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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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審問官第二章「杳体」

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――つまり、あの日は、つまり、不思議な、つまり、夢を見た日だったが、つまり、それが事の始まりだったのだらうが、つまり、その、つまり、その夢といふのが、つまり、黄金色に輝く、つまり、黄金の世界、つまり、それは眩い、つまり、黄金色の世界が、つまり、夢が占拠されてしまってゐて、つまり、そして、つまり、その黄金色の眩い世界には、つまり、一体の仏像、多分、それは、盧舎那仏だった気がするが、つまり、その一体の、つまり、仏像が、つまり、何かを語ってゐるのではあるが、つまり、私には、つまり、その仏像が、つまり、語ってゐる言葉が、つまり、全く理解出来ず、つまり、それでも、つまり、その仏像は、つまり、蜿蜒と、何かを、つまり、私に、つまり、語りかける、つまり、そんな奇妙な夢を、つまり、見たのさ。しかし、つまり、その仏像は、つまり、今、つまり、考へると、つまり、私が見知らぬ、つまり、全くの赤の他人の、つまり、死を、つまり、丁度その時刻に、つまり、その死者が、つまり、一体の仏像として、つまり、私の夢に、または、つまり、私がその死者の夢へ、つまり、赴いたのかは、つまり、解からぬが、つまり、その黄金色の仏像を、つまり、一瞥した刹那に、つまり、不思議な事に、つまり、事の全てを、つまり、了解してゐて、つまり、私は、つまり、その時以来、つまり、絶えず、つまり、私を通って、つまり、死者が、つまり、多分、つまり、憑依し、つまり、私に、つまり、その黄金が眩い、つまり、黄金の世界で、つまり、私には、つまり、訳が解からぬ、つまり、何かを、つまり、話してゐて、つまり、多分、つまり、私がその黄金の仏像が、つまり、何を、つまり、話してゐるのか、つまり、理解出来れば、つまり、私は、多分、発話能力を再び、つまり、獲得出来て、つまり、その時こそ、つまり、私は、つまり、《杳体》が、つまり、何なのかを、つまり、理解する筈だ。つまり、それまでは、つまり、私は、つまり、絶えず、つまり、赤の他人の、つまり、死者に、つまり、憑依され、つまり、続けるしかないのさ。
――それは私にもあなたに会って直ぐに気が付いたことだわ。『この人には見も知らぬ他人の死者が見えてしまふ』とね。今にして思ふととても不思議なのだけれども、何だかあなたとは心の会話が可能なのよね。不思議。
――つまり、私は、つまり、訳の解からぬ、つまり、事を、つまり、死者が、つまり、私の内界に、つまり、拡がる、つまり、闇を、つまり、通って、つまり、何処とも知れぬ、つまり、彼の世があるのであれば、つまり、彼の世へ、つまり、往く間、つまり、その一体の黄金の仏像は、つまり、絶えず、つまり、私が理解不能な、つまり、言語でもって、つまり、ずっと語り掛け続け、つまり、さうして、つまり、私の内部に、つまり、その一体の黄金の仏像が、つまり、棲み付いてしまったのだ。つまり、それ故に、多分、つまり、私は発話能力を、つまり、喪失してしまったのさ。
――それは神秘体験ね。よくイタコの人に口寄せが起こるのに類似した神秘体験だわ、きっと。
 と、雪が言ふと、数学専攻でヰリアム・ブレイク好きの乙君が、
――雪さんは、幽霊を、若しくは精霊を信ずるかい?
 と、訊いたのであった。すると、雪は、
――ええ、信ずるわ。でも、私は幽霊よりも今は無を信ずるわ。
 と、言ったのであった。
――無ね……。
 と、猊下たる丙君と、数学専攻の乙君が同じように呟くのであった。そして、雪は更に続けたのであった。
――しかし、あなたは、そのあなた自身理解不能な事に直面して「黙狂」に陥ったにも拘はらずに、そんな事はお構ひなしで、あなたに愛情を持って接してくださる此の方方を大切にしなくちゃね。それは、あなたにとって最大の慈悲に違ひないわ。
――つまり、慈悲? つまり、それは、つまり、私の内部に、つまり、棲み付いた、つまり、一体の仏像の、つまり、慈悲だね?
――ええ、さうよ。
 と、雪の言葉を聞きながら、私はゆっくりと瞼を閉ぢると、相変はらず誰とも知らぬ私とは全く赤の他人の見知らぬ誰かが、私の瞼裡の薄っぺらな闇に浮かびあがって、
――うぅぅぅぅあぁぁぁぁああああ~~。
 と、呻き声にならぬ呻きを発しながら、何処へかに向かって浮遊してゐるのであった。
 と、その刹那、再び光雲が二つ分かれながら、私の瞼裡の薄っぺらな闇の視界の周縁を一方は時計回りで、もう一方は、反時計回りでカルマン渦よろしく巡るのであった。
 私は、それを確認すると再びゆっくりと瞼を開けて、雪の顔を何となく見詰めたのであった。すると、雪が、
――また、あなたを死者が通り過ぎたのね。貴方の目にはまた、渦が見えるわよ。
――雪さんには《杳体御仁》が見えてしまふ、その死者の気配が解かるといふのかね?
 と、猊下たる丙君が、雪に尋ねのであった
――ええ。不思議なのですが、あなた、あなたはさっき、此の人と一緒にゐたから解かると思ひますけれども? どうかしら?
 と、雪は君を見ながら続けたのであった。
――此の人、私の頭に手を置いた刹那、卒倒した時、私は此の人が名状し難い私の過去の出来事、これはまだ、私は他人に語れる程には心身が落ち着いてないのですが、しかし、此の人は私の過去のその出来事を一瞬で見通したらしく、そして、此の人に或る死者が憑依した事が、これを第六感っていふのかしら、とにかく、私にはそれが疑ふべからざる全うな真実として受け取るしかなかったのです。不思議ね。私に、第六感みたいな能力があるなんて、此の人と会ふまで全く解からなかったのよ、《杳体御仁》さん。
 と、雪は君を見てゐた顔を私に振り向けながら、それは窈窕なる美しい笑顔で私に語りかけるのであった。
――これは初耳だな、丙君。
 と、ヴァン・ゴッホ気狂ひの甲君が飄飄とした趣で言葉を発したのであった。そして、甲君は更に続けて、
――この《杳体御仁》は、金色の仏像の夢については、これまでも言及した事はあったが、彼の身に死者が絶えず憑依してゐた事は全くおくびにも出さず、唯、何かに堪へてゐる様をそれとなく表はすだけで、彼の内界に激変が絶えず起こってゐた事には全く気が付かなかったぜ。この、水臭いぜ、《杳体御仁》の「黙狂者」君!
――さういふあなたは、幽霊を信じますか?
 と、雪が、甲君に尋ねたのであった。すると、甲君は、
――霊性なる《もの》は信ずるけれども、幽霊となると話は別なやうな気がして何とも言へないな。
――それはまた何故に幽霊に関しては何とも言へないのでせうか?
――何ね、《生者》よりも圧倒的に《死者》の数は多い此の現実において、幽霊が《存在》するとなると、《生者》は肩身の狭い《存在》でしかなくなってしまふ、つまり、あらゆる場面で《死者》が優位といふ世界に《生者》は堪へられるのかな、と、思ふのさ。
 と、甲君が尚も飄飄と言ったのであった。
――でも、《生者》は「先験的」に《死者》の《存在》を受容してゐるのではないかしら?