の深さを思ひあぐねて七転八倒してゐるだけさ。
――ふむ。お主はProgramerなら誰でも知つているハノイの塔を知つているかね?
――それで?
――そのハノイの塔の翳は、さて、その中心部が最も濃いと思ふかい?
――ふむ。多分さうだらう。それで?
――お主は翳の深さがあの厄介者の《存在》と紐帯で結び付いてゐるとしたならどう思ふ?
――さうさねえ……、……翳もまた翳で己から逃げ出したい《存在》の虜囚じやないか、へつ。
――ふつ、さて、そこで己の己からの遁走が可能として、その己は何になる?
――へつ、それは愚門だぜ、己は《他》になるに決まつてらあ!
――ふつ、それで、己が《他》に変化できたとしてその《他》もまた己といふ《存在》の虜囚じやないのかい?
――へつ、大馬鹿者が! 己は《他》に変化できたその刹那の悦楽を存分に喰らひたいだけなのさ。その《虚しさ》といふ快楽が一度でも味はへれば馬鹿な《己》はそれで満足するのさ。
――へつ、それが生きるための馬の眼前にぶら下げられた人参といふ事かね。阿呆らし。
――さう、人生なんぞ阿呆らしくなくて何とする?
――ははん。他人の家の庭はよく見えるか、様あないぜ、ちぇつ。


凝結

無地の白紙の半紙に例へば下手糞だが墨と筆で「諸行無常」と書くとその場の時空間が墨色の「諸行無常」といふ字を核として一瞬にして凝結して行くのが感じられて仕方が無いのである。それは何やら空気中の水分が凝集して出来る雪の綺麗な六花晶を顕微鏡で見るやうであり、高々半紙といふ紙切れに墨書されたに過ぎない「諸行無常」といふ字が時空間を凝結させて私に対峙するが如くに不思議な存在感を醸し出し始めるのである。それを言霊と呼んで良いのかは解からないが、しかし、「諸行無常」と墨書される以前と以降では私の眼前の時空間は雲泥の差で、それは最早別の時空間と言つても良い程に不思議な異空間が出現するのである。
――Fractal(フラクタル)な時空間……。
彼方此方が「諸行無常」に蔽ひ尽くされてゐる……。かうなると最早私には如何ともし難く只管に墨書された「諸行無常」といふ字と対峙する《無心》の時間がゆるりと移ろひ始めるのである。そして、私の存在が墨書された字に飲み込まれて行く心地良さ……。私の頭蓋内の漆黒の闇黒には鬱勃と想念やら表象やらが現れては消えるといふその生滅を只管に繰り返し、私はそれに溺れるのである。
――揺られる、揺られる……。《吾》といふ存在が「諸行無常」といふ墨書に揺す振られる……。何といふ心地良さよ。嗚呼、《吾》が《吾》から食み出して行く……。
不意に私は別の真新しく真つ白な半紙を眼前に敷き、徐に「森羅万象」と息を止めて一気に墨書する。今度は時空間は「森羅万象」といふ墨書を核として一瞬に凝結する……。再び惑溺の始まりだ。
――溺れる、溺れる、《吾》はこの「森羅万象」といふ時空間に飲み込まれ溺れる……。
眼前の「森羅万象」と墨書された半紙は微塵も動かず、只管に「森羅万象」であることに泰然としてゐやがる。
――ふつ、《吾》この宇宙全体を《吾》として支へる《吾》に陶酔してゐるのかもしれない……。この「森羅万象」といふFractalな時空間は宇宙を唯「森羅万象」に凝結してしまひ、そして、彼方此方で時空間が言霊となつて囁くのだ。《此の世は即ち『森羅万象』》と。それにしてもこの肉筆の文字と墨の持つ凄まじき力は何なのか? 嗚呼、《吾》お……ぼ……れ……る…………。

春の海終日のたりのたり哉           蕪村


深淵 壱


其処は漆黒の闇に永劫に蔽はれた場所であつた。暫くの間、私は全く動かずに何年も何年も其の場の同じ位置で顔を腕の中に埋めながら蹲り続けてゐる外ない程に心身ともに疲弊しきつてゐたので、外界が永劫に漆黒の闇に蔽はれてゐた事は長きに亙つて解らぬままであつたのである。
私は腕に顔を埋めたまま絶えず
――《吾》とはそもそも何か? 
と自問自答する無為の日々を送つてゐたのであつた。そんな私にとつて外界は無用の長物以外の何物でもなかつたのである。そんな底なしの自問自答の中、不意に私の影がゆらりと動き私から逃げ出す素振りを見せた気配がしたので、私は、不意に頭を擡げ外界を眺めたら其処が漆黒の闇に蔽はれ何も見えない場所であつたのを初めて知つたのであつた。勿論、私の影は外界の漆黒の闇の中に融解してゐて、何処にあるのか解らなかつたのは言ふまでもない。
――此処は何処だ! 
さうなのである。私は闇の中の闇の物体でしかなかつたのである。つまりは《吾》闇なり。
――闇の《吾》とはそもそも何か? 
それ以降斯くの如き自問自答の無間地獄が始まつたのであつた。何処も彼処も闇また闇であつた。
しかし、闇とは厄介なもので私の内部で何か動きがあるとそれに呼応して何やら外界の闇は異様な気配を纏つて私の内部の異形の《吾》となつてすうつと浮かび上がつた気配を私は感じるのであつたが、眼前には漆黒の闇が拡がるばかりであつた。
――誰か《吾》の前に現れたか? 
その問ひに答えへるものは何もゐなかつたのは言ふまでもない。在るのは漆黒の闇ばかりであつた。まさにそれは暖簾に腕押しでしかなかつたのである。
――へつ、馬鹿が。お前の内部を覗いたつて何もないのは初めから解り切つた事ではないか。へつ、《吾》を知りたければ外界を穴が開くほど凝視するんだな! 馬鹿が!