黒歴史と普通という感覚
「惰性を生きているようで、それも最初は、辛いと思ったが、途中から、辛さもなくなってきた」
どんどん、自分の中で、嫌な気分が消えていき、いつの間にか、
「管理職になるのが嫌だ」
と思った気持ちが、
「黒歴史として封印された」
と感じるようになった。
それは、本当に黒歴史なのだろうか?
大人になってから、自分が、
「苦しまないでもいいように」
ということで、自分で学習し、
「生きていくすべのようなものを身に着けた」
といえるのではないだろうか?
それを考えると、自分が果たして、どう生きてきたのかということを思えば、恥ずかしくなるようなことは、
「あったとしても、子供時代の記憶なんだろうな」
と思う。
それだけさかのぼってみようとすると、
「遠い過去」
に感じるからだった。
しかし、過去の記憶ほど、その時系列が曖昧なものはない。
実際に、
「中学時代の記憶の方が、小学生の頃よりも、もっと前」
と感じることがある。
それは一度ではなく何度もである。
「それが、いわゆる、黒歴史による、記憶の封印」
というものなのだろうか?
大団円
そんな黒歴史というものを思いだしてみると、
「私ストーカーに狙われているの」
と言われた時、
「どう対処すればいいのか?」
ということが分かる気がした。
それはまるで、
「自分がストーカーになったかのような感覚になり、餅は餅屋になったかのような気がしてくる」
のであった。
だから、彼女の話を聞いていて、
「かかわってはいけない」
と思うのだった。
すると、彼女の顔が次第に情けない表情になってきた。
明らかに、
「自分に助けを求めている顔」
であり、
「雨に濡れた捨て猫が、弱った身体で、訴えている」
という風に見えるのだ。
猫は、水が嫌いだ」
という。
それを分かっていながら、猫がわざわざ水にぬれてでも、助けを求めているという感覚だ。
しかも、今のこの時期の、
「凍てつくような寒さの中」
でのことである。
そうなると、自分は、彼女にアドバイスをしていた。
「こうすると危ないので、前もって警察には連絡をしておいて、注意を厳重にしておいた上で、自分のいうことを聴いてほしい」
ということも忘れずにであった。
それを徹底した中で、送っているアドバイスであるが、
いっているのは自分なのに、まるで他人が喋っているような気がする。
その証拠に、
「自分の声ではないのだ」
というのか、
「自分の声というのは、しゃべっている自分が感じているのと、まわりで聞いている人とでは、感じ方がまったく違う」
一度自分の声を録音して聞いたことがあったが、実際にまったく違ったのだ、
だから、その声を他の人に聞いてもらって、
「俺の声じゃない気がするんだけど」
というと、それを聴いた人は皆口をそろえて、
「そんなことはない。お前の声じゃないか?」
と言われるのだ。
「実際に、複数の人に聞いてのこと」
だったのである。
それだけ自分の声が感じ方が違うということで、その時のテープの声がこの時のアドバイスの声であったのだ。
それを思えば、
「俺は一体、どう考えればいいんだ?」
ということであった。
「黒歴史というものを悪夢と同一のものだ」
と思っている。
もちろん、レベル的にも違うのだが、それは、
「何が起因しているか?」
つまりは、
「夢か現実かの違い」
と考えれば、
「今アドバイスをしている俺は、夢を見ているのだろうか?」
とも考えられた。
「するとこれは悪夢なのか?」
と考えると、夢なのかどうなのかを考えた。
これが起きていて感じていることであれば、
「黒歴史のたぐいだ」
といってもいいだろう。
黒歴史というものが、自分の中で、悪夢と同じものだと考えると、
「この状況は、自分が悪夢から逃れようとしている」
ということなのか、それとも、
「黒歴史にしてもかまわないから、彼女を助けたい」
と思ったということであろうか?
しかし、自分にそんな、
「偽善者的なところがあるとは思えない」
となると、
「自分の中にある黒歴史の封印を一度解いて、そして、罪の意識から、呵責を取り除かなければいけない」
と考え、
「それがいまではないか?」
と考えているのだろう。
つまりは、
「一度は黒歴史というものを自分の中からはじく必要がある」
ということで、そのために、
「悪夢として世に起こし、黒歴史として封印する」
ということをしないといけない。
「そのタイミングに今の俺はいるんだ」
と考えたのだ。
それを考えた時、
「何を封印すればいいのか?」
ということを考えさせられる。その時、自分の意識ではない言葉が出た。
「普通って何なのだろう?」
とボソッと言ったのだ。
「普通って、一般的ってことかしらね?」
と彼女がいうので、自分はその言葉に急激に反応した。
「普通が一般的? 俺、その言葉が一番嫌いなんだ」
といって、そのまま気絶してしまったという。
気が付けば、病院の救急治療室にいた。話を聴けば、
「いきなり、お風呂屋さんで暴れ出した」
ということであった。
結局、お店には出禁ということになり、そうなると、ウワサは広がるもので、あの地域のお店にはいけなくなる。
いや、それよりも何よりも、
「精神疾患の疑いがある」
ということで、入院と精神鑑定が行われるという。
「心配しなくてもいいですよ、あなたのような患者さん、毎日のように、たくさん出てきますからね」
と冷静に医者はいう。
「毎日数人出てくるって? だったら、精神疾患の患者でどれだけの日数があれば、ほとんどの人が精神疾患になるんだろう?」
と、医者の言葉に驚くどころか、そんなことを考えた自分を他人事のように思えて苦笑いをしている自分がおかしいとは、まったく思っていなかったのだ。
( 完 )
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作品名:黒歴史と普通という感覚 作家名:森本晃次