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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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夢幻空花なる思索の螺旋階段

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――Fractal(フラクタル)的に考へると……この私が存在してしまつてゐるこの宇宙自体が巨大な巨大な巨大な巨大なBlack holeと考へられなくもないではないか……
――ふつ、面白い……
――するとだ……宇宙外にはこの宇宙を中心とする巨大な巨大な巨大な巨大な銀河が形作られてゐるのかもしれない……
――するとだ……この宇宙をBlack hole型宇宙だと仮定すると……この宇宙を閉ぢ込め包み込む更に巨大な巨大な巨大な巨大なBlack hole型の宇宙が存在し、それが無限に続いてゐるとすると……
――ふつ。鏡面界を皮と見立てると……此の世といふものは巨大な巨大な巨大な巨大な……鏡で出来た無限の『玉葱宇宙』といふことか……。
――また……『無限』といふ名の陥穽に落ちてしまつたぞ……。
と、不意にイーノの「鏡面界」が終はつたのであつた。


川の中の柳の木

――今年も芽吹いたか……
その柳を見た時からもう既に数年経つが未だ健在である。何年川の水に浸かつてゐるのだらうか。その柳の木を最初に目にした時には既に川の中であつた。川に洗はれ剥き出しになつた根根には空き缶やらPolyethylene-Bucket(ポリバケつ)やらVinyl(ビニール)やら塵が沢山纏はり付いてゐてたので何年にも亙り川の中に在り続けてゐたといふことは想像に難くない。
しかし、その柳は凛としてゐた。
多分、完全に水に没してゐる部分は腐つてゐる筈で、如何様にその柳が完全に水の中に横倒しで生き続けてゐるか摩訶不思議でならないが、その生命力の凄まじさは何時見ても驚きであつた。
――何がお前をさう生きさせてゐるのか……
それにしても自然は残酷である。梅雨時の大雨か台風の豪雨かは解らぬがその柳が立つてゐた痕が岸辺には今もくつきりと残されてゐた。多分、二本並んで柳は岸に立つてゐた筈で、その片割れは今も岸にしつかりと根を張り泰然と生きてゐるが、其処から数メートル離れた岸には濁流がざつくりと抉り取つた痕が残つてをり、多分、川の中に横倒しで生きてゐるあの柳の木は元元其処に悠然と立つてゐたに違ひない。
――どばつ、どぼつ、どどどどど――
しかしながら濁流は見れば見るほどその凄まじさに引き込まれさうになる不思議な魔力を持つてゐる。
私は台風一過等で起こる川の凄まじき濁流を見るのが好きであつた。橋すらゆつさゆつさと揺さぶるほどの強力(がうりき)、この魅力は堪らない。目が濁流の凄まじき流れに慣れると何だか物凄くSlow motionで川が流れてゐるのではないかといふ錯覚が起こる。そこで不意に川に飛び込みたくなる衝動が私に生じ、『あつ』と思つて吾に返るのである。その繰り返しが私は多分堪らなく好きなのだらう。濁流に魅せられたらもう其処から少なくとも一時間は動けなくなる。
――あつ、渦が生じた……。木つ端が渦に飲み込まれた……。あつ、大木だ。あつと、大木すら渦が飲み込んだ……。どばん! 大木がConcreteの橋脚に激突した……
……………
……………
それにしてもあの川の中の柳の木はよくあそこで踏み堪えたものだとつくづく思ふ。凄まじき濁流に投げ出されたならば最早流されるだけ流されるしかない筈なのだが、あの柳の木はあそこで止まつたのだ。さうして何年も芽吹き生き続けてゐる。これまた凄まじき生命力である。水に浸かつた部分は多分もう腐乱してゐる筈である。それでも尚、あの柳の木は川底に多分根を張つてゐるに違ひない。これまた凄まじきことよ……
――お前は何故吾を、この水の中の柳を哀れむのか
――否、感嘆してゐるのさ
――何を?
――だから……あなたの生命力の凄さを……
――ふつ、馬鹿が
――何故?
――『自然』なことの何を感嘆するのか、はつ。
――すると、あなたは『自然』を『自然に』受け入れてゐるのですか?
――受け入れるも受け入れないもない! 此処が吾の生きられるこの世で唯一の場所だから……受け入れるも受け入れないもない!
――すると、
――黙れ! お前に問ふ! お前が此の世で唯一生きられる場所は何処だ?
――……
――去れ! 此処はお前のゐる場所ではない! はつ。


或る赤松の木

その赤松は古城の堡塁址の北側といふその堡塁址で一番棲息環境が悪い一角に半径五メートルの砂地に芝が植ゑられてゐる円の中心に堂々と立つてゐた。多分その赤松には何かの謂れがあるに違ひないが詳細は不明である。しかし、その赤松はこの地区の人々に何百年にも亙つて大切に守られてきたことはその赤松の姿形の何れからも一目瞭然であつた。
私は何時もその堡塁址を訪れる時は南方より楢や山(ぶ)毛欅(な)や檜などが生えてゐる有様を武満徹の音楽に重ねながらゆつくりと歩くのが好きであつた。それらはまたあの赤松の防風林になつてゐるのも一目瞭然で、しかし、それにしてもその古城の堡塁址の林は人の手がよく行き届いた林であつた。
ところが、赤松が立つてゐる場所近くになると武満徹の音楽はぷつんと終はつて突然笙の音色が聴こえて来るかのやうに辺りの雰囲気は一変するのである。        
赤松が生えてゐる場所は雅楽が似合ふある種異様な場所であつた。
林が突然途切れるとあの赤松がその威容を誇るかのやうに堂々と立つてゐるのが見える。
赤松の幹の赤褐色が先づ面妖な「気」を放つのである。赤松の幹の色は嘗て此処に威風堂々と構へてゐた城が焼け落ちたその炎の色を髣髴とさせるのだ。
  芭蕉を捩つて本歌取りをしてみると
  赤松や 兵どもが 夢の跡
といふ句がぴつたりと来るのである。
私はその赤松に対するときある種の儀式として、先づ此の世が四次元以上の時空間で成り立つてゐることと上昇気流の回転を意識しながらその赤松の周りを反時計回りにゆつくりと一周してから赤松に一礼して赤松に進み出でるのである。そして、左手でその赤松の幹を撫で擦りながら『今日は』と挨拶をするのである。そこで赤松を見上げその見事な枝振りに感嘆し、この赤松もまた螺旋を描いてゐるのを確認して芝に胡坐をかいて坐すのが何時もの慣はしであつた。
…………………
…………………
――雅楽の『越天楽』が何処からか聴こえて来る……
不意に日輪を雲が横切る……
――突然、夢幻能『芭蕉』が始まる……
――今は……何時か……此処は……何処か……全ては夢幻か……


特異点……幻影……若しくは合はせ鏡

例へば、数学的に関数1/xは x = 0 で±∞に発散し、定義されないので、このとき x = 0 は特異点であるといふ。
さて、此の世の時空間に物理学上の特異点は存在しないのかと問はれれば、即、Black holeに存在するが『事象の地平面』で覆はれてゐるため一般的な物理法則の、例へば因果律などでは全く問題ないと教科書的には即答出来るが、しかし、ここで特異点なるものを夢想すると何やら面妖なる『存在』の、若しくは『物自体』の影絵の影絵のその尻尾が捉まへられさうでもある。
先づ、±∞から単純に連想されるものに合はせ鏡がある。
二枚の鏡を鏡に映す事で恰も無限に鏡が鏡の中に映つてゐるが如き幻影に囚はれるが、それは間違ひである。鏡の反射率と光の散乱から鏡の中の鏡は無限には映らないのは常識である。