小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

夢幻空花なる思索の螺旋階段

INDEX|15ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

すると、人類は食料確保の為に《人間狩り》を始め《共食い地獄》に堕ちる筈である。武田泰淳の「ひかりごけ」や大岡昇平の「野火」の地獄を見るに違ひないのである。今のままでは必ず人類は《共食い地獄》に堕ちるしかない――。
さて、《宿命次元》若しくは《運命次元》が重力と深い関係にあると仮定するならば地肌をAsphaltやConcreteで蔽つた都市世界は、もしかすると《宿命次元》若しくは《運命次元》の《力》がAsphaltやConcreteでぶつた切られて羸弱してゐるに違ひないのである。
――さあ、剥がせ! 剥がせ! AsphaltもConcreteも剥がすのだ! でなければ……人類は地獄行きだ! さあ、地の上に直に立たう! でなければ人類は死滅するのみ!


梵鐘

東の窓を不図見上げると秋の十三夜月の仄かに黄色を帯びた柔らかな白色の月光を放つ月が見えたので、その月明かりに誘はれるまま漫ろ歩きに出掛けたのであつた。
これは空耳なのか何処とも知れぬ何処かから「四智梵語」だと思ふがその神秘的で荘厳な声明(しやうみやう)が、始終、聴こえて来るのであつた。
その声明に誘(いざな)はれるままに私の歩は嘗ては門前町として栄えたであらうが今はその面影は全く無く十数か所の寺寺だけが残るとある場所を気が付くと歩いてゐたのであつた。
――『祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。』(平家物語冒頭より)
と、私は無意識に呟いてゐたのであつた。
と、不意に
――ぐわぁ~~ん……わぅ~~ん………うぉ~~ん…………
と何処の寺から美しく余韻を残す梵鐘が聴こえて来たのであつた。
梵鐘の形は《宇宙の歴史》を形象したやうに思へてならないである。《無》からBig Bang(ビつグバン)の大爆発が発生してこの宇宙に膨張・成長されたと考へられてゐるが、梵鐘の天辺に付いてゐる宝珠と竜頭が原始宇宙を表はし、釣鐘本体は今に至る宇宙の歴史を具現化したものに思へるのである。そして、梵鐘の乳の間、池の間、そして草の間は宇宙の歴史で起こつた三度の相転移を見事に表はしてゐて感心一入(ひとしお)である。そして、梵鐘下部の下帯(かたい)は現在の宇宙でその下の駒の爪が宇宙の涯を表はしてゐるのであるとすると、誠に見事といふ外ない。
梵鐘、即ち、《宇宙》である。
――ぐわぁ~~ん……わぅ~~ん………うぉ~~ん…………
この清澄な余韻ある美しき響きは音波たる《波》、即ち、物理学の「拾次元超ひも理論」若しくは「拾壱次元超重力理論」若しくは「余剰次元の宇宙論」等等の具現化に思へなくもないが、さて、物理数学はこの宇宙を将来「説明」出来るのか……。
…………
…………
月光の下の墓場は神聖な美しさと此の世を映す《猥雑さ》に満ちてゐる。私は墓場が大好きで昼夜問はず己を律するときには必ず墓場を訪れるが――その所為で頻繁に私には《霊》が憑依し《霊》が去るまで《重たい》身体を引き摺るやうに過ごしながら、そして、大概《霊》は毎晩《夢》で私と何やら問答をし、納得してかその問答に飽きてかは解らぬが一週間程して私の右足の皮膚を破つて出て行くのである。勿論、私の右足には《霊》が破いた皮膚に傷が残される事になるのであるが――、その時も寺寺の境内の墓場に歩を進め巡り歩いたのは勿論の事である。墓場は大概綺麗に清掃されてゐるが、しかし、《生者》に《見捨てられた》墓所の前に来ると墓碑若しくは墓石が何やら《泣いてゐる》やうに感じられ、よくよく見ると何十年にも亙つてその墓を親類縁者の誰一人も参りに来てゐないのがその墓所の《姿》から察しがつくのである。私はさういつた墓には合掌し鄭重に一礼するのを常としてゐるのであつた。
さて、とある寺に着くとその寺の本堂の扉は全て開かれて内部は三本の和蝋燭の燈明の灯りのみで宵の闇に照らし出されてあつたのである。私は本堂の入り口に来ると
――すみません。失礼します。
と、大声で声を掛けたが何時まで経つてもその静寂は破られることは無かつたのであつた。
――お邪魔します。
と言つて私は本堂に上がり御燈の前に正座したのであつた。前方にはこの寺の本尊なのかもしれない然程(さほど)大きくも無く朴訥と彫られた古びた阿弥陀仏が鎮座なさつてをられたのである。
――自在……
これは仏像を見ると必ず私が胸奥で呟く一言である。暫くその阿弥陀仏に見入つてゐると不意に声明(しやうみやう)と共に誰かの声が聞こえたのであつた。
――未だ具足なれざる者、《吾》は《自在》か。
――《自在》です。
――此の場で朽ち果てるのみでもか。
すると一陣の風が本堂の中を通り過ぎ和蝋燭の炎がゆらりと揺れたのであつた。当然、阿弥陀仏もゆらりと揺れたやうに見えたのであつた。
――あなた様は絶えず《動いて》らつしやるではありませんか。今もさうです。ゆらりと動きなさいました。
――はつは。お前の《錯覚》じや。何故《吾》《自在》なるか。
――《内的自由》。あなた様は《自由自在》、《変幻自在》です。あなた様の《内的自由》は《無限》だからです。
――小賢しい。《吾》不自由故に《自在》なり。《無限》是《無》乃至《空》なり。色即是空、空即是色なり。
――ぐわぁ~~ん……わぅ~~ん………うぉ~~ん…………
と何処で再び梵鐘が鳴り響き、そして、何時までも声明(しやうみやう)は消えることは無かつたのであつた。


