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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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審問官第二章「杳体」

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――其処さ。「黙狂者」に堕す外なかった彼のDilemma(ジレンマ)があるのは。つまり、無秩序に彼の頭蓋内の闇に同時多発的に一気に発話されようと「言葉」が無数に生まれるのだが、其処には言葉を口から発する糸口が全く《存在》しない。つまり、彼の頭蓋内の闇、彼はそれを《五蘊場》と名付けてゐるが、その《五蘊場》に過去、現在、未来、即ち、去来現が《存在》せず、彼は発話に関してはお手上げ状態で、筆記する事でやっと時間の移ろいを堪へ忍び、彼は《他》に己の思考を伝へる事が可能なのだらう。
 と、猊下たる丙君が言ったのであった。すると雪は、
――彼は、これまで一度も口を利いた事がない「唖」なの? つまり、彼は一度も発話と言ふ行為を経験した事がないの?
 と、雪は君に聞いたのであった。
――いや、彼はもともとは話せたのだが、思春期を迎へた或る日、突然と話せなくなってしまったのだ。
 と、君は言ったのである。
――ねえ、あなたが頭蓋内の闇、つまり、《五蘊場》だったかしら、その《五蘊場》で渦動する言語群と発話といふ行為が分断される事態に至ったのは、いざ、発話する段になると、あなたに纏ひ付く虚空に《吾》と《他》と間には踏み越え難い底知れぬ深淵を見てしまって、あなたはその深淵に眩暈を覚えて、《五蘊場》のみが卒倒するからなのね?
 と、雪は私に尋ねたのであった。私はNoteに、
――つまり、或いはさうかもしれぬし、また、つまり、或ひは全く違ふかもしれぬ。つまり、私には発話して、つまり、言語を音波に、つまり、波に変へる機能がぶっ壊れてしまったのさ。そして、つまり、私は自身でも知らぬ間に発話を断念してゐたのさ。つまり、書くといふ行為を通して言葉の跡が追へる、つまり、言葉に、過去、現在、未来といふ去来現を、つまり、見出す事が辛うじて、つまり、私に残された言葉を発する行為なのさ。つまり、私はその矛盾、つまり、不合理を受容するしかないのさ。
 と苦笑ひを私はする外なかったのである。
――そして、あなたは、《他》に言葉を発話出来ぬ故に、《杳体》だったかしら、その《杳体》と対峙する事が可能になったのだわ。
 と、雪が言ったのであった。
――成程、彼が「黙狂者」にしか為り得ぬ故に、《杳体》の出現か――。
 と、君が言ったのであった。
――そして、君は《存在》を簡略化したり、腑分けしちゃ駄目だと言ったが、しかし、人間、否、《存在》の思考法は物事を簡略化、つまり、抽象化せずにはをれぬ《もの》ぢゃないかね?
 と猊下たる丙君が、虚空を凝視するやうに言い放ったのであった。
――ねえ、あなたの言ふ《杳体》はもっと解かりやすく言ふと何かにAnalogy(アナロジー)出来る《もの》なの?
――つまり、例へば、つまり、磁石さ。つまり、磁石は、つまり、何処まで切断してもN極とS極が《対‐存在》する。ところがある人達の予想には磁石は、つまり、磁気双極ではなく、つまり、単極、つまり、N極のみ、S極のみの、つまり、磁気単極子(magnetic monopole)の《存在》があるが、つまり、今の処、magnetic monopoleの《存在》はつまり、仮説の域を出てゐないが、しかし、つまり、この磁石におけるNSの双極子は、つまり、多分、つまり、何処まで行っても、つまり、切っても切れぬ《存在》、否、事象であって、NS極を例へば肉体と精神と見立てると、つまり、《存在》は何処まで切り刻んでも肉体と精神の両極、つまり、細胞一つになっても、また、つまり、DNAの分子をさらに切り刻んでも、其処には必ず肉体と精神がPairとなって《対‐存在》し、つまり、肉体と精神は、つまり、宿ってゐるに違ひない。
――それで、あなたの言ふ《杳体》は、つまり、何処までもその《存在》を切り刻んでみても、其処には必ず肉体と精神、いえ、意識の方がしっくりくるわね、必ず肉体と精神に還元できる意識が《対‐存在》してゐるといふ考へ方を森羅万象に拡大解釈してみた、それが《杳体》の正体でせう?
――つまり、或る一面では、つまり、君の言ふ通りなのだが、そもそも意識ってなんだと思ふ?
――え、意識?
 と、雪はぽつりと呟いたきり何か物思ひに沈むのであった。
――うぅぅぅぅあぁぁぁぁああああ~~。
 相変はらず私が目を閉ぢれば、私の眼前の瞼裡の薄っぺらな闇には夢幻空花なる、私の見知らぬ全くの赤の他人の亡骸が呻き声にならぬ呻き声を発しながら、その赤の他人の彼が《存在》し、私もそれに加担してゐる《生》と《死》の狭間に開いてゐるであらうその虚空、それは私の虚空と断言しても構はぬに違ひないその虚空の何処ともしれぬ何処かへと、その赤の他人の彼は横たはり、ゆっくりと旋回しながら浮遊してゐるのであった。
――つまり、意識は、つまり、万物に、つまり、宿ると、つまり、思ふのかい?
 と、私は雪に筆談で尚も尋ねたのであった。しかし、雪はぢっと黙ったままでゐるので猊下たる丙君が口を開いたのであった。
――君にとっては万物に意識は宿るのだらう?
――ああ。つまり、さういふ事だ。つまり、此の世に《存在》する以上、つまり、此の世の森羅万象には、つまり、意識は宿る、つまり、意識は《存在》するのさ。
 と、私がNoteに書くと、丙君が
――君は意識は計量可能な何かだと思ってゐやしないかね?
――ああ。つまり、私は、つまり、意識の重さは、つまり、その《存在》の重さに、つまり、相関してゐると、つまり、看做してゐる。
 と、私がNoteに書くとヴァン・ゴッホ狂ひの甲君が、
――すると「黙狂者」の君は、《意識≒重力》なんぞといふ何の根拠もない無謀な事を考へてやしないよね?
――――うぅぅぅぅあぁぁぁぁああああ~~。
――つまり、否だ。つまり、私は、つまり、《意識≒重力》は、つまり、此の世に、つまり、《存在》する《意識》なる《もの》を、つまり、計量する、つまり、世界認識の、つまり、仕方の一つに、つまり、為り得ると、つまり、看做してゐる。
 と、私がNoteに書くと雪が突然、
――あなたの言ふ重力ってなんなのかしら? 私にはあなたの言ふ《意識≒重力》が何を象徴してゐるのかさっぱりわからないわ。つまり、あなたはBlack holeも何か得体の知れない意識の肥大化した《存在》と看做してゐるの?
――ああ。つまり、此の天の川銀河にせよ、アンドロメダ銀河にせよ、つまり、その中心に、つまり、あるといふつまり、巨大Black holeには、つまり、意識が、つまり、必ず、つまり、《存在》してゐる筈さ。
 と、私がNoteに書くと、ぽつりと文学青年の丁君が言ったのであった。
――それは、とんでもない思考の飛躍、ちぇっ、飛躍するのは、しかし、思惟の宿命だがね、君の考へ方は、とんでもない飛躍の仕方をした全く無意味な独断でしかないぜ。
――つまり、独断で、つまり、いいんぢゃないかい?
 と、私がNoteに書くと、
――また、それは何故にかね?
 と、丁君がぽつりと呟いたのであった。