機織(はたおり)

私の幼少時に他界した父方の祖母の思ひ出と言へば紬(つむぎ)の機織である。繭を重曹を加へた湯に浸したところから始める糸つむぎ、そして絣(かすり)くくりされ職人によつて丹精に染められた糸をゐざり機で一心不乱に織る祖母の姿が私の瞼に鮮明に焼き付いてゐる。
糸つむぎ――祖母の自在に糸をつむぐ手は子供の私からすると『魔法の手』であつた――は、盥一杯の繭から作られた真綿の山に『渦』を作り細く捻つた『螺旋』状の『四次元』の細い糸を人力で作る作業である。この作業は女性に限られてゐた。女性の唾液が糸つむぎには一番であつたのである。
そして機織である。経糸(たていと)――英語で言へば話題のwarp――は上糸640本、下糸640本の計1280本の『四次元』の糸を整経し緯(よこ)糸(いと)を杼(ひ)を使つて一本一本ゐざり機を足で自在に操り紬を織つて行く。これまた祖母は『魔法使い』であつた……。
…………
…………
さて、機織は『宇宙創成』の御業である。更に言へば日本の和服、それも特に女性の絹織物全ては世界でも屈指の『宇宙創成』の結果生まれた傑作品である。それは何故かと言へば『螺旋』状の『四次元』の何本もの糸で織り上げられた着物はそれ自体『X次元』の『宇宙』で、そして着物には『柄』として『森羅万象』が織り上げられ、または染め上げられてをり、光をここでBulk(物理学での高次元空間全体のこと)を自由に動けるBulk粒子と見立てれば最先端の理論物理学が言ふ宇宙論が着物にぴたりと当て嵌まつてしまふのである。
和服を見事に着こなした女性が都会の雑踏の中に一人現はれただけでそこの雰囲気は一変する……